第112話 爆乳の遺伝子


 愛莉と……お泊り!?


 突発的に出現した全男子が喉から手が出るほど羨ましがるウハウハイベント。

 つ、つまり、愛莉と一夜を共にする……ってことだよな?


「あれれ、今日は"泊まり掛け"になるって言ってなかったっけ?」

「い、言われてないが!?」


 あまりにもご褒美が過ぎるだろ!

 俺はさっきからピンク色の妄想しか頭の中に浮かんで来ない。


「あ、もしかして諒太のお家って門限があったり、お泊り禁止だったりする?」

「それは多分ないと思うけど、一応、後で許可は貰っておく」

「ほんと? ありがとう諒太っ。お母さんによろしく言っておいてねっ」


 愛莉のやつ、異性とのお泊りを嫌がらないなんて……警戒心なさすぎだろ。


 いくら俺たちは友達だからって、これでも俺は男なんだぞ?

 寝込みを襲う可能性も……いや、俺はチキン過ぎてできないが。


(やっぱり俺って愛莉には『男』として見られてないのかなぁ)


 あくまで『仲良しな異性の友達』って思われてる可能性あるよなぁ。


 俺は愛莉の後ろについて行くように家へ入ろうとしたが、古民家の引き戸の前で急に愛莉が足を止めた。


「ん? 愛莉?」

「その……ほんとはね? 諒太と二人きりのお泊りだと緊張しちゃうから、優里亜や瑠衣ちゃんにも来て欲しかったんだけど……結局、二人でお泊まり会することに、なっちゃったね?」


 愛莉は困り眉にニヤけ顔でそう言った。


「やっぱり愛莉、緊張しちゃうかも」


 お、おいおい、それってつまり……愛莉は俺を男と意識して……い、いや、どっちだ?


 困惑のお泊まり会が始まる予感がしていた。


 ☆☆


「お、お邪魔しまーす」


 俺はぺこりとお辞儀しながら、靴を脱いで家に入る。

 足下の床はギシギシと軋み、年季が入って色褪せた木材の壁やつい穴を開けたくなる障子など、来たこともないのに実家に帰省して来た感がある。


(なんだこのノスタルジーの集合体みたいな家は)


「ねえおばあちゃん。寝泊まりできそうな部屋って、やっぱりしかないかな?」

「そうだねぇ。他の部屋は荷物置きになってるもんでねぇ」


 愛莉たちが今晩寝る部屋について話しているようだが……。


「あそこってなんなんだ?」

「屋根裏部屋のことっ!」

「や、屋根裏部屋ぁ?」


 背が低い古民家だから2階はないと思っていたが、この家には屋根裏部屋があるらしい。

 俺は愛莉に案内され、俺たちは屋根裏部屋へ繋がるハシゴを登る。


「ここが、その屋根裏部屋か」


 屋根の形で合掌した天井と、そこそこ広めの一室。

 床にはカーペットが敷かれており、タンスとちゃぶ台が置いてあるが家具はそれだけで、他には何もない殺風景な部屋だった。


(どうやらこの部屋は荷物置きとかにしてないっぽいな)


 愛莉は部屋にある小さな窓を開けて換気する。

 すると涼しい風が埃っぽい屋根裏部屋に入って来た。


「愛莉この部屋大好きなのっ。なんか秘密基地みたいでしょ?」

「そうだな。子ども心を擽るちょうどいい部屋というか」

「むぅ、愛莉は子どもじゃないもん!」


 どう考えても愛莉は子どもだろ。爆乳以外。


「それで、俺はここで寝てもいいのか?」

「うん! 今夜はお布団をここに寝て、明日の早朝に起きたら虫取りの本番だよ!」

「ああ、分かっ……ん? 待て。?」

「うん!」

「あ、愛莉もここで寝るのか?」

「もちろん! この家狭いから寝泊まりできる部屋なんて屋根裏のここくらいだし」


 そ、そんなバカなっ!

 じゃあ今夜は文字通り愛莉と一夜を共にすることになるじゃねえか! 今日はアレ持って来てねえぞ!


「もし諒太が嫌なら愛莉は食堂のテーブルの下で寝るけど……」

「んなとこで寝るな! 分かったから! ここでいいから」


 仕方ないなぁ〜みたいな雰囲気を出しているが、内心はむしろ大歓迎である。


「……そっか! じゃあ一緒に寝よっ?」

「お、おう」


 愛莉はどう思っているか分からないが、女子と同じ部屋で寝るなんて保育園のお昼寝タイム以来だから、かなり緊張してきた……。


(もしも愛莉とその場の流れで"朝までコース"になっちまったら、虫取りどころの騒じゃないぞ……)


「あ! まだあったんだこれ!」


 俺が邪なことばかり考えて前屈みになっていると、愛莉がタンスの中から何かを見つけて取り出した。


「これ、写真か?」

「うん! おばあちゃんが若い頃の写真! すっごい美人さんだよねぇ」

「ふーん……んん!?」


 愛莉から渡されたモノクロ写真には、若かりし頃の愛莉のおばあちゃんらしき人物が写っていた……のだが。


(愛莉のおばあちゃん……"胸"デカすぎだろ)


 海辺で純白のワンピースを身に纏った愛莉のおばあちゃんは、髪型が完全にサザ●さんヘアなのに対して、その胸元だけは日曜18時に絶対流せないレベルの爆乳であり、超ド級エロさを誇っていた。


(あっ、あのおばあちゃんも昔はこんな爆乳だったのか……こ、これが、爆乳の遺伝子)


 こうなって来ると愛莉の母親も見たすぎるな。


「愛莉も早く大人の女性になりたいなぁ」

「大丈夫だ。もう立派だから」

「さっきは子ども扱いしたくせに。今度は立派ってどゆこと?」


 爆乳おばあちゃん(通称BB)は、愛莉に素晴らしいものを与えてくれたんだな。

 BB、あんたの遺伝子最高だぜ。


「諒太? なんで悟った顔してるの?」

「あーいや、なんでもない。それよりさっき、夕方から何かするみたいなことを言っていたが、何をするんだ?」

「ふふん。よくぞ聞いてくれました! 夕方になったらね、"蜜"を塗りに行くよ!」

「み、蜜?」

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