第12話 モンペリエの町。ギルドへ
モンペリエの町は魔物の襲撃から守る為に高い壁でぐるりと囲まれていて、その周囲は耕作地が広がっている。季節はやはり夏なのだそうで、畑には雑多な草が青々と茂っていた。
彼らの主食は麦で、これらの耕作地では主に麦を育てている。だが今は既に7月。麦の刈入れは早く6月には終える。今は休耕の為に放置されて雑草が生い茂っている状態だ。
ただ全てと言う訳でも無い。町へ近付けば比較的手入れされた畑が多く、こちらではそこかしこで様々な野菜が育てられていた。種が入手できれば、畑も作って見たいな。資金に余裕があるなら買って済ませても問題は無いと思うが、クラフターたるもの自分で育ててこそだと言える。その為には草刈り鎌で採取する事で、低確率で種を入手する事が可能になる。クラフトモードで遠目に畑を見れば、ゲームの時と同じ様に野菜が実っているのが見て取れるので、恐らく採取自体は可能だと思う。
町へ入ると、思ったよりも栄えている印象を受けた。ここまでくれば魔獣に襲われる事も無いだろうから、リアルモードへと切り替える。
クラフトや戦闘の際は慣れ親しんだクラフトモードの方が何かと簡単だ。恐らく敵の動きもクラフトモードの影響を受けている様な気がする。何と言うか、一度試しにとリアルモードで狼と対峙した事があるのだが動きが素早く、またパターンが掴みにくくて剣を当てるのもクロスボウを命中させるのも、かなり苦労をした。敵の動きが早く変則的な事に加えて、何より手に持った剣もクロスボウも重いのだ。クラフトモードなら思う重さを感じないのだから、その違いは明白だった。
アンヌが俺の射手としての腕前をかなり評価してくれたが、恐らくはクラフトモードの影響だからだと思う。何と言うか、俺のクラフトモードの動きと彼らから見える俺の動きには隔たりがある様に思えるのだ。まぁ狼の動きを見ても明らかに違っているので、何某かの影響が有るのだろう。
エターナルクラフトでは、余りアクション性は重視されていなかったから複雑な動きを要求される事も無かった。VRゲームではプレイヤーの身体能力やアクション性を要求するゲームも多いそうなので、そんなゲームなら俺ももっと苦労した事だろう。
なら、ずっとクラフトモードでいいじゃ無いかと思わなくも無いのだが、リアルモードで無ければ感じられない空気感がある。
町に入ってリアルモードに切り替えると、先頭を行く荷車に載せられたジャイアントスパイダーの迫力が否が応にでも増し、視界一杯に色とりどりの服に身を包んだ町の人々の姿が飛び込んで来た。それまではどうしてもテクスチャーを貼っただけな感じで、模様や意匠はある程度解るのだが立体的な部分までは判別が付かない。リアルモードに切り替えると俺自身が身につけている防具の感触まで変わるのだから不思議なものだ。
町の人々の服飾はかなり発展している様に思える。様々な色に染色されて、意匠を凝らした服を思い思いに身に付けている。腕輪や首飾りで着飾っている人も少なくは無い。
町に並ぶ家も、レンガ積みや漆喰で塗られた壁の家等、素材も建築様式も雑多で様々だった。通りに面した家は2階建てが多く、比較的建築技術自体が発展している様に見える。多少曇ってはいるがガラスを窓にはめ込んだ家も少なくは無い。その景色はどこか外国の観光地にでも来たかの様な気分だ。休みはずっとエターナルクラフトだったからそんな経験は無いのだが、ちょっとウキウキしてくる。
通りを暫らく歩くと、少し開けた場所に面した3階建ての建物にようやく辿り着いた。
「タクヤさん、お疲れ様でした。ここが俺達が所属している冒険者ギルドです。」
「ここまでありがとう御座います。」
「それではクエストの終了報告を済ませてきますので、少々お待ちください。」
ギルドの入口は大きく開いていて、ポール達は荷車を引いてそのまま中へと入っていく。中に入ると、ギルドは結構賑わっていて、そこに居た人達がジャイアントスパイダーを見て歓声が上がった。話に聞いた通りジャイアントスパイダーはかなりの大物の様で、獲物を見て驚く声、称賛する声、ポール達の無事の帰還を祝福する声等が入り交じって聞こえて来た。
あれだな、大口の契約をまとめて来た時の、部内の雰囲気がこんな感じだった。まぁ大抵はその夜は飲み会だったから、俺には余り嬉しくは無かったのだが。
しばらく待つと手続きを終えてポールが戻って来る。
「タクヤさん、お待たせをしました。お約束の例の物です。」
そう言って革袋を渡してくれた。手に持つと大きさに似合わずズシリと重さを感じる。微かに貨幣が擦れ合う音が聞こえる。ここで開いて確認するのはさすがに人目に付くからそのまま手に持っておく事にする。人目に付かない場所でアイテムボックスに収納が出来ないか試してみよう。
「登録はこのまま済ませますか?」
「また改めて時間を取らせるのも申し訳ないから、お願いしても良いですか。」
ギルドでは、冒険者登録の際にポールに紹介をして貰う事になっていた。
ポールはそのまま改めて受付へ戻ると、そこに居た、キリッとしたキャリアウーマン風の女性に声を掛けてくれた。
「ベアトリス、ちょっといいか?」
「ポールさん、どうしました?」
「ギルドマスターは時間取れるかな。ちょっと報告と相談があって、会いたいんだけど。」
「あら、クエストの手続きは完了したと思いましたが何か不備が御座いましたでしょうか。」
「いや、手続きは問題無くちゃんと済ませてくれたよ。何時もありがとう。ちょっとここでは話がし辛いんだけどお願い出来る?」
「かしこまりました。確認して参りますので、少々お待ちください。」
一礼をするとベアトリスと呼ばれた女性は、カウンターを出て奥の階段へと向かった。
受付には他に2名座っていて、今も並んでいる冒険者の対応を順に進めている。先程の女性はここの責任者の様だ。ギルドマスターと言えばここのトップだから、会社なら社長みたいなものだろう。詳しい話をせずにトップに面会出来るのだから、やはりポール達はこのギルドでは比較的高い立場に居るのだろうと推測する。一人でこの町へ来たのなら色々と勝手が解らずに面倒な事になったと容易に想像が出来るから、彼らと知り合えたのは僥倖だった。
程無くしてベアトリスが戻り、そのまま俺達をギルドマスターの元へと案内をしてくれた。
ギルドマスターの執務室は3階建てのギルドの一番上の階、その一番奥まった場所にあった。偉い人の部屋が一番奥にあるのは何処でも一緒なようだ。
「マスター、ポール様をお連れ致しました。」
「うむ、入ってくれ。」
案内されて中に入る。広めの書斎風の部屋だ。両脇には様々な書籍をぎっしりと並べた、作りの良い書棚が並んでおり、床にはカーペットが敷かれていて中央には応接用のかなり大きなテーブルが置かれている。テーブルを囲む様にソファーが置かれていた。
奥には執務用の机があるが、その上は所狭しと書類が重ねられていた。俺達が部屋に入ると作業の手を止めてギルドマスターが立ち上がり挨拶をしてくれる。
「やぁポール、クエストは無事完了したと聞いたよ。すまなかったね。」
「いえいえ、モーリスさん経由の急ぎ仕事ですからね、断る訳にもいきませんし。」
「そう言って貰って助かるよ。ところで話があると聞いたが、そちらの方に関連する事かな?」
「そうですね。こちらタクヤさん、大蜘蛛の森でお会いしまして、この方の事でお願いがあって相談に来ました。」
「タクヤと申します。宜しくお願いします。」
慣れ親しんだ営業スマイルを浮かべて、丁寧に腰を折る。
「うわ、何時もと全然違うんだけど。」
後ろからアメリーの声が聞こえる。失礼な奴だ、お偉いさんに面会するのだか態度を改めるのは当然の事だろ。第一印象はとかく大事なものだぞ。
「まぁ立ち話もなんだ、かけてくれ。」
ギルドマスターは奥の椅子に座る。テーブルはかなり大きめでそれを囲う椅子もゆったりとした作りなので、6人位なら座れそうだ。アメリーは遠慮なくささっと手前の椅子を陣取ってしまった。思わずポールと目が合い、苦笑がこぼれた。
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