第111話 田舎で二人がヤリたいこと
夏休み初日から愛莉に連れられやって来たのは……ど田舎だった。
そこは俺たちの住む市街地から、バスを乗り継いで2時間ほどの場所にある大きな山に挟まれた山村地域。
辺りを見渡すと青々と茂った大自然・古びた民家・田畑・公民館、という、ど田舎のジオラマセットでも見ているかのような田舎らしい建物しかない。
(マジの田舎ってこれほどまでに凄いのか……)
「泉谷さんや、いつも愛莉と遊んでくれてありがとうねぇ」
バス停で俺たちを迎えてくれた愛莉のおばあちゃんは、おばあちゃんらしい慈愛に満ちた笑みでお礼を口にする。
「い、いや、俺の方こそ愛莉さんにはいつもお世話になっているというか」
「そーいうお堅いのはいいから! 諒太っ、早く今日の目的探しに行くよ!」
「お、おう」
愛莉に急かされ、俺は目的を探すための準備を始めることに。
(今日の目的……か)
俺は、ふとここに来るまでの経緯をぼんやりと思い出した。
——遡ること1週間前。
俺に夏休みの間、好き放題命令できるという罰ゲーム(ご褒美)の最初の命令権をかけ、美少女三人衆はじゃんけんを始めた。
「「「じゃーんけーん、ぽいっ」」」
俺はてっきり、瑠衣が一人勝ちするいつものパターンを想像していたのだが、目の前で決着した結果は違った。
愛莉はチョキを出したのに対し、優里亜はパー、瑠衣もパーを出したことで1発で勝負がついたのだ。
「やったよ諒太ー! 愛莉が最初にお願いできるー!」
「あーあ。愛莉のことだからいつも通りグー出すと思ったんだけどなぁ」
「二人がそう思うと思って裏をかいたのっ! テスト勉強を経て、愛莉も少しは賢くなったから!」
愛莉はドヤ顔で思いっきり胸を張ったことにより、その反動でデカパイがゆっさゆっさと揺れる。
(おほぉ……これはこれは……って、ん?)
俺が胸ばかりガン見していると、横から負のオーラが漂って来る。
こ、このオーラは……。
「ふふっ…………まさか、このわたしが負けるなんて」
そう……黒木瑠衣だ。
じゃんけんに負けたことでいつも以上に目を細めながら眉を顰めていたのだが、それでも次第に笑みを浮かべる。
「愛莉、良かったわね? わたしも愛莉はグーだと思ったけど、まさか裏をかいて来るなんて読めなかった」
「えへへー、瑠衣ちゃんに褒められちゃった」
瑠衣は愛莉と普通に笑顔で会話しているが、チラッと見える後ろに隠した手には、グッと拳が握られていた。
瑠衣は何においても完璧主義だから、じゃんけんみたいな運ゲーですら負けたら相当悔しいのだろう。
もしくはよっぽど最初に俺へ命令したいことがあったのかもしれないが……それは、考えないでおこう。
「そんでさ、愛莉は諒太に何命令すんの?」
「えっとねー、諒太への命令はもちろん、みんなにもお願いしたいことなんだけどー」
「あ、あたしらも?」
優里亜が首を傾げると愛莉はこくりと頷いた。
「愛莉、今年こそカブトムシ捕まえたいの! あとオオクワガタも!」
「「「え……」」」
「だから愛莉の命令は、夏休みに入ったらすぐにみんなで森へ行って昆虫採取をするってこと! どうかな!」
どんな命令が来るかと思ったら、昆虫採取って……やはり愛莉は愛莉だな。
「えっと、あたしはパス。虫とかマジむり」
「酷いよ優里亜! 虫さんだって必死に生きてるんだよ!」
「いや……虫が生きてるの見るとあたしが死ぬ」
真顔で言った優里亜の目は、死んだ魚の目をしていた。
(優里亜のやつどんだけ虫嫌いなんだよ)
「なら瑠衣ちゃんはっ? みんなでカブトムシ取ろうよ!」
「わっ、わたしもパスかなぁ……虫はキモ、じゃなくて、夏休み入ったらすぐに大切な記録会があってー」
おいおい瑠衣まで……。
どうやら美少女三人衆の絆とやらは、虫の前だと無力らしい。
「もぉ〜、酷いよ二人とも! 愛莉はみんなでカブトムシ取りたいのに」
「ごめんて愛莉。でもさ、今回は諒太がいるじゃん」
「そうだよ愛莉? 諒太くんが一緒だから、わたしたちはいいよね?」
優里亜と瑠衣が、急に俺を人柱にしようとして来る。
「待てよお前ら! 俺だって昆虫は苦——」
「あたしらの命令は絶対聞く……約束したよね? 諒太?」
「そうだよ、諒太くん」
優里亜と瑠衣が悪魔のようなことを言い出す。
こ、こいつら……っ!
「諒太も、愛莉と虫取りしたくないの?」
愛莉は今にも泣きそうな声をしながら、上目遣いで聞いて来る。
こ、ここでその顔は……ずりぃだろ。
確かに命令を聞くのは絶対という約束なので、ここに来て断るわけにもいかない。
「……わ、分かったよ。する! 虫取りするから!」
「ほんとに! やったー!」
泣きそうな顔から一転して満面の笑みを浮かべながら胸を揺らす愛莉。
こうして俺は愛莉と二人で虫取りをすることになり……今に至る。
(こんな真夏にど田舎まで連れて来られて、好き放題蚊に刺されている現状……はぁ)
「とうちゃーくっ」
「ん?」
バス停の近くにある古民家の前で急に愛莉が足を止めた。
「ここがね、愛莉のお母さんの実家なのっ」
「へぇ、お母さんの」
「とりあえず荷物はここに置いて、夕方までのんびりしよ? いいよねおばあちゃん?」
「もちろんだよぉ。川で冷やしてるスイカもあるからゆっくりしていきなねぇ」
田舎の古民家でキンキンに冷えたスイカ……か。最高に日本の田舎って感じだ。
じゃあとりあえず、夕方まではここでお邪魔して…………って、いや、ちょっと待て。
「お、おい愛莉」
「なあに諒太? おトイレ?」
「そうじゃない! 夕方ってもうバスがないんじゃ」
「うん。そうだけど? それがどうしたの?」
そうだけど、じゃないんだが!?
「ってことはまさか……ここでお泊りってことか?」
「え? そうだけど?」
そうだけど、じゃないんだが!?
(本日2回目)
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