第123話 そして水着回が始まるのです


 何はともあれ、朝メシで腹を満たさなければ1日は始まらない。


 しかしなぜ、あの黒木瑠衣が朝メシを作るほど俺の家族と親密になっているのかは、いまだに理解不能だが……俺の寝てる部屋に忍び込んでいる時点で謎しかないので、これ以上は考えないでおこう。


 それにいつも姉に食われしまう朝メシだが、瑠衣が作ったなら、その辺は大丈夫だろうから有難い。


「さあ諒太くん、早く朝のお支度しないと。お着替えは机の上に置いておいたから、お顔を洗ってから着替えてね?」


 瑠衣はまるでメイドのように俺に朝支度をするように促す。

 美少女にこうやって奉仕されるってのは、ある意味ご褒美なのだが……瑠衣の場合は何かしらの思惑や裏がありそうなのがネックというか……。


「あと、本棚の隙間にあった諒太くんが大好きなエッチな本とその関連の道具グッズは、誰にも見つからないように押し入れの中に移動しておいたから」

「お、おおっ! おまっ! 勝手に何やってんだよ! 人の宝物オカズを何だと思って!」

「あと、一部の不●症ギャルモノと長乳搾●モノは教育に悪いから没収したよ? その値段分は後でちゃんと諒太くんの銀行口座に振り込んでおくね?」

「出てけ! この悪魔!」


 不法侵入同級生どころか、オカズ没収委員長って……瑠衣を出禁にしないと、俺はそっちも管理されてしまうのかもしれない。


 ☆☆


 朝メシのために俺が1階まで起きて来ると、既に8時を回っていたのもあって、家には俺と瑠衣以外誰もいなかった。


 父は仕事で母は週8のセパタクロー、姉も何故か不在。


 夏休み中の朝はいつもこんな感じで、食卓にはいつも通り一枚のメモが置かれている。

 おそらくこのメモには家族の今日の予定が書かれていて……って。


『ちゃんとゴムしろよ by姉』


「ったく。するわけねーだろバカ姉が」

「諒太くん、ナマはダメだよ?」

「そうじゃない! しないって意味だ!」

「冗談冗談。朝ごはんの準備するね」


 瑠衣はクスッと笑いながらキッチンの方へ。

 お前が言うと何もかも冗談に聞こえないんだが。


「前から思ってたけど……瑠衣って、意外と下ネタ耐性あるし、自分からも言うよな」

「うーん? そんなことないと思うけど?」


 あるだろ。間違いなく。


「でも強いて言えば、普段から優等生なのが当たり前だから、その反動で諒太くんの前だと口が緩くなっちゃうかも。諒太くんなら下ネタ言っても大丈夫だし」

「な、なんだよそれ」

「諒太くんの前では完璧じゃないわたしも見せられる……ってことだよ?」


 瑠衣はウインクしながら言うと、温めた朝食を食卓に運んで来る。

 つまり……どういうことだってばよ。


「わたしだって女の子なんだし……少しは"あっち"の話をしたい時もあるよ?」


 そういや優里亜も前に女子の方が性欲強いって言ってたし……意外とそういうものなのか?


 そんな話をしていたからか、今おかずで出されたウインナーとミニトマトの構成すら下ネタに見えて来る……いかんいかん。


「愛莉たちが来るのは9時だから、諒太くんも早く食べてね?」

「あ、ああ……」


 俺は言われるがまま、瑠衣が用意してくれた朝食を口にする。

 献立は白米に味噌汁、ウインナー、スクランブルエッグ、野菜にミニトマトとレタス。

 瑠衣が作るなら、もっと高級食材とか使ったど派手なのを想像したが……意外とシンプルだった。

 シンプルイズベストということなのだろうか……いや違う、それだけうちの冷蔵庫の中がショボいということなのだろう。


「諒太くん、苦手なモノがあったら食べてあげるからね?」


 食べてあげる……か。

 一瞬でも「ソーセージ」と言おうとした自分を殴りたい。


「そういえば、昨日の虫とりは楽しかった?」


 急に例の虫とりのことを聞かれた俺は、箸で掴んだソーセージを滑らせる」


「る、瑠衣は……怒ってないのか?」

「怒る? なんで?」

「だってこの前のlimeの感じだと、瑠衣は怒ってるのかと」

「なんで?」

「いや、だから」

「諒太くんはさ、わたしに怒られるようなを愛莉としたのかな?」

「しっ……してない! 断じて!」

「ならいいんじゃない? それとも……諒太くんはわたしに怒られたい、のかな?」


 瑠衣はずっと笑顔で話しているが、とても温厚には思えない。

 やっべー、変な汗が……。


「ふふっ……怖がってる諒太くんも可愛いね?」

「こ、このドSめ」

「逆に諒太くんはドMだよね? それ系の本がいっぱい出て来たし」

「か、勝手に見るなって!」

「ふふっ、でもそれならわたしたち、相性良いってことだね?」


 そうやって言葉巧みに童貞の俺を弄ぼうとしやがって……。

 完全に瑠衣の手のひらで踊らされているのだが、非モテで女子に揶揄われるのすらご褒美に感じている俺は、それも悪くないと思えてしまう。

 そもそもこんなとんでもなく美少女の同級生からイジられて、「やれやれ」という感想になるのは、おそらくラノベ主人公くらいだ。


 ぎゃ、逆に瑠衣は……俺のこと、どう思ってんのかな。


「……あのさ、瑠衣は」


「おっじゃましまーす!! あ! もう瑠衣ちゃんの靴があるー!!」


 玄関先から子供みたいな声をした爆乳の気配がして振り向くと、玄関から浮き輪とプールバッグを持った愛莉がドタドタと歩いて来た。


「諒太おはよー! あ、朝ごはん食べてるじゃん! いいなー!」

「おはよう愛莉? 他の二人は?」

「みんな来てるよ! ほら」


 愛莉がそう言うと、後から優里亜と田中もゆっくり入って来た。


「おはよ諒太、瑠衣」

「おはよう優里亜。あと田中さんも」

「あ、あの! 今日は私までお招きいただきありがとうございます!」


 ガッチガチだな田中……。

 無理もない。きっと、こういう友達と遊びに行くのは初めてだろうからな。


「諒太、早くご飯食べて! 行くよプール!」

「わ、分かったから急かすなって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る