第110話 勝負の行方、夏休み
「じゃんけん? じゃあ、もし愛莉が勝ったら、愛莉が最初に諒太と遊んでいいってこと?」
「そそ。じゃんけんに勝ったやつが夏休みの一番最初に、買い物の荷物持ちでも、使いっ走りでも、なんでも諒太にお願いできるってわけ。どうよ?」
「ふふっ……それ、いいね。わたしもそれで構わないよ?」
なにが「構わないよ」だ。勝手にポンポン決めやがって……俺には発言権がないってことか?
優里亜の提案で、当人である俺を蚊帳の外にしながら約束の話が進んでいく。
「諒太、覚悟しときなよー? あたしら約束通り赤点回避したんだから、今さら何言っても拒否できないし、とことん付き合ってもらうし」
「ま、まぁ……それは別に構わないんだが」
この3人に夏休みも振り回されるなんて、俺にとってはただのご褒美イベント。
それに、3人の私服(しかも夏の薄着)がワンチャン見れるという貴重な機会。逃すわけにはいかない。
まぁ、そう考えると断る理由なんて微塵もないのだが……たった一つ、懸念点があるとすれば。
「……ふふっ。じゃんけん」
1人げに小さく笑みを浮かべながら俺を横目で見て来る瑠衣。
良からぬことを考えているに違いないので、あの瑠衣が変な命令をしてこないか、という一番の懸念点があるのだ。
(わたしのことを好きになるまで監禁……とか言い出したら流石にヤバい。俺がその手のプレイでも興奮してしまうことがバレる)
俺がそんなことを考えていたら、どこからか伸びて来た瑠衣の手が、俺の腕を思いっきりつねって来た。
「いっ! な、なにすんだよ瑠衣」
「諒太くん? あんまりわたしに変なこと考えてると、わたし本当にするよ?」
なっ……なんでナチュラルに俺の思考を読んでんだこいつ。
「お、俺の頭の中を読むなっ」
「そんなことできないよ?」
「で、でも俺の考えてること」
「だって諒太くん。さっきからやけに猜疑心に満ちた目をしてたから。別にわたしは変なお願いなんてするつもりないのに」
どうかな。その割に、この前その話をした時は「どこかへ連れて行く」みたいなこと言ってたし。
でもまぁ、黒木瑠衣ほど人間離れした才能の持ち主なら、常人にとって運ゲーのじゃんけんすらも余裕で勝てるんだろうな。
「んじゃ、そろそろじゃんけんするよ」
3人は向かい合って手を出す。
俺は席に座りながら、目の前で繰り広げられる俺の所有権をかけたじゃんけん大会の様相を見つめていた。
「「「じゃーんけーんっ!」」」
全員が各々の手を出した瞬間——1発で勝負はついた。
「……え?」
☆☆
——迎えた夏休み初日。
夏休み突入と同時に、本格的な夏に入り、外にいればジンワリと汗が滲み出て来るくらいには暑い。
そんな真夏の夏休み初日に俺はどこにいるかというと……。
「諒太諒太っ、もうすぐおばあちゃん家に着くよ〜」
エアコンの効いていない上に空席が目立つオンボロバスに乗りながら、田んぼばかりの田舎道を走って1時間半。
バスから降りると、俺は森林に囲まれた自然豊かで空気の澄んだ田舎町にいた。
「あらあら、よく来たねえ愛莉」
「おばーちゃん迎えに来てくれてありがとー! あ、こちらは愛莉のお友達で泉谷諒太くんです」
「あらあら、彼氏かい?」
「もー、違うよー!」
そう——俺はじゃんけんの勝者である愛莉のとある目的のために、ど田舎にある愛莉の実家に来ていたのだった。
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