第11話 町へ

その後、彼らはちょっと離れた場所から荷車を引いて来た。

俺の拠点から少し離れた場所にある少し盛り上がった小さな丘の陰で昨晩から野営をしていたらしい。火も焚かずに身を潜めて居たそうなので、気づく筈も無かった。


ポール達はジャイアントスパイダーの死体を手早く荷台に括り付けて、あっと言う間に運ぶ準備を整えた。ジャイアントスパイダーの巨体は結構な重量がありそうな気がするが、アメリーが軽量化の魔法を使う事でこの人数でも何とか持ち上げる事が出来るそうだ。凄いな、魔法! 


その間に俺も旅支度をする。まぁ支度と言っても拠点を再登録して収納するだけだ。

登録機能は範囲を指定する事でそこにある設備等を一式纏めて登録する事が出来る。勿論自分がクラフトしたものだけに限られる。不要になった場合、ワンタッチで素材に戻す事も可能だ。


何時も通り考えなしに拠点を丸ごと収納すると、今までにない以上の剣幕で問い詰められた。仕方が無いので、自分が作ったものなら一定範囲のものを丸ごと持ち運べるのだと説明をする。

ついでに再設置も実演して見せた。ポール達からは、もう何1つ言葉は出てこなかった。


俺に取っては当たり前だったから、彼らの反応を見る迄拠点の出し入れが異常なのだと全く気が付かなかった。そりゃそうだ、普通に考えれば有り得ない話だ。拠点の出し入れに比べれば先程の素材採取位、何て事も無い気がする。

クラフターである俺にとっては当たり前の事だし拠点やクラフトした製品の数々は生命線でもある。それこそモンスターの住処に拠点を設置せずに居座る事なんてあり得ないし、身1つでは夜を越える事だって難しくなる。今後も素材を採取する為に色んな場所へ出向く必要もあるだろう。なら隠す事なんてどうやっても出来る筈は無い。まだまだ解らない事だらけだから慎重さも忘れてはいけないが、どうせ隠し様が無いなら、よし大いに開き直る事にしよう!人間、諦めが肝心だと思う。決して最初から隠す気が無かったのでは無い。


それにここだけの話だが技術ツリーの研究を進めて行けば、その内宇宙にだって行けるのだ。それこそ宇宙船の建造に比べればどれもが些細な事の様に思えた。いや、その手前で高層ビル建てたり発電所を建てたりも出来るな。何処までならセーフかな?


拠点を再設置すると5人はまるでフリーズでもした様に固まっていたが、しばらくしてようやく動くようになった。当然説明を求められたが、笑顔で詳細は解りませんよ、と答えて置く。


何にしても旅支度は整ったので町を目指す事にした。


そこからの旅路は、ポール達にとっては恐らく俺との出会に比べれば平穏だった筈だ。

町から大蜘蛛の森は半日程の距離にあると言う。元々彼らは昨日中には森へと辿り付き、日が沈むまでにジャイアントスパイダーの討伐を完了して帰途に就く予定だったのだそうだ。

だが、途中不自然な場所を発見し、その調査に時間を取られてしまったらしい。異常を発見すればギルドへ報告する必要が生じる。急ぎ仕事の最中だから無視する手もあったが、高ランクの冒険者としては模範を示す意味でも素通りは出来なかったそうだ。まぁその原因は俺だったのだが。


先程、拠点を撤去した後の正方形に整地された地面を見て、実のところ俺の仕業では無いかと疑ってはいたが得心がいったらしい。拠点を設営する為には十分な広さを整地する必要があるのだと説明をしておいた。もしかしたらギルドでも同様の説明を求められる可能性はあるそうだ。多分理解はして貰えないと思うけど。


俺としては今後の活動の為にもギルドに登録をしたい。素材を買い取ってくれるのであれば収入が得られるので色々と助かると思うのだ。どうせなら現地の文化や料理も味わってみたい。

アイテムボックスには金や銀の鉱石もあるし、加工前だが宝石類もある。お金には困る事は無いだろうと踏んではいるが、それを何処に売るかが問題だった。あんまり派手にやって目に付くのも避けたい気がする。ギルドが素材の買取をしているのなら、任せてしまうのが無難な気がする。


「ところでポールさん、ギルドに登録する為には何が必要でしょうか。」


「そうですね、一番は魔物を倒せる実力です。まぁ、俺らはあれだけのジャイアントスパイダーをあしらえる事を知っているのでタクヤさんの実力は疑い様も無いんですが、タクヤさん自身は何が出来るんですか?」


ポールには登録にあたって俺に何が出来るのかと聞かれた。ギルドは魔物狩りを主な目的としているので、どうやって戦えるのかと言う事で職業的な意味でだ。戦士や狩人と言った職業を申告する必要がある。実力を見定める為のテストがある事もあるらしい。


俺の基本装備と言えば前述の通りユニーク級の防具一式にレジェンド級の鉄の剣。あと剣を振っては見たが十分に扱えるか不安が残るので、レジェンド級のクロスボウとコモンの強化型複合弓を用意しておいた。


クロスボウの扱い方はシンプルなものだ。本来は巻き上げ機を使って弦を巻き上げ、それからボルトを装填するので非常に手間がかかるらしい。だがゲーム仕様ならそんな心配は無用だ。トリガーを引いて矢を放てば、勝手に弦は巻き上がってボルトは装填された状態になる。

どうやって装填されているのかは謎だが、そもそもアイテムボックスから取り出した素材はいきなりそこに現れた様に見える。リアルに見れば置くまでに過程をすっ飛ばしている訳だ。それを考えれば撃ったクロスボウが、数瞬後には装填された状態になっている事は大差が無い。うん、きっと大した事では無い。そんな事は無いか。


因みにクロスボウには巻き上げ時間を考慮したリチャージタイムが設定されているが、等級が上がるとその時間も短縮される。レジェンド級ともなればその時間は僅か0.5秒。待ち時間が無い訳では無いが、連射が出来ない程でも無い。


強化型複合級は、動物の腱と木材を組み合わせて作った、アーチェリーに似た弓だ。滑車が付いていて少ない力で引く事が出来る。ただ知識としてはそう言うものだと知っていてもリアルで引くには俺には力が足りなかった。クラフトモードなら簡単に弦を引けるし、弓を支持する腕もブレる事は無い。

等級がコモンなぼは、強化型はレア種の大型魔獣から採取出来る動物の腱と、高級木材でクラフトが可能なアイテムだからだ。単に手持ちの素材では、まだ必要数が確保できて居なかった。


動物の腱は肉切り包丁では採取する事が出来ない。ピッケルを使用すると肉は採取出来ない代わりに骨と腱が採取できる。狼の肉はそれなりの数を確保出来たので、最近はピッケルで解体をする事にしている。そこそこの量は確保済みだ。


因みに、素材には一見名称は違っても同一カテゴリに見做される物が結構な数存在する。先程の大型魔獣で言えば大狼もそうだし、他にも虎や熊等色んな獣に属する魔獣の大型種が存在する。大狼の皮も大虎の皮も、分類は大型魔獣の毛皮に分類され、レシピの必要素材にはそちらの名称で記載がされている。

強化型複合級のレジェンド等級レシピも有るにはあるが、大型種自体の出現数が少ないし、その中でも腱は剥ぎ取り出来る確率が低く現時点でのストック数も余り無いので強化型複合弓は取り敢えずコモン等級でクラフトした。



ポール達一行は内3人は女性な事もあってか、前衛のポールとジェロームが力仕事を担当しており荷車を引いて歩いていた。一見するとかなり重そうだが、アメリーが荷車に常時軽量化を施しているので、そこまで重くは無いらしい。


そうすると魔獣の襲撃があってもポールとジェロームは直ぐに動ける訳では無いので、移動中はアンヌが斥候として警戒に当たっている。アンヌが敵の接近に気付けば、ポールとジェロームも直ぐに臨戦体制を整える。示し合わせた様に連携を取る彼らの全く無駄の無いその動きを見ると、年齢に似合わず歴戦の戦士である事が窺い知れた。因みに一番年長に見えるジェロームでも20台半ばと言った所だろう。


昼でも少ないとは言えモンスターが出ない訳では無い。夜に比べれば数は格段に減るし、驚異度の高いモンスターは夜にしか出現しない事が多く、昼に出現するモンスターの脅威は遥かに小さい。

町に戻るまでに2回狼の襲撃があった。1回目はポール達が瞬く間に片付けてしまったので、2回目はポール達にお願いをして、俺のクロスボウを試し撃ちさせて貰う事にした。

そこそこ射程があるので、近寄って来る狼に狙いを定めて撃つだけの簡単なお仕事だ。2回目の襲撃は狼が4体だったが、瞬く間に殲滅する事が出来た。

狼の素材は、ポール達は荷車が一杯で持ち帰る余裕が無いそうなので、ありがたく俺が剥ぎ取りをする事にした。


俺のクロスボウの腕は、弓使いであるアンヌから見ても及第点を貰えた。彼らの薦めもあって、ギルドに登録する時は職業狩人で通す事にした。これ程の腕なら仮に実力を試されたとしても、問題は無いだろうとの事。ただ、クロスボウの矢が自動で装填される事については説明が必要になるかも知れない。


町への道すがら、モンペリエの事を教えて貰った。

ボルドー王国の南部に位置する、比較的辺境の町。平原の真ん中に位置し、周囲は肥沃な穀倉地帯に囲まれている。


町から少し離れた丘陵地帯でブドウを栽培しており、そこで収穫される品質の良いブドウで造られたワインが名産品。あとは半日離れた場所にある大蜘蛛の森に出現する大蜘蛛から取れる素材と高級木材が特産との事。


ジャイアントスパイダーの討伐は容易ではない為、定期的に高級木材の伐採とジャイアントスパイダーの討伐を目的とした大規模な遠征隊が組織される。ポール達は遠征隊の隊長を勤める事もあるそうで、先に聞いた通りモンペリエでは有数の冒険者なのだそうだ。そんな人達と知己を得られたのは幸運だったと言える。


ついでにクイーンジャイアントスパイダーについても質問をしてみた。存在は知られては居るが討伐された事は無いらしい。昔領主が結構な規模の軍を率いて討伐を試みたそうだが、全滅したとの事。それ以来、森の中心部まで挑んだ者は居ない。スパイダーシルクも比較的森の奥へ行かなければ纏まった数を採取する事が出来ない為、特産品と言える程の量は流通していないそうだ。

多分俺が持っている素材の中でなら、スパイダーシルクが一番高値で買い取って貰えるとの事。加工済みだったらどうかと聞いてみたが、素材が希少な上に扱いも繊細で専門的な技術が要求されるので、素材以上に加工品は貴重で品質によっては値段が付けられないそうだ。


布への加工はクイーンジャイアントスパイダーの討伐によるレシピのアンロックが必要だが、課金レシピであれば一次加工をすっ飛ばしてクラフトが可能なレシピもある。そうしたレシピを利用してクラフトをしたアイテムの1つ、スパイダーシルクのカーペットを取り出して道すがらポール達に見て貰った。

これだけのスパイダーシルクを使って製作された製品は殆ど存在しておらず、肌触りや発色を含めて最高級品。値段が付けられないので王室へ献上されるか、もしくはオークションに掛けられるだろうとの事。王室に献上した場合の金額は王室の言い値になるが、相場と照らし合わせて妥当な値段かむしろ相場よりも高い値段に落ち着くのが通例なので、安く買い叩かれる事は多分無い。少なくとも献上品に選ばれるなら白金貨は下らないとの事だった。


町ではその辺りの情報も踏まえて活動をしようと思う。ポール達は町でも有数の実力者との事なので、彼らを基準にして考えると今の装備でも早々遅れをとる事は無い筈だ。だからと言って余り気を抜くのも良くは無いだろうが。


道中は合間にそんな話をしつつ、それ以外には狼の襲撃位で特筆する事も無く、昼過ぎには町に到着する事が出来た。


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