第115話 顔を挟まれる。大きなアレに。


 愛莉から「カッコいい」と褒められたことで、簡単にドキドキしてしまう典型的な童貞こと俺は、玄関でくっさいバナナストッキングが入ったビニール袋と、蜜の入った瓶とはけを持って愛莉が来るのを待っていた。


「ついに俺も……愛莉に褒められるほどの男になっちまったってことか」


(確かに最近の俺って優里亜や瑠衣とも普通に喋れるようになったし、そろそろただのオタク陰キャからは卒業だな)


 エリートオタク陰キャにステップアップしたつもりになっている俺が、スカした顔になりながら玄関の引き戸の横で待っていると、急にパシャッと引き戸が開いた。


「諒太、お待たせっ」


 愛莉が麦わら帽子を被ってから出て来る。


 いつものアンダーツインテを解いて流した髪は、瑠衣にも負けず劣らず艶があってサラサラとした髪で、風に靡くと優しい香りが俺の鼻腔を擽った。


 田舎、天然美少女、麦わら帽子……いかにもke●が好きそうなシチュエーションだ。


 ただ、ke●にはなさそうな"爆乳"がそこにはあった。


「諒太どしたの? あ! 諒太ったらまた愛莉の胸元見てる!」

「え、そりゃ見てたけど……前に見てもいいって言ったのは愛莉の方だろ?」

「そっ、それはそうだけど! もー! ちょっとは誤魔化そうとか思わないの?」

「許可を得たなら遠慮はしない。それが男だからな」

「はぁ……諒太のえっち」


 許可してる愛莉も十分にドスケベだと思うのは俺だけだろうか……(否。愛莉も相当ドスケベである)。


「おっぱいはさておき。早く虫とり行くよ!」


 おっぱいはさて置くらしい。


 愛莉が田舎道をどんどん歩き出すので、俺はその後ろをついて行く。


「それで、肝心のカブトムシはどこで獲るんだ?」

「村長の山!」

「そ、村長の?」

「この村の村長がね、裏山の所有者なの!」


 愛莉は裏山を指差しながら言った。

 どうやら裏山というのは、この村の奥にある無駄にデカい山のことらしい。


「虫とりの許可はおばあちゃんが村長から貰ってくれたみたいだから」

「愛莉のおばあちゃん用意周到すぎるだろ」

「まぁ村の人はみんな家族みたいなものだからねー」


 みんな家族……か。

 隣の家の人とほぼ会話をしたことがない俺にとっては、あまり分からない感覚。

 これが街と田舎の違いってやつか。


 その後も俺たちは話しながら裏山の山道入り口まで移動し、夕陽に照らされながら裏山の山道を歩く。


「うーん、この木もいいなぁ」


 歩きながら道沿いにあるちょうど良い木々の中からどの木にするか愛莉が吟味している。


 あんまり遅くなると日が暮れるし、蚊も多いから早く仕掛けて欲しいものだ。


「なあ愛莉。木なんてどれも変わらないと思うが……って、ん?」


 愛莉が木を選び終えるのを愛莉の背後で待っていると、何やら頭上から羽の音がして……お、おいおい!


「うわっ、ハチじゃねーか!」


 昔から大のハチ嫌いである俺は、頭上のハチを確認した瞬間、反射的に逃げようとしたのだが。


「あっ」


 山道は足下が悪く、急いで動いた俺は足を滑らせてしまい、思いっきり前へ転びそうになってしまう。


「あ、愛莉っ! 退いてくれ!」

「えっ?」


 愛莉とぶつかりそうになって必死に叫んだが、時すでに遅し。


 木を選んでいた愛莉がこちらに振り向いたことで、俺は愛莉の胸元に向かってダイブする形で転び、俺を受け止めた愛莉も尻餅をついてしまった。


「いっ! あれ? い、痛く、ないな。それになんだ、この、柔らかな……あ」


 俺が顔を上げようとした時、顔の両頬にもっちりとした柔らかい感触があった。


「いったぁ〜、ってちょっと諒太!? なんでっ!?」


 俺の両頬を包み込むように挟んでいたのは、愛莉の爆乳デカパイ、だったのだ。


 ラノベでよく見かけるマシュマロという比喩とは違い実際はもっともっちり柔らかく、服の上から当たる愛莉の爆乳サンドは、低反発ビーズクッションのように優しく俺の顔を挟み込んだ。


 お、おぱ!? これが、ホンモノのおぱ、おっぱいの感触!?!?

 おっぱいマウスパッドなんか比にならないくらい、生の感触に心から感動してしまう。


「う、うおぉぉおおおおおおっ!」

「諒太、早く退いてよっ」

「あ、はい」


 感動のあまり雄叫びを上げようとしたら、愛莉から怒られてしまった。


「もー! わざと愛莉のおっぱいに飛び込んで来たでしょ!」


 愛莉はパッパとお尻を払いながら、明らかに怒った様子で聞いて来る。


「こればっかりは違う! ハチが俺の頭の上を飛んでて!」

「怪しい……てかハチなんかいないし」

「ほ、本当にビックリしたんだ! 信じてくれ!」

「もぉ、日頃の行いが悪いからでしょー?」


 愛莉はぷくーっと頬を膨らませて、俺に疑念の眼差しを向けて来た。


(く、クソっ! 本当だってのに!)


 普段の自分をこんなに恨んだことはない。


「はぁ。でも諒太が無事で良かった」

「え?」

「愛莉のお願いでわざわざ山まで来てるのに怪我させちゃったら申し訳ないもん。だから良かった」


 愛莉は優しく微笑みながら、俺の顔に付いていた土をそっと払ってくれた。


「あ、愛莉……ありがとう。あとごめん、急に押し倒しちゃって」

「もうそれはいいからっ。愛莉は尻餅ついただけだし、ぜんぜん怒ってないよ?」


 愛莉……マジで優しさの塊すぎる。


「でもね、そーいうエッチな疑惑がかかりそうな行為は、愛莉以外にやったら嫌われちゃうかもしれないし気をつけなよ? 特に優里亜とか怖いし」


 なんかそれ、優里亜にも似たようなこと言われたような。


「さっ、早く良い木を見つけて戻ろ? 本当に居るかも分からないハチさんに刺されちゃうかもだしー」

「い、いたんだよ! 本当に!」


 愛莉に揶揄われながらも、俺たちは木に罠を仕掛けて山道を戻るのだった。

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