第2話 最初の拠点クラフト

リアルモードとクラフトモードで何が違うのかは今の所解らないが、少なくとも慣れ親しんだこの状態なら出来る事は解る。勿論仕様が同じなら、と言う前提ではあるが。とは言え技術ツリーやレシピに大きな変化は無いし、恐らくは大きな違いは無い筈だ。


先程迄は気付かなかったが、クラフトモードだと転々と石ころや木の枝が転がっている事が解る。慣れない全力疾走で足が悲鳴を上げているが、何とか腰を上げるとそれらの石ころや木の枝を拾う事にした。


手に持ってアイテムボックスを意識すると、手の中からシュンっと消える。先程はアイコンを直接タップしたが、VRゲームには思考誘導による操作機能があるから、指で押さなくても意識さえすれば選択をする事が出来る。

メニューからアイテムボックスを開いてみれば、ブロック状になった石や木のアイコンがそこにあり、拾う度にカウントが増えていった。この辺りはゲームの仕様と全く変わりが無い。


初期でやる事と言えば、まずは基本的な採取ツールを幾つか作る必要がある。まずは石のピッケルに石の斧。


さっきの巨木を伐採すれば大量の木材を獲得する事が出来るが、さすがにそんな危険は犯したくはない。周りを見渡しても伐採して木材を獲得出来そうな手ごろな木を見つける事は出来なかったが、木の枝は結構な頻度で落ちているので少なくとも当面の素材には困る事は無さそうだった。


クラフトを行ったり採取したりする事で経験値を獲得し技術レベルが向上する。レベルが上がると技術ツリーの樹形図に従って新たな技術をアンロックする事が出来る。技術をアンロックすれば、それに付随する幾つかのレシピを同様にアンロックする事が出来る。

エターナルクラフトでは、様々なアイテムをクラフトしてレベルを上げて、新しいレシピを獲得する。そして新しいレシピで更なるアイテムをクラフトする。これを永遠に繰り返して行くゲームだ。その終着点があの銀河戦争と言う訳だ。


レシピの中には特別なものも数多く存在する。特定の条件を達成する事で獲得出来るもの。課金で入手出来るもの等だ。それらの特別なレシピは、通常の技術ツリーの段階を幾つかすっ飛ばしてクラフト出来るものがある。俺が作ろうとしているのは比較的初期に入手が可能な簡易拠点のレシピだ。だが、このレシピを使うためには必要技術として木材建築と石材建築が必要で、技術レベルを10まで上げなければいけない。技術レベルを10迄を上げようと思えばそこそこのクラフトをする必要があった。


簡易作業台をクラフトして石ころや木の枝を拾っては、せっせと石のピッケルと石の斧を作る。それぞれ100本ずつ作ると、ようやく目当ての技術をアンロックする事に成功した。


その頃には大分日が傾いていて、もうじき夜が来る。それまでに手早くクラフトを済ませなければならない。


リアルならどういった挙動になるのか疑問だったが、石のピッケルを作った時もメニュー画面からレシピを選択すれば、アイテムボックスから必要な素材を消費して出来上がった石のピッケルがアイテムボックスに納まっていたので、この辺りもゲームの頃と変わりは無い様だ。


木の枝がどうしてアイテムボックスに入れると木の基本ブロックになって、それを加工すれば木の板や棒になるのかは今更ながらに疑問があるが、ゲームだからと開き直ってしまえば何ら不思議は無い。少なくともクラフトモードの時に見える景色は、あの頃のままだった。


この辺りは平原バイオームなのか、開けた平原が何処までも続いていて余り起伏は無い。まずは拠点設営に必要な範囲の整地を行う。次に拠点のレシピを呼び出して、範囲指定を行う。すると建築準備中になり、素材を放り込むための専用のボックスが表示される。後は必要な素材を放り込んでクラフトを指示すれば、勝手に拠点をクラフトしてくれる。


早速必要な素材を放り込んでクラフトを開始した。今の俺の技術レベルだと完成には時間が掛かる。完成までにかかる時間は1時間。次に拠点内にクラフトをする家の準備をする事にした。


溶鉱炉を幾つかクラフトして、並行して木を燃料に土からレンガを作る。

溶鉱炉をクラフトする為に必要な石ブロックや土ブロックが足りないので、適当にその辺りを掘って素材を調達する。

木の燃焼効率は余り良くは無いが、それでも木のブロック1個を燃料にレンガなら5個はクラフト出来る。木については多分足りると思う。


そうこうしている内に拠点の設営が完了した。


レンガを相当数を揃えると、拠点の真ん中にレンガブロックを積み上げて箱型の家を作る。クラフト系のゲームなら誰もがお世話になる豆腐ハウスだ。時間との勝負なので、扉だけ作って設置する。これでようやく最初の拠点が完成した。


豆腐ハウスを真ん中にして、木製の柵が囲む。その外側には木のバリケードが隙間なく並んでいる。そして拠点の4角には高さ3m位のレンガ積みの塔、タレットが設置されている。このタレットの上部には大型のクロスボウが設置されていて、拠点内の収納箱に矢を納めて置けば、自動で装填して拠点に近づくモンスターを迎撃してくれる。射程は150mで、4角に設置したクロスボウで100m四方の拠点を全てカバーする事が可能だ。


もうすぐ日が暮れる。何とか日暮れには間に合った!



エターナルクラフトにはタワーディフェンスの要素がある。

夜になればモンスターが出現し、プレイヤーの拠点を襲撃する。敵の攻撃は建築物へのダメージもある為、防衛設備が無ければ先程作った豆腐ハウス程度なら簡単に破壊されてしまうだろう。

一応レンガ積みなので多少の耐久性はあるが、出現するモンスターにもよるが、豆腐ハウスだけではとても朝まで持つとは思えなかった。その為、最低限の防衛設備が必要だった。


柵の外側には先を尖らせた木の棒、バリケードが隙間なく敷き詰められていてモンスターの接近を阻む。そして4角のタレットの上部に設置された大型クロスボウが、拠点に近寄るモンスターを迎撃する。

自動装てん用の矢は残った木と石で作った数だけでは心許ない。早急に補充が必要だろう。


本当は毛皮をゲットして簡易寝台を作りたいが、素材の採取が可能なモンスターと言えば残念ながら今の所は巨木エリアで見掛けたジャイアントスパイダーしかいない。


拠点が完成した後、俺は試しにモードをリアルモードに切り替えてみた。建築した豆腐ハウスや柵、タレット等を見ると、単純に画像をリアル寄りに変換しただけでは無かった。


レンガで作られた豆腐ハウスは、壁面に補強をする為の木の柱が等間隔で並んでいるし天井部分には筋交いもある。とは言えこれだけで、天井部分まで重たいレンガで作られたこのハウスが崩れない理由には足りないと思う。

タレットも恐らくは自動で矢を装填してくれる筈だが、離れた収納箱からどうやって矢が補充されるのかは説明が付かないし、そもそもどうやって魔物に標準をあわせて自動で矢を放つのかも解らない。


リアルモードだと現実にしか見えないが、やはりゲームと言われる方が納得は出来そうだった。さて、もうじき日が暮れる。夜になれば、どんなモンスターが襲ってくるのか。不安もあるがモンスターが入れば新たな素材を獲得できる。少し楽しみだった。


平原バイオームなら、出現するモンスターは大した事は無い。少なくとも、設置した防衛装備で対応出来ないモンスターは記憶には無かった。

そもそも拠点のレシピも、それなりに苦労をして獲得したものだ。始めたばかりの頃だったから、何度となくモンスターの襲撃に会い、朝を迎える事が出来なかった。


夜の間も手に石の武器を持ってモンスターを迎え討ち、一定数の討伐を達成してようやくクエスト報酬としてレシピがゲット出来るのだ。

レシピをゲットするまでに、どれ程死んだ事か。さすがに10年は前の事だから仔細は覚えていないが、俺はアクションゲームが苦手だったから、それなりに苦労をした覚えがある。


ここはどう見てもゲームの世界だが、実際にモンスターに襲われて死亡した時にゲームと同じ様にリスポーン出来るとは思えなかった。ずっと俺の勘が、これはゲームでは無いと警鐘を鳴らし続けていたからだ。



日が暮れると、遠くから狼と思しきモンスターの遠吠えが幾つも聞こえる。狼なら有難い!毛皮で色んな物が作れるし、狼肉は食事にもなる。とは言え、今の所手元には食べる物も無く、寝台も無いから寝て直ぐ朝と言う訳にもいかない。


タレットに設置したクロスボウの弾切れも心配だったから、素材を採取してはクラフトして補充をしておく。外の守りは防衛施設に任せ、俺はひたすら素材採取に励む事にした。




Memo

豆腐ハウス。クラフト系ゲームなら、誰もが一度はお世話になる奴。大抵のクラフト系のゲームは拠点に寝袋やベッドを設置するとリスポーン地点として設定する事が出来る。ただし、拠点には家と見なされる最低要件がある。ゲームにより様々だが、一番簡単な要件は4方向が壁に囲まれていて出入りの為のドアが設置してある事。それに平らな天井を乗せただけの家が見た目から豆腐ハウスと呼ばれる。


豆腐ハウスからの脱却は意外と難しっかったりする。三角屋根を設置する為にはある程度レベルを上げる必要があるし、色んな設備を置こうと家の規模を大きくすれば多少頑張って屋根を乗せても、結局は中身は四角い箱なので結局豆腐ハウスと呼ばれる事になる。

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