第116話 愛莉の後で風呂に入りたい(直球)


 カブトムシそっちのけで愛莉の胸を堪能してしまった俺。

 その後もあのラッキースケベの感触を何度も思い出しながら村へと帰って来た。


(愛莉のおっぱい……愛莉のおっぱい……)


「お疲れ様、諒太っ」

「お、おう! 愛莉の方こそお疲れ様」

「もう木に蜜は仕掛けたことだし! あとは朝まで待つだけだね?」


 家へ戻る途中、愛莉は悪戯っ子みたいな笑顔を見せてそう言う。


(カブトムシが寄って来るのを待つだけ、とは言ってもなぁ)


 臭くなったバナナと焼酎を混ぜた謎の蜜をストッキングに入れただけだし……どれくらい成果が出るか。


「なあ愛莉。本当にアレでカブトムシが来るのか? 俺みたいな素人からしたらあまりにも簡単すぎる罠のように思えて仕方ないんだが」

「く、来るよ! もし来なくても……もう一泊して獲るし!」


 どうやら愛莉は、意地でもカブトムシが欲しいらしい。


「どうしてそこまでしてカブトムシが欲しいんだよ?」

「だ、だって……」

「……だって?」

「えと……」


 愛莉はモジモジしながら俯く。

 何か言いづらい理由でもあるのか?


(そういえば愛莉がなんでそこまでしてカブトムシが欲しいのか聞いてなかったよな)


 シンプルに子どもの頃の遊びがしたいだけなのかと思っていたけど……違うのか?


「もしかしてカブトムシが欲しいのには、何か理由ワケがあるのか?」

「う……うん。実は、その……えっと」

「なんでさっきからそんな言いづらそうなんだ? ま、まさか愛莉……か?」

「違うからっ! そこまで切羽詰まってないもん!」


 愛莉は俺の肩に向かってポカポカ叩きながら言う。


「それなら教えてくれてもいいだろ? それとも俺には言えないことなのか?」

「そっ、そうじゃなくて。単に恥ずかしくて」

「恥ずかしい?」

「うん……実は、今年に入ってからね? お母さんのパートが終わる時間が前より遅くなっちゃって。最近、愛莉がバイトから家に帰ると、いつも一人になっちゃうっていうか……」

「え? それが、カブトムシとどう関係あるんだ?」

「だから! 愛莉は寂しいのっ! 一人でいると寂しくて、みんなに『寂しいから電話したい』とか言っても『彼氏としろ』って言われちゃうし! それで、ペットでも飼おうかと思ったんだけど……うちのコーポ、犬も猫も禁止だから」


 だからって、選択したのがよりにもよってカブトムシ……。


「ぷっ……」

「あっ! 諒太笑った! 酷いよ!」

「ごめんごめん。でもなんていうか、カブトムシが欲しい理由があまりにも可愛すぎたというか」

「か、可愛いっ!? そ、そうかなぁー?」

「ああ。なんていうか、愛莉らしいな」


 なんともまあ、子どもっぽくて。


「でもよく考えたら、彼氏がいないって事情を知ってる諒太には、こうやって正直に全部話したらのかなって……思ったり」

「頼めた? 何が?」

「……ううん、やっぱりなんでもない! 愛莉はカブトムシさんと暮らしたいんだもーん」


 愛莉はそう言うと小走りで先を行く。


「先に着いた方が一番風呂だからねっ! よーし、愛莉が先に入っちゃうからー!」

「ちょ……愛、莉」


 俺は手を伸ばしながらその場に佇み、先に家へ戻って行く愛莉を見ていた。


(そんなの……男なら誰でも愛莉の後で風呂に入りたいに決まってんだろっ!)


 すっかり星空になった田舎の夜空を見上げながら、俺は生暖かい笑顔を浮かべるのだった。

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