第3話 穴掘りとステーキと

さて、リアルモードで一番大きな違いと言えば、クラフトモードと同じ様には素材を獲得出来ない点が挙げられる。

リアルモードでは、クラフトモードで散々拾った石ころや木の枝は転がっておらず、その辺りに転がっている石を手に持って幾ら念じて見てもアイテムボックスに物を入れる事が出来ない。

クラフト済みの、石のピッケルや石の斧を取り出す事は可能だが、石ブロックを取り出す事は出来なかった。


同様に足元の地面にピッケルを突き立てても、一向に土を獲得する事が出来ない。勿論土をピッケルで掘り起こす事は出来るが、そこには普通に掘り返した土があるだけだ。何より、ピッケルを振り下ろして土を掘り起こす作業は非常に疲れる。

クラフトモードなら全然疲れなかったので、この点も大きな違いだ。


クラフトモードにすると、均した地面と石ころが幾つか転がっている。その石ころを拾ってリアルモードにすると、先程掘り起こした穴は綺麗に無くなっていた。

どうやらこのモードの切り替えは世界そのものに何らかの作用をしている様に思える。


次にやる事と言えば穴掘りだ。再度クラフトモードにすると、家の中央から地下へ向かって、ひたすらに穴を掘り進める事にした。これで素材としての土や石を大量に獲得する事が出来るし、運が良ければ鉱石も獲得する事が出来る筈だ。

石のピッケルでも、銅鉱石と鉄鉱石、石炭なら獲得する事が出来る。現実では、鉱石が点在する事はあり得ないが、ゲームなら話は別だ。

遠くにクロスボウで射抜かれて鳴く狼の声を聴きながら、時々補充用の矢をクラフトして収納箱に放り込んではまた穴に戻る。夜半を過ぎる頃には矢は十分な数をストック出来たので後は朝まで黙々と穴掘りに精を出した。


俺がクラフト系のゲームで何が好きかと言えば、多分この瞬間では無いだろうか。無心でひたすらに穴を掘っていく。その瞬間がたまらなく好きだ。

階段状に掘り進めながら、時には横に掘り進める。結構な深さを掘り進んだが、心配していた地下のバイオームに突き当たる事は無かった。地下には溶断地帯や地下墓地等、危険なエリアが有る事も多い。いきなり掘った穴が巨大な空洞に突き当たって落下するなんて事もある。結構な範囲と深さで掘り進めたが、幸いな事にそうしたエリアに突き当たる事は無かった。


そう言えば大型アップデートがされる度にゲームの規模が大きくなっていき、最終的には惑星単位の資源回収が自動化出来る様になる。そこまでいくと最初の頃とは全く別ゲームと言っても良く、その辺りでリタイアして最初から始めるクラフターも少なくは無かった。

一方で、こうして自分の手で素材採取する事が好きで、技術が発展しても変わらず自分の手で素材を集めるクラフターも多かった。そうした自分の手で行う採取を差別化する為、直接的な採取でしか獲得が出来ない希少な素材が用意をされていたりもした。序盤であれば、各種宝石類が獲得できる筈だ。それらは石のピッケルでは採取出来ないから、早いうちに鉄のピッケルを作る必要がある。

先々技術レベルが上がればミスリルやアダマンタイトと言ったファンタジー素材も採取出来るようになる。


後気が付いた事と言えば、定期的に光源を得る為に松明を設置しているのだが、クラフトモードだと一度火を付けた松明は煙も出さず、燃え尽きる事も無い。

ところが試しにリアルモードに切り替えた所、堀った穴の中にあっと言う間に煙が充満して死にそうな目にあった。直ぐにクラフトモードに切り替えたので事なきを得たが、あのままリアルモードにしていれば煙に巻かれて、酸欠にでもなったのでは無いだろうか。リアルモードとクラフトモードにどの様な差違があるのか解らない事が多い。切り替えには一層注意を払う必要がありそうだ。



一息ついて地上まで戻って来る頃には空が白んで、もうじき夜が明ける頃合いだった。モンスターは地平線より太陽が顔を出す日の出の時刻が境となって出現数が大幅に変わる。昼はごく僅かで夜は非常に多くなる。夜にしか出現しないモンスターも多い。

豆腐ハウスから外に出て明るい方角へと目を向ければ、今まさに太陽が顔を出す所だった。


さて、モンスターの襲撃も一段落ついただろうから拠点の外へ目を向ける。やはり襲撃者は狼の一団だったのだろう。絶命した狼がそこかしこに散乱していた。


石の肉切り包丁を片手にざっと一周回って戦利品を回収する。

狼であれば石の肉切り包丁を突き立てれば素材の採取、剥ぎ取りが可能だ。

最終的に狼の牙が21に狼の大牙が1、狼の毛皮が18に大狼の上質な毛皮が1。狼の獣肉が22を獲得できた。その頃にはすっかりお腹が空いていたので、たき火を設置して狼肉のローストステーキを作成する。


出来上がった料理を早速食する事にした。


さて、ゲーム内であればアイテムボックスから使用するだけで効果を発揮するが、それでは余りにも味気がない。そもそもそれでお腹が満たされるかも疑問だった。ではリアルならどうなるのだろう?

期待をしつつ、まずは木で作ったテーブルと椅子を設置する。そしてアイテムボックスから料理を取り出してリアルモードに切り替える。

そこには今までアイコンで表示されていた簡素なステーキとは全く異なる姿のステーキが出現していた。

ディテールは確かに同じ様にも感じる。作った覚えが無いので何処から取り出したのかは全くもって解らないが、木の大皿に熱々の鉄板が乗っており、その上に脂のしたたるステーキと、カットされた人参にジャガイモ、そしてクレソンが添えられていた。

しかもステーキ皿の隣にはお誂え向きにナイフとフォークが並んで置かれていた。

折角なので肉が冷めない内にカットしてステーキを食べてみる。独特の臭みがあるが、胡椒とソースで殆ど気にならない。歯応えがあり淡白な味は地鶏に似ている気がする。狼肉という事で心配をしていたが、うん。どちらかと言うと美味しい!


結局俺は空腹も相まって3皿ステーキを完食した。


アイテムボックスに入れておけば、恐らくは腐ってしまう事も無いだろう。何せ時間差をおいて取り出した3皿が、いずれも今焼いたばかりの様に出来立て熱々だったのだから。狼肉のステーキはまだ19皿ある。流石に肉ばかりが続くのもどうかと思うが、少なくともしばらくは飢える事は無さそうで安心した。


しかし、狼肉のステーキはたき火で調理をするのが、たき火どうやって調理をしたらステーキ皿に乗って出てくるのかは謎だ。


食事をして一息つくと、昨晩の採掘作業である程度鉄鉱石を確保する事が出来たので、もう少し装備を整えようと思う。とは言え夜通し作業を行ってお腹一杯ご飯を食べた後では眠たくもなる。

皮のなめし台を設置して狼の毛皮をクラフトすれば寝具も作れるが、限界だった。俺はそのまま床に横になると、しばし眠りへと落ちた。


昼位には目が覚めると作業を再開する。幸い石炭も結構な分量を確保する事が出来たので、溶鉱炉の燃料に困る事は無い。今日はひとまず倉庫に唸るほどある石でレンガをクラフトをして経験値を貯めて、研究ツリーの開発を進める事にしよう。


そうして3日が経った。


採取してはひたすらクラフトを行ったので、技術レベルは現時点で上げられる最大の20レベルに達していた。

夜が来る度に狼の襲撃があり、その中には大型種の大狼も含まれていて上質な素材が手に入った。

今の俺は大狼の上質な毛皮で作成した防具一式を身に纏っている。羽織っている大狼のマントは素材を活かして作られていて、右の肩口には大狼の頭の部分が乗っかっている。

首には狼の大牙のネックレス。これには文様が刻まれていて、近接攻撃力と素早さを向上させる効果がある。


腰にはレジェンド級の鉄製の剣。装備品には等級があり、専用のレシピがあれば上位の等級の装備品をクラフトする事ができる。クラフトに必要な素材量が大幅に増えるが、かわりに性能も飛躍的に向上する。

等級は、普通に作成できるのがコモン(一般)。その上にアンコモン(上質)、レア(希少)、ユニーク(銘品)、ヒーロー(英雄)、レジェンド(伝説)と等級が上がっていく。

鉄製とは言えレジェンド級ともなば、先のジャイアントスパイダーも一撃では無かろうか。ただ、敵の攻撃を躱して剣で切り付けるのは俺には無理そうなので、基本的には迎撃装置で敵を迎え撃つ戦法で行こうと思っている。装備品を整えたのは万が一の事故を防ぐ為で保険的な意味合いが強い。


さて、等級が異なるレシピがあるのは、何も武器に限った話では無い。防衛用の迎撃装置にも同様に等級が存在する。3日間の集大成がこれだ。

俺の前には黒光りする光沢のある金属で覆われた、高さ3mのタレットが3つある。その上部にはレジェンド級の設置型大型クロスボウを据え付けてあった。

夜な夜な穴を掘り進めて鉄鉱石を集めたが、さすがにレジェンド級の鉄製の剣と、この強化型タレットを3基作るのが限界だった。


そして、完成したタレットをメニューから選んで収納する。

建築、クラフトには時間がかかるが、こうして収納するには所用時間が必要では無く一瞬で完了する。そしてメニューには最大10個、建造物を収納して登録する事が出来る。

タレットと同じ様に、防衛拠点も収納してしまう。

防衛拠点は、普通にレシピから建築する場合には1時間、時間を要する。これを一度建築したものを収納して、登録から呼び出して設置する場合は半分の30分しか掛からない。

そして建造物の等級が上がると耐久力や、タレットであれば攻撃力、射程、連射速度といった攻撃性能が上昇する。もう一つの特徴が登録した場合の再設置にかかる時間が短縮されるのだ。


レジェンド級のタレットともなれば、設置にかかるコストも大きく増大しており、同様にクラフトにかかる時間も大幅に延長されていて、半日も掛かってしまう。その代わり、再設置にかかる時間は、わずか30秒だ。


これで、不意打ちでもなければ十分な迎撃装置を設置して迎え撃つ事が出来る様になった。矢玉の等級は上げる必要は無いので、大型クロスボウ用のボルトもアイテムボックスには1000本単位で準備している。

これだけあれば、恐らくは巨木バイオームのフィールドボスも余裕で討伐が出来る筈だ。明日は木材も確保したいので、巨木バイオームに向かう事にした。




◆Memo


素材を獲得する為の作業を総じて採取と言う。ただし、採取に使うツールによって別の呼び方をする事も多い。ピッケルであれば採掘、斧であれば伐採、ピッケルで魔物から採取する時は解体、肉切り包丁を使う場合は剥ぎ取りと言った感じ。


料理はディスプレイとしてテーブルの上等に置く事はあるが、ゲーム内の仕様上はテーブルに置いた料理を直接食べる事は出来ない。食事に限らずポーション等もアイテムボックスからアイテムとして使用する必要がある。


一応本作中においては、チャレンジすればクラフトモードで設置された料理を食べる事も可能かもしれないが、少なくともデフォルメされたピクセル表示の料理では美味しくは見えないし、そもそもゲームの常識が邪魔をするので試す機会は恐らく無い。




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