第6話 白金の鷹

俺は大剣使いのポール。モンペリエを拠点とする冒険者パーティー、白金の鷹を束ねるリーダーだ。

俺たちのパーティーは、盾戦士のジェローム、狩人で斥候のアンヌ、メイスと盾を構えて中衛で体も張れるヒーラーで神官のフランシーヌ、そして魔術師のアメリーの計5人で構成されている。

貴重なスペルキャスターを2人も抱えているだけあって戦力のバランスが良く、モンペリエで活動を始めて直ぐに頭角を現し、活動を始めてから早5年。今では名実ともにモンペリエ1のパーティーと言われている。


何故いきなり独白を始めたのかって?それは目の前に広がる光景が、余りにも現実からはかけ離れていたからだ。


今回はさる豪商から、お貴族様から大蜘蛛の甲殻を用いた鎧一式を納めてほしいと要望があったとの事で、指名で討伐依頼が舞い込んだ事が発端だった。

大蜘蛛の甲殻は丁寧に加工をすると独特の光沢を放ち、しかも金属鎧に劣らない程の強度を誇りながらも軽い為、人気の商品だ。

とは言え、ジャイアントスパイダーは強敵なので、おいそれと狩れる訳では無い。通常なら大樹の高級木材を目的とした伐採組と、護衛とジャイアントスパイダーの討伐を目標とした冒険者の一団とによる大規模な遠征隊が年に数回組織される事になる。

今回は急ぎ必要との事で、かなりの割り増し料金でパーティー単独での討伐実績のある俺たちに白羽の矢が立ったと言う訳だ。


町から大蜘蛛の森までは半日程度。町を朝一に出れば通常なら昼過ぎには森に到着して狩りの準備をする。だが、途中余りにもおかしな事に出会った為、安全確認に時間を要してしまった。

そこは、100m四方が綺麗に均されていた。地面が驚くほど平面になっており、それが何を目的としたものかが解らなかったのだ。何らかのモンスターの仕業であればギルドへの報告が必要になる。


アンヌが時間を掛けて周囲の痕跡を調べてみたが、結局モンスターの痕跡は見つからず、何を目的に誰がその様な事をしたのかは解らず仕舞いだった。

誰かの手によるものなのか、俺たちの知らないモンスターの手によるものなのか。正確に正方形に均されていたので、恐らくは人の手によるものだとは思う。だが、地面を均す為にか一抱えも有る石が綺麗に切断されており、とても人の所業とは思えなかったのだ。


調査に時間を要した為、森に辿り着いたのは夕方だった。

大蜘蛛は森を棲家としている為、森から出てくる事は無い。森の近くは大蜘蛛を恐れてか、平原に住む野の獣や魔物は近づこうとしない。その為、森が見えるこの辺りは比較的安全で、最悪は野営をと考えていた。本来なら適当な場所を見つけて野営の準備をするのだが、俺たちは揃いも揃って呆然と立ちすくんで居た。目の前に見えるあれが何なのかを判断する事が出来ずに居たのだ。


一言で表現するなら、砦だろうか。ぐるりと重厚な壁が囲んでいて、その外側には、あれも金属製だろうか、先を尖らせた丸太の様な、先を尖らせた金属の槍が、乱喰歯の様に不規則に並べられている。それも隙間なくびっしりと。

壁は高さ2m程で一辺の横幅は100m程。壁の内側にはそれぞれの角とその中程に、3m程の塔が頭を覗かせている。その頂上部分には恐らくは巨大なクロスボウだろう、が据え付けられている。

クロスボウには恐らくは石から削り出したのだろう、歪みなく精巧に加工された石の矢が装填されていた。

だが不思議な事に砲手が居る様には見えないし、砲手が乗る為の台座もある様には見えなかった。あれではどうやって照準を合わせて矢を打ち出すのだろうか。


そしてその砦は、あろう事かジャイアントスパイダーの領域である魔の森の内側にあるのだ。誰が、どの様にして、あんな場所に砦を作ったのだろうか。そもそもジャイアントスパイダーの目を掻い潜って、もしくは襲撃を退けながら、あの規模の砦を築ける事もおかしい。


「ねぇ、あれってさ。さっきのも同じ奴の仕業なんじゃないの?」


「あれの塀もぐるっと囲ってあるし、確かにそうかも知れないな。だが、どれだけ人数が居ればあれが作れるんだ?」


「誰か、そんな奴らが居るって町で聞いたか?」


「いいえ、少なくともそんな大規模な人の動きがあれば、私たちの耳に入らない事は無いはずよ。」


「って事は、少なくとも町の奴らでは無さそうだな。」


「そうね。」


俺達はようやく目の前の砦に対する意見を交わす事が出来た。誰もがしばらく思考する事を放棄していたが、うちの頭脳派のアメリーも何時も冷静なアンヌも言葉を失ってたから、その衝撃は想像に容易い。だがその衝撃も、次の日の朝に見た光景に比べれば些細な事だった。


その後俺達は、その砦の主人が敵か味方かも解らなかったから、まずは様子を見る事にした。小さな丘の陰に野営を設営し、砦の主の視線に入らない様にした。夜は極力灯りが漏れない様に火もおこさず、じっと息を潜めた。


夜は月の灯りのお陰で、遠目にも砦の様子を見て取る事が出来た。当然日が暮れれば魔物の活動は活発になる。

森の奥から何体ものジャイアントスパイダーが出てきて、砦を警戒してゆっくりと囲い込む。俺達もそれだけのジャイアントスパイダーを見たのは初めての事だった。

ジャイアントスパイダーは数mは跳躍をする事が出来る。あれ程強固な砦であっても、容易に塀を飛び越えてしまえるのではと、そう考えていた。砦の住人がどうやってジャイアントスパイダーの強襲から身を守るのか興味は尽きなかった。だが、その後の光景は想像とは遥かに違っていた。


ジャイアントスパイダーは今まで見た事が無いほど足並みが揃っていたと思う。まるで示し合わせたかの様にゆっくりと包囲を狭めて、一気に砦に襲いかかる、ジャイアントスパイダーが砦との距離を詰めた時、設置されたクロスボウから矢が放たれてジャイアントスパイダーを貫いた。


ジャイアントスパイダーは非常にしぶとい。昆虫系の魔物は総じてそうなのだが、足が2〜3本吹き飛んでも全く怯む事なく襲ってくる。だがクロスボウに貫かれて一瞬足を止めると、その隙を逃さない様に矢継ぎ早に次々と矢が突き刺さったのだ。ドス、ドスドスドスっと。

中には跳躍して一気に距離を詰めようとした奴も居た。だがクロスボウはただの一矢も外す事なく、次々と命中させ射落として見せたのだ。恐るべき射手の腕だ。

しかも矢は尽きる様子もなくジャイアントスパイダーが息絶えるまで、次々と飛んでいく。


呼吸をする事も忘れて見入っていると、あっという間に静けさが戻ってきた。全てのジャイアントスパイダーが息絶える迄、ほとんど時間は掛からなかった。

そんな光景が夜の内にあと2回は繰り返されたのだ。俺達は余りの光景に気を抜く事など出来ず、一睡もする事が出来なかった。


そして夜が明けると、俺達は更なる衝撃的な光景を目にする事になる。



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