第10話 剥ぎ取りの実演、神の御業

ジャイアントスパイダーの取引については無事にまとまった。だが1つ忘れていた事があったのを思い出したので、慌てて条件に付け加えられないかをお願いする事にした。


「金額については金貨50枚で構いません。そのかわり、モンペールでしたっけ?町まで同行をさせて貰えないでしょうか。」


「町の名前はモンペリエですね。まぁ俺は構わないけど、皆はどう?」


ポールが仲間を見渡すと、皆一様に頷く。反対はされていない様で安心した。アンヌやアメリーが疑っている気配はまだあるが、少なくともそこまで嫌われている訳では無さそうだ。


「ねぇポール、話が終わったなら私も質問してもいい?」


「仕方が無いな。タクヤさん宜しいでしょうか。勿論答えられない場合は無理に答える必要は有りません。」


「それなら構いませんよ。私も何か気が付いたことがあれば、お尋ねすると思いますし。」


待ちきれなかった様子の今のアメリーを見ると、どうやら疑っていると言うよりも好奇心が勝っていた様に思える。質問の声音を聞いてもそれは明らかだった。


「さっきのジャイアントスパイダーがいきなり消えるの、あれって何をしてたの?どんな魔法?」


「ああ、あれは魔法では有りませんよ。普通に剥ぎ取りをしてただけです。」


「剥ぎ取りって?ごめんなさい、遠目には見てたのだけど全くどうやっているのかが解らなくて。」


「そうですねぇ、説明が難しいですしお譲りするジャイアントスパイダー以外にもまだ2体残ってますし、実演をしてみましょうか。」


「是非、お願い!」


その後は席を立って、アンヌ以外は拠点の外に向かう。アンヌは拠点の方に興味が有る様で見ていいかとお願いをされた。特に見られても盗られても困る物は無いから構わないと返事をする。


外に出ると、手近なジャイアントスパイダーへと向かう。実際に剥ぎ取りを行いながら説明を行う。


「これは剥ぎ取りに使用する肉切り包丁です。食材が欲しいのでこれを使用してますが、甲殻メインならピッケルでも採取は可能です。さて、こうやって突き立てると、一定数素材をアイテムボックスに獲得する事が出来ます。この肉切り包丁はレジェンド級なので、追加で1から5回剥ぎ取りが出来る場合が有ります。なので1匹当たりの剥ぎ取り回数は基本の5回から最大で10回です。」


俺は説明をしながら、何度か肉切り包丁を獲物に突き立てる。今回の剥ぎ取り回数は7回だった。


「はい、今回は7回ですね。この様に最大回数剥ぎ取りを行うと、剥ぎ取りを完了した魔物は綺麗に無くなります。そして、これが剝ぎ取った素材です。」


アイテムボックスから、加工前の大蜘蛛の甲殻。蜘蛛の糸、大蜘蛛の足、大蜘蛛の牙を取り出して目の前に並べる。まぁ並べると言ってもアイテムボックスから素材を選んで設置場所を指定するだけだが。。


因みにアイテムボックス内のアイコン表示だとそれ程の大きさを感じないが、リアルにすると結構な大きさになる。何せ大蜘蛛の背中の部分にあたる甲殻なのだ。優に2m位はあった。


因みに蜘蛛の糸は剥ぎ取り1回につき確定で1個。甲殻は3~4回に1個で足は1~2回に1個程度は獲得する事が出来る。大蜘蛛の牙はレア素材で、2~3体に1個程度だ。いちいち何を獲得したのかは何時もならチェックはしていないが、今回はちゃんとメッセージで確認していた。なので今回の剥ぎ取りの成果を並べていく。蜘蛛の糸が7個、大蜘蛛の甲殻が2個、大蜘蛛の足が4個に大蜘蛛の牙が1個だ。


「これが、今回の剥ぎ取りで獲得した素材になります。」


ポール達の唖然とした視線が痛い。


「え、全く意味が解らない。これって何処から出て来たの?何故甲殻が2個あるの?どうやって剥ぎ取りをしてるの?それに、この甲羅全く傷が無いのだけれど何で???」


「本当だ、すげーーー。この甲羅傷1つ無いんだけど、凄くない、これ?」


アメリーが俺の取り出した甲羅に駆け寄って興奮気味にそう言う。ポールも慌ててその後に続いて甲羅に触っている。


言われてみると確かにそうだ。リアルだとクロスボウに貫かれたジャイアントスパイダーはまるで針山の様で、甲殻も穴だらけになっている筈だ。でもこうしてアイテムボックスから取り出した甲殻には傷1つ無かった。それに背中の部分の甲殻は形状を考えれば1匹から1個しか取れない筈だ。それが2個あるのも確かにおかしい。


でもおかしいと言われてもゲームでは当たり前だったから、何でと聞かれても答えようが無い。さて、何と答えるべきか。うん、説明が出来ないのだから正直に答えるしか無いな!


「何故こんな事が出来るのか、どうやっているのかと聞かれたなら、解りません!」


開き直って声を大にして言った。困った、皆の視線が痛い。解るよ、気持ちは解る。でもね、解らない物は解らないんだ。


さすがにどう突っ込んだら良いのか、皆言葉が出ない様だ。


「そうですね、稀に神から特別なスキルを賜る方がいらっしゃるとは聞きます。あなたのそのお力も、もしかすると神から賜ったものかも知れませんね。もしくは、それ程のお力ですから神の御業そのものなのかも。」


とはフランシーヌ。まぁ説明が付かないのなら、確かに神のお陰とでも言った方がまだ通りは良い気もする。神か。この世界がどんな世界かはまだ解らないが、ここに連れて来た奴が居たのだとすればそんな事が出来るのは神様位な気もする。

この時、フランシーヌの瞳が怪しげな輝きを浮かべて居た事を俺は気が付かなかった。


「そうですね、確かに神から賜ったものなのかも知れませんね。そうとでも考えないと説明のしようも無いですし。」


「まぁ解った。詮索しても、結局のところ俺らにはまるで解らないと言う事は理解できた。アンヌはどうだった?」


拠点を一通り見て来たのか、丁度合流したアンヌにポールが声を掛ける。


「同意。まるで解らない。クロスボウがどうやって敵に照準を定めたのかも理解出来ないし、ボルトをどうやって装填して巻き上げているのかも謎。」


「アメリーはどうなんだい?魔法では出来ないのか?」


「さすがに無理に決まっているでしょ。確かに色んな魔道具があるけど、流石にこんな事が出来る魔道具なんて聞いた事が無いわよ。伝説の大魔法使い様なら出来るかも知れないけど、それだけの魔法が使えるならこんな回りくどい事をしなくて、手っ取り早く直接吹き飛ばすんじゃない?だとしても、死体がいきなり消えて素材になるなんて、どう考えても無理よ!」


剥ぎ取りをすればアイテムボックスに素材が収納される。これは俺にとっては常識なのだが、やはり彼らには理解が出来ないらしい。まぁ俺も説明をしろと言われても困る。ゲームの仕様だからと言っても理解して貰えるとは思えないしね。ならば、今後同じ様に聞かれる事があれば、神から授かったスキルと説明するのが良いかもしれない。どんな神様かは知らないけど。


「まぁこれ以上調べても何も解りそうにないし、そろそろ出発した方が良くない?せっかく1体は譲って貰える事になったんだし、出発は早い方が良いでしょ?」


「そうだね、アメリー。タクヤさん、町まで一緒にお越し頂けるのであれば手持ちの金貨が少し足りないので、金貨50枚の支払いは町に戻ってからでも大丈夫でしょうか?」


「あ、案内して頂けるのであれば大丈夫です。お願いします。」


と言う訳で、話し合いは一段落し、俺達は一路町を目指す事になった。

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