第120話 愛莉とカブトムシ♡
——翌朝、5時30分。
「諒太! おーきーてー!」
朝っぱらから五月蝿い声に起こされる。
ぐっすり寝ていた俺は薄らと目を開けると、そのぼんやりとした視界には、知らない天井とおさげの爆乳美少女がいた。
「えっ? 知らない天井に爆乳美少女って……まさか俺、異世界に転生したのか? じゃあ、もしやあなたは俺のお母さんで、今からおっぱいを……」
「ここは異世界じゃないし! 愛莉はお母さんでもないから! もぉ、寝ぼけてないで、早くカブトムシ採りに行くよ!」
「ん……あ、ああ、そうか俺……愛莉の家に泊まった、のか」
寝起きでボケていた頭がだんだん冴えて来ると、麦わら帽子を被って長袖長ズボンの愛莉がいる状況も飲み込める。
(そういえば俺、虫取りに来たんだったな……)
今の状況を思い出せば出すほど、同時に瑠衣にお泊りがバレたことも思い出してしまい、少し鬱屈な気分になる。
帰ったらお仕置きって……マジで何なんだよ。
「ほら早く長袖着て。トラップの様子見にいくよ!」
「わ、分かったから急かすなよ」
愛莉に促されて俺は準備を済ませると、愛莉と二人で家を出た。
日はもう出ているものの、足元の悪い山道なので懐中電灯を点けながら歩く。
「楽しみだなぁ〜、カブトムシ〜」
愛莉はまるでクリスマスイブの時の子どもみたいに、ウキウキしながら軽快に山道を登って行く。
しかし、この様子だともしカブトムシがいなかった時のショックは相当デカいだろうな。
それに、カブトムシじゃなくてカナブンとか"G"とかが集まってたら尚のこと残酷だろう。
「諒太っ、そろそろ蜜を仕掛けた木の場所だよー」
「あ、ああ……」
「どしたの諒太。元気ないね? 朝苦手?」
「そうじゃない、けどさ……なんつうか、そんなに愛莉が楽しみにしてるのに、もしいなかったらどうしようって」
愛莉はきっとガッカリするし、子供っぽいから拗ねるかもしれない。
俺はそれを危惧していることを、愛莉に正直に話した。
「ほんと諒太ってさ、こーいう時は気配りもできて優しいよね? 普段はえっちなことばかり考えてるのにっ」
「う、うるさい。今それは関係ないだろ」
「でも昨日だって愛莉のブラホック直すとか言って、本当は愛莉のブラが見たかっただけなんでしょ?」
「……まっ、まぁ」
「あははっ! ほら図星じゃーん」
くっ、愛莉なら上手いこと言って見せてくれそうだと思ったが……さすがに気付かれてしまったか。
「けどさ。愛莉は優しい諒太も、えっちな諒太も、どっちも大切なの。前にも言ったけど、どっちも含めて諒太だからっ」
「あ、愛莉……」
「それに愛莉は、もしカブトムシが取れなくても、諒太と二人で過ごせた思い出があればそれでいいの。だって諒太と二人きりの時間、楽しかったし!」
そうか。俺はてっきりカブトムシが楽しみで朝からウキウキしてるのかと思っていたが……愛莉は、俺と遊ぶ時間を楽しんでいてくれたんだ。
それを知れて、俺は素直に嬉しかった。
最初は俺と二人きりなんて、愛莉を退屈にさせないか心配な気持ちもあったから。
それなら……俺も、楽しまないとな。
「よし、じゃあ行くか愛莉。もしバナナトラップの周りがゴキブ●だらけでもビビるなよ?」
「ビビらないよ? 愛莉ゴキブ●の処理には慣れてるし!」
「嘘だろ……あ、愛莉! 肩にゴキブリが!」
「へ? 嘘っ! ヤダヤダヤダ!」
愛莉は明らかに青ざめた顔になり、自分の肩を確認する。
「って、いないじゃん! 諒太の嘘つきっ!」
「いやだって、慣れてるって言うから」
「もー!」
愛莉はボカボカと俺の肩を容赦なく殴って来る。シンプルに痛い。
「怒るなって。ほら、もう木は目の前だぞ」
「むぅ……んじゃ、カブトムシ取れなかったら代わりに諒太をペットにしよっかなー」
「俺は一向に構わんが」
「言うと思った。でも愛莉、ヘンタイなペットはいらないもーん」
愛莉はベーッと舌を出しながら俺を煽って来る。
くっ……愛莉の愛玩動物になれるカブトムシを羨ましく思う日が来るとはな……。
「諒太、カブトムシが逃げないようにそーっと近づこうね?」
「お、おう」
俺と愛莉は忍び足でバナナトラップと蜜を仕掛けた木に近づく……すると。
「……っ! い、いるよ! 2匹も」
愛莉は小声ながらも興奮を隠しきれない様子で俺の肩を揺らす。
確かに俺たちが木に仕掛けたバナナトラップのストッキングには、2匹のカブトムシがいた。
ただ……一つ問題があり。
「諒太? なんで嬉しそうじゃないの?」
「い、いや、だってさ」
トラップにかかったのはオスとメスの2匹。
しかもその2匹は……朝っぱらから人目を憚らず
メスの上にオスが覆い被さり、オスの聳り立つブツがそれはもう……情熱的に。
これもう、俺なんかよりどヘンタイなペットじゃねえか!
「この子たちやけに大人しいね? よし、今のうちに……げっとー」
性知識に疎い愛莉は、カブトムシが気持ち良くなっている最中に、網で2匹を捕まえて虫かごに入れた。
子供は残酷だと思い知った、真夏の早朝だった。
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