第8話 現地人との遭遇
俺は元々人付き合いが得意な方では無い。数あるVRゲームが流行っては居たが、ゲームの中でもNPCとのコミュニケーションに苦手意識を感じていたので、そう言う意味でもエターナルクラフトは俺に向いたゲームだったと言える。
NPCは、NonPlayerCharacterの略。PlayerCharacterとは、俺達プレイヤーが操作するキャラクターの事で、頭にNonを冠するNPCは俺達が操作するキャラクター以外のキャラクターを意味する。
現在ではAIが発達していて、NPCであっても殆ど生身の人間と変わらないコミュニケーションを取る事が出来る。
それはこのエターナルクラフトでも変わりは無かったが、ピクセルによって表現されるデフォルメされたキャラクターからは殆ど人間臭さは感じられなかった。
その点もあってコミュニケーションが苦手な俺でも、比較的気楽にコミュニケーションを取る事が出来たのだ。
今の俺はクラフトモードだからか、近寄って来る集団は見慣れたピクセル表示の姿をしている。きっとリアルモードにすれば、普通の人間に見えるのでは無いだろうか。
とは言えクラフトモード中の今なら、いつもと同じ様に会話が出来る気がした。
「すいません、ちょっといいですか?」
背中に自分の身長と同じ位の巨大な剣を担いだ男が、1歩進み出て俺に近づくと、そう声を掛けて来た。
キャラクターの外見はカスタマイズで比較的自由に調整する事が出来る。だが武器や防具は固有のグラフィックがあり、同じ装備をすれば同じ外見表示がされる。
その男が身に付けている防具や背負った剣は、少なくとも俺が知る装備品には該当する物が無かった。それは他のメンバーも一緒で、中にはどう見ても魔法使いにしか見えない格好をしている女性も居る。
さて、初めてあった人達に対して俺が余り警戒をしていないのには当然訳がある。単にゲームと同じピクセル表示だからでは無い。それは、彼らがエネミーカラーでは無かったからだ。敵対勢力であればNPCであっても名前がエネミーカラーになり、直ぐに敵対している事が解る。
彼らの上部に表示されている名前は水色だから友好的ではないものの敵対していない事が解る。だからなるべく穏便に、友好的に会話を試みる事にした。
「はい、なんでしょうか?」
「私は白金の鷹のリーダーでポールと言います。すいません、まず私達はあなた達に敵対するつもりは有りません。余りに不思議な事ばっかりだったので幾つか質問をさせて頂きたいのと、出来れば取引をお願いしたいと思ってます」
「ん? あなた達、ですか?」
はて、ここに俺以外の誰かが居たのだろうか。隠密性能の高い装備もあるから、居ないとは断定出来ない。驚いて周囲を見渡してみるが、少なくとも今の俺に解る範囲ではここに居る人以外の気配を感じる事は出来なかった。
俺が驚いて周囲をキョロキョロと見渡していると、ふと気がつくと目の前の5人も一様に驚いた表情をしていた。何か思い違いがある様に思える。
「はて、ここには私しか居ませんが、他に誰か居ましたでしょうか」
「...あ、すいません。あれだけのクロスボウですから、てっきり操作している方が何人かいらっしゃるものだと。それに、これだけの砦の構築をお一人でとは」
成る程、この人達はきっと何処からか防衛設備がジャイアントスパイダーを撃退したのを見ていたのだろう。
「ああ、あれは自動迎撃システムですよ。誰かがわざわざ照準を合わせて撃っている訳では無いです。この拠点も俺一人でクラフトした物ですね。それ程技術レベルが高い訳では無かったと思いますが、違いましたでしょうか」
「え、自動、え? すいません、これ程のものは見た事が無かったのですが、技術レベルが高く無い?」
リーダーと名乗ったポールは、随分と素直な性格の様だ。表情がコロコロと変わって解り易い。逆に後ろに居るメンバーは、訝し気な表情でこちらを見ており、時々仲間内でこそこそと話をしている。
少なくともポールの驚いた様子を見る限りでは、自動迎撃システムは余り一般的では無いらしい。この時点で、少なくとも彼らが俺の知るエターナルクラフトの住人では無い可能性が高まった。
それに彼らの装備を見る限りでは、火器の類を持っている様にも見えない。どの程度の装備品なのかは見掛けでは判断が出来ないが、彼らに傷つけられる可能性はぐっと低くなった。どうせなら彼らから可能な限り情報を収集したいと思う。
それに彼らが無人の荒野から来たと言う事は無いだろうから、きっと何処かの集落なり町から来たのだと思う。出来ればその辺りの情報も欲しい。今の所思ったよりもスムーズに会話も出来ているので、何とか友好的に振る舞いたいものだ。
「ああ、すいません。多分色々と認識に違いが有る様ですね。出来ればその辺りの事を聞きたいと思うのですが、お時間とかは大丈夫ですか?」
「え、はい。時間は大丈夫です!」
そう大きな声で返事をしたポールの脇を後ろに居たアメリーが、両手で持った大きな杖で突く。
「ポール、私達依頼の途中。余り時間に余裕は無い」
アメリーは裾を引き摺りそうな丈の長いローブを羽織っていて、頭にはとんがり帽子を被っている。手に持っている杖も相まって、何処からどう見てもその格好は魔法使いのそれだ。
「ああ、そうでした。多少は時間を取れるとは思うのですが、実はお願いが有りまして。」
「ではここで立ち話もなんですから、中にご案内しましょう。剥ぎ取りを終わらせますので、少しお待ち頂けますか?」
「剥ぎ取りって言うと、さっきのあれですか! 実はお願いと言うのは、そのジャイアントスパイダーを1体譲って頂きたいのですがお願い出来ないでしょうか!」
「ああ、お願いってそう言う。1匹位は構わないですが、とりあえず中にどうぞ」
今のところ大蜘蛛素材は十分に足りている。必要であればもう何日かここに籠もれば良いので1匹位は譲っても問題は無い。その引き換えにでも情報を得られれば良いのだが。
彼の仲間は警戒をしてか多少渋っては居たが、どうやらジャイアントスパイダーを譲って欲しいと言う要望はかなり優先される様で結局中で話をする事になった。
彼らを拠点の中に案内する。ダイニングテーブルは皆で囲っても十分な広さがあるが椅子は1脚しか無かったので、手早く5脚クラフトして設置をすると彼らに席を勧めた。
彼らは拠点に入ってから何度となく驚いた表情を見せていたが、椅子を設置した時の驚き様は逆にこっちがびっくりする程だった。
思った通り、この世界ではアイテムボックスからの設置は一般的では無い様だ。
さて、改めて情報収集を行うとしよう。
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