第119話 愛莉と二人でおやすみ♡そしてバレるお泊り会の真実。


 愛莉が隣の布団で「スー、ピー」と寝息を漏らしながら寝ている一方で、目をカッ開きながらスマホの持つ手を震わせる俺。


 すっかり静寂に包まれた屋根裏部屋で一人、心臓をバクバクさせていた。


 これは断じで少女漫画の「心臓の音が聞こえちゃうよぉ〜」なんて生優しいものではなく、賭博黙示●の『ざわざわ』である。


(よ、よりにもよって瑠衣にお泊りのことがバレるなんて……)


 瑠衣は2度も自分の窮地を救った俺に対し、を持っている。

 自分の自撮りを送ることで俺という人間ヘンタイを懐柔しようとして来るし、実際この自撮りのせいでヘンタイは副会長にならざるを得ない状況に立たされている真っ最中だ。


 そんな瑠衣に、愛莉とお泊りしたなんてバレたらこれから何が起こるか…………いや、俺にも分からんが。


 とりあえずこうなってしまった以上、ヤッてないのにヤッたと思われるのは完全に誤解だし、名誉のためにも正直に全て話すべきだろう。


 正直に言えばそれで済む、よな? 多分。


 俺は長押しすることで既読をつけないで見ていたトーク画面を堂々と開く。


 さて、どこから話すべきか……。


『黒木:ふふっ。諒太くんやっと既読ついたね♡』


 トークを開いた刹那、瑠衣からそう送られて来る。


(こ、こいつ、まさか俺の既読が付くのをずっとトーク画面を監視していたのか……?)


 もはやホラーに近いモノがある。


 でも瑠衣にずっと監視されているなら、さっさと正直に話さないと、言い訳を考えていると思われてもおかしくない。

 俺は全身全霊で即座にチャットを打ち込む。


『実はさ! カブトムシを採るのが早朝の方が良いらしいんだけど、田舎でバスがなかったから愛莉のおばあちゃんの家に泊まることになったんだよ! あと一応言っとくけど、寝る部屋は別だからな? 変なこと考えるなよ』


 こ、これでヨシ。完璧だ。

 最後の最後だけシンプルな嘘をついたものの、これは一応ヤッてないアピールのためで、ほぼ90パーくらいは本当のことを正直に話したんだ。間違ってない。


 これならあくまでお泊りは、虫取りのためにするのであって、仕方ないと分かるし大丈夫なはず……なのだが。


『黒木:ふーんそっかー。でも最後のは嘘、だよね?』


 なぜか一瞬で嘘がバレる。


 え、なんでそんなの……は、ハッタリか?


『なんでそんなこと分かるんだよ』

『黒木:わたしね、さっきはお泊りのこと知らない風に話してたけど、実は先に愛莉とlimeで連絡取り合ってて、愛莉に色々と事情を聞いたらこんな写真が送られて来たんだけど?』


 こんな写真? ……はぁっ!?


 瑠衣から送られて来た写真は、二つの布団の真ん中で俺と愛莉がバ●ル●ームをしている様子が写っていた。


 愛莉だけはカメラ目線でピースしているので、おそらく俺がバ●ル●ームの片付けをしている間にこっそり自撮りしていたらしい。


『黒木:並べられたお布団。片方のお布団には諒太くんがお風呂で脱いだと思われる衣服。部屋の隅には二人分の荷物。これでも別の部屋って言い張るのかな?』


 俺は完全に、下手を打った。

 抜かりない完璧超人の洞察力を舐めていた。


『黒木:全部バレバレだよ? 諒太くん?』


 あ、愛莉ィィィィィィィィ!!!!


 俺は隣でぐっすり眠っている愛莉を睨む。


 やっぱ瑠衣に対して嘘なんてつくもんじゃない。


『黒木:嘘ついたんだから、帰って来たらちゃんと、、しないとね? それじゃおやすみ、諒太くんっ』


 瑠衣はそのまま俺の言い訳を聞く耳を持たずに、言いたいことだけ言って会話を終わらせた。


 お仕置き……か。

 尻を叩かれるとかなら喜んでやられるけど、瑠衣の場合はそんな生半可のものではないと分かる。


 ただでさえ夏休みは美少女三人衆の言いなり状態なのに……その上お仕置きだなんて……。


「はぁ……もう、寝よう」


 俺はこのままこの田舎に住むことを考えながら、ゆっくりと瞼を下ろすのだった。

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