第108話 一緒に行きたい場所


 ——期末テスト当日。


 俺はいつもの時間に目を覚まし、いつもの時間に朝食を摂ると、いつもの時間に家を出る。

 年に数回のテストの日とはいえ、普段通りの生活を心がけるのは大切だ。


 テストの日だからって、変に緊張したりソワソワするのは良くな——。


「おはよう諒太くんっ。今日はテストだね?」


 俺がを心がけるように、いつもの時間にいつもの場所でいつもの黒木瑠衣が立って待っていた。


 家の門の前で、その長い黒髪を靡かせながら手を振る瑠衣。


(そこだけは別にいつも通りじゃなくていいんだが……)


「お、おはよう瑠衣……今日もわざわざ来てくれたのか?」

「うん。確かに今日はテストの日だけど、が、大切だからね」


 いつも通り、か。なんで俺と同じこと考えてんだよ……。


 果たして瑠衣と一緒に登校するのがいつも通りになりつつあるのは、良いことなのか悪いことなのか。

 そんなことを考えながらも、俺は今日も瑠衣と一緒に高校へ向かうことに。


「なんか見るからに余裕そうだけど……1位のプレッシャーとかないのかよ」

「もちろん。だってわたし、特別なことしなくてもいつも完璧だから」


 瑠衣は可愛らしく微笑みながら、可愛げのないことを言う。

 何が「特別なことしなくても」だ。

 そもそも瑠衣は特別な才能持ってるくせに……っ。


「でもインハイが近いから最近は部活が忙しかったんだろ?」

「それはそうだけど……良く知ってるね?」

「そりゃ、どっかの誰かさんが練習後に自撮り送って来るからな。以前の写真と比べると最近の自撮りはなんか疲労感というか、汗の量が前と違うっつうか」

「へぇー? 諒太くんってわたしの自撮り写真の汗の量まで見てるんだ……?」

「えっ、あっ、いや……」


 話の流れでついポロリと口にしてしまい、俺が瑠衣の自撮り写真を隅から隅まで隈なくチェックしていることがバレてしまう。


(かっ、完全に誘われた……何でこんな見え透いた罠に引っかかるんだよ俺っ!)


 瑠衣は目を細めながら淑やかに微笑んだ。

 まるで『計画通り』と言わんばかりに。


「そうやってすぐに、いたいけな童貞を揶揄うんじゃない!」

「別に揶揄ってないけど?」

「揶揄ってるだろ! お、男なら誰だって同級生の女子から微エロ自撮り送られたらじっくり見るものなんだよ! 思春期なんだから!」


 もはや子供みたいに逆ギレすることで、俺はこの場を乗り切ろうとする。

 あまりにも苦肉の策すぎるだろ。


「ふふっ……これなら他で満足できなくなるのも時間の問題かも……」

「は、は?」

「……楽しみ」


 な、何が楽しみなのかはよく分からないが、とりあえず今後も写真は貰えるってことでいいんだよな?


「あっ、それはそうと諒太くん? もしあの2人が赤点を回避したら、諒太くんは夏休みにわたしたちの言いなりになるけど、大丈夫?」

「そ、それは……もう、約束しちゃったし仕方ないというか」

「本当は満更でもないくせに」


 よ、良くわかっていらっしゃる。


「諒太くんを好き放題に出来るなら……

「き、来てもらう? え、どこに?」

「それは……うん。テストが終わってからのお楽しみってことで」


 瑠衣はあざとくウインクしながら言った。


(一体どこに連れて行かれるんだよ……! 怖すぎだろ!!)


 どっかの山奥とかに連れて行かれないことを祈るばかりだった。

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