第5話 蜘蛛の茹で足とアイテムボックスの容量

目が覚めたら、外はまだ明るかった。

今までは床にそのまま寝ていたし、寝心地が悪かったのもあってか睡眠時間も短かったから、かなり疲れが溜まっていたのだろう。

ベッドに入って目が覚めるまで体感ではほんの数十分ほど。だが身体の疲れが取れ倦怠感が無くなっていたから、結構な時間寝ていたのだろう。お腹がぐーっとなって、俺の意思を無視してしばらく何も食べていないんだと主張を始める。


調理で茹でる為には焚き火では無くちゃんとした調理道具が必要になる。

早速、調理用焚き火をクラフト。鉄製の鍋を設置して、巨大蜘蛛の脚を調理する。出来上がるのは巨大蜘蛛の茹で足だ。

ファンタジーもののアニメなんかだと、蜘蛛の足の味は蟹に近いと言われている。確かに見た目にもよく似ている。そもそもタラバ蟹なら蟹というよりは正しくはヤドカリで、ヤドカリは蜘蛛の近親種なので味が似ているらしい。実際にはヤドカリと蜘蛛が近親種なんて事は無いそうなのだが、でも食べる以上は似ているといいなと願わずにはいられない。


クラフトモードで手早く調理を済ませると、リアルモードで大蜘蛛の茹足を取り出す。

さて、あの巨大な蜘蛛の足なのだ。そもそもどうやってあのサイズの鍋で茹でたのかは大いに疑問だが、リアルで取り出した茹で足も当然とんでもないサイズだった。流石に1本まるまるでは無かったが、1本の足を関節部分で切り離し、更に3つにカットしたものが大皿の上にどんと置かれている。脚一本なら関節部分でカットしても優に1mはある。3分の1でもそれぞれが30cmは下らないサイズだ。それがほんのりと赤みがかって、茹でたてだからかホカホカと湯気が立ち上っている。


うん。どう見ても蜘蛛の足だ。確かに茹でて赤みを増したからか、カニの足に見えなくも無い。いや、そんな事は無いな。茹でても主張する毛が、蟹ではなく蜘蛛なのだと訴えかけてくる。でも、良く考えたら一度だけ食べた事のある高級食材の毛ガニも硬質な毛に覆われていたから、毛ガニだと思えば。うんいけそうな気がする。

さて、大皿の脇にはナイフとフォークのかわりに、刃の部分が肉厚な独特な形状の鋏が置かれていた。甲殻をカットする為の専用の鋏だ。蜘蛛の足を茹でたら鋏が付いてくるとか、正直クラフトのシステムがどうなっているのか疑問が尽きない。

最もクラフトモードがリアルモードへどの様に作用するのか、その一端を知るのはそう先の話では無かった。


俺は意を決して食事に取り掛かった。これだけ大きければ、甲殻をカットしなくてもそのまま身をほじくり出せば食べられる気もする。でも折角なので、茹で足に縦に鋏を入れていく。しっかりと梃子の要領で効率的に力が伝わるのか、そもそも切れ味が鋭いからか、それ程力を入れなくてもジャキッ、ジャキッと切れ目が入っていく。甲殻を軽く叩いてみるがコンコンと硬質な感じが伝わってくる。

戦利品には大蜘蛛の甲殻も多数あり、そこそこ防御力のある装備品がクラフト出来るから結構硬い素材の筈だ。それがこれだけ簡単に鋏で切れるのだから、やはりかなり切れ味が鋭いのだろう。


切れ目を2本入れてパカっと甲殻を割る。プリプリの身が踊り出す。そして意を決して思いっきりその身にかぶりついた。

味はシンプルに塩味だけ。塩が何処にあったのかは今更気にはしない。甲殻の中にあるのはあの巨体を支える筋肉だから、想像よりも歯応えと言うか弾力がある。そして繊維質の身を噛み切ると、口の中で解けて程よい甘味が口一杯に広がる。うん、完全に蟹だこれ。しかも一番弾力があって食べ応えのあるカニのハサミの部分。

食べる前はとても食べ切れるとは思えなかったが、気がつけば黙々と食べ進め、ついには完食をしていた。流石にこの量だと食べられるとしても飽きるかもと思っていたが、食べ終わって見ればそんな事は無くむしろ満足感で一杯だった。


お腹をさすりながらひと段落すると後片付けをする。リアルモードなら大皿も鋏も再利用出来る気はする。だがこのモードではアイテムボックスからクラフトしたアイテムを取り出す事は出来てもアイテムボックスに入れる事は出来ない。

一応クラフトモードに切り替えて鋏の収納を試したが、やはり収納は出来なかった。一応ピクセル表示になっているので収納出来そうなものだが、元々のエターナルクラフトに無いアイテムは対象外なのだろう。

それに調理をすればその都度新しい皿等がついてくるので、荷物になるものをとって置く必要もない。ならどうするのかと言えば、アイテムボックスに入れる事は出来ないが、ゴミ箱機能を利用する。


さて、クラフト系のゲームなら必ずついて回る問題がボックスの容量制限だ。当然、本来であれば入れられる数が限られていて収納箱をうまく使ってやりくりしなければならない。だが、俺はエターナルクラフトを極めた人間だ。エターナルクラフトは度重なるアップデートでそのクラフト規模が大きくなるにつれ、アイテムボックスの容量は拡大の一途を辿った。そして俺はアップデートによる拡張に加えて課金による拡張を最大限行っている。何なら惑星規模の超巨大宇宙戦艦をクラフト出来るだけの素材を持ち運べる容量があるのだ。そして何と、アイテムボックスの容量はそのままだった。

1つの枠のスタック数は、上限が999999。流石にここに来た時はアイテムボックスは空だったから上限までストックはしていないが、せっせと採取を行った結果一番数の多い土ブロックは1万個以上スタックしてある。スタック数の上限は99個→999個→9999個→999999個と一気に拡張していくので1万個以上スタック出来るのであれば恐らく上限は999999だろう。まずアイテムの持ち運びで困る事はない筈だ。


余談だが、上限が9999個から999999に上限が解放されるのは、亜光速宇宙戦をクラフトして恒星間航行の実績を解除する事が条件だった。


昔を思い出して見れば初期の頃なら掘り出した土がアイテムボックスの容量を圧迫して困るなんて事が当たり前にあった。そんな時はゴミ箱機能で不要なアイテムを削除する事が出来る。リアルモードでもメニュー自体は呼び出せるので、アイテムボックスを開けばゴミ箱を利用する事は可能だった。


テーブルの上にある食べた後の蜘蛛の甲羅や大皿もボミ箱へポイ。食べかすで汚れた木のテーブルも、クラフトモードに切り替えてアイテムボックスに収納して改めて設置をすれば綺麗に元通りだ。


ひと段落して外に出る。拠点の周囲を見渡せば、大蜘蛛の死体が幾つも散乱していた。その数が想像よりも遥かに多かった事、その後日が暮れるまでに結構な時間を要した事から、俺はどうやら昨日の夕方に寝て今日の日が上ってから起きたらしい。余程疲れていたのだろう。これからは余り無理をせず、ちゃんと休みを取ろうと心に誓った。


その後はいつも通りクラフトモードに切り替えて、肉切り包丁を取り出すと素材の回収に勤しんだ。この後は、折角高級木材をゲットしたのだから、拠点の更新を行うことにしよう。もうすっかり慣れ親しんだ豆腐ハウスとも、これでおさらばだ!



◆Memo


大型アップデート

過去に3回実施されている。新しいゲーム性の構築をスローガンに、大幅な仕様の変更が行われている。それぞれのアップデートを適用した段階を、公式では文明レベル、俗称ではシーズンとかステージとか色んな呼び方をされている。


文明レベル1

初期のエターナルクラフト。一般に開拓期と呼ばれる。

木、石、鉄と言った基本的な素材から、火薬、製鋼、発電機と言った近代的なレシピまで網羅している。


文明レベル2

大型アップデートにより追加された。近代〜近未来。このアップデートに伴い、アイテムボックスのスタック数は999に上限が開放された。

鉄筋やコンクリートによる大型建築、列車、自動車、重火器、戦車、飛行機。果ては近代戦闘機、戦艦、空母等。これらにより他のワールドのプレイヤーとの領土戦が出来る様になった。因みにこれらの兵器も全て自動化が可能。


最終的には原子力の開発、核融合炉の小型化、近未来兵器群の作成が可能になる。


文明レベル3

第二次大型アップデートにより追加された。このアップデートに伴い、アイテムボックスのスタック数は9999に上限が開放された。


これまではPvPの要素に力を入れていたが、一部のマニアを除いて一般ユーザーからはあまり評価を得られなかった。タワーディフェンス要素を重視して適用された本アップデートでは、異世界からの侵略者から惑星を守る事が主体となる。

最終的にはコロニーの建造、資源惑星の開拓、宇宙船の建造が可能になる。後期の追加アップデートでは要望が多かったロボット兵器も多数実装されている。


文明レベル4

現時点での最終アップデート。アンロックの為には亜高速宇宙船による多星系への進出が必要になる。亜高速宇宙船をクラフトしただけではアンロックできず、恒星間移動に成功し他星系へと至った時点で実績が解除されアンロックされる。アップデートでは、多星系からの侵略を防ぐタワーディフェンス要素や、プレイヤー同士による星系間戦争がメインコンテンツとなる。


目標は銀河統一。

因みにサーバー群毎に銀河が割り当てられていて、主人公が異世界転移をした時点では銀河統一を果たしたサーバーが2つあった。

因みに他サーバーの銀河は別の銀河では無く別次元、並行世界の銀河として扱われている。最終ミッションとして次元航行ゲートの設置が行われて、他銀河への侵略が可能となった。

主人公が最終的に挑んでいたのは運営主催の銀河統一戦争。銀河統一を果たした2大クランによる、大規模な戦争コンテンツである。


因みにPvPに負けてもそこまでペナルティは無い。勝者の配下として所属が変わる位のものである。

そのかわりに勝者には様々な報酬が用意されていて、その最たる物としては支配下にあるプレイヤーから一定数の資源を獲得できるボーナスが用意されている。このボーナスは支配下の資源が減るわけではなく、支配下のプレイヤーの開発度に応じて算出されたボーナスを運営から受け取るので、敗者のデメリットは実質存在しなかった。

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