第107話 優里亜の逆バニー?
「い、市之瀬さんもコミケ行きたいんですか? 私が言うのもアレですが、コミケってかなりオタッキーなイベントですけど」
「あたしそーいうの気にならないし、それにオタクは諒太で慣れてるから」
「で、でもでも! ほら! 市之瀬さんほど美少女だと、人混みでお、お尻とか触られちゃうかもしれないですし!」
なんだよ田中のやつ適当なこと言いやがって……俺を含めた全国のオタクに謝れっ(優里亜は尻よりも太ももが常識だろ!)。
でも、どうして田中は少し心配気味なんだ?
なんか田中らしくないな。いつもの田中なら『うひょー、市之瀬さんも来るなら逆バニーコスとか用意しておきますねー!』くらいは言いそうなものだが……。
優里亜がガチめのオタクってこと知らないから、ノーマルな人と一緒だとオタク全開で楽しめないと思っているのかもな。
問題行動起こしまくりな田中だが、なんだかんだで空気とか読める時は読めるし。
しかし優里亜の事情を知っている身として、ここは優里亜も参加できるように話を通すか。
「なあ田中。本人も行きたいって言ってるんだし、俺たちオタクとしてはギャルをオタクにする絶好の機会だろ? 別にいいじゃないか」
「そ、それは……」
「ん?」
「……諒太くんがそう言うなら分かりました。夏コミ、3人で行きましょうかっ」
さっきまでやけに難しい顔をしていた田中だったが、急にいつもの調子を取り戻した。
「あ、でもその代わりと言ってはなんですが、市之瀬さんには逆バニーコスで参加してもらいますから」
「えっ! あたしが!?」
ああなんだ、いつもの田中じゃないか。
優里亜の逆バニー……たまらんな。
「いや! 逆バニーって! 大事なとこ全部見えちゃう奴じゃん! あんなので歩いてたら普通に補導されるし!」
「それは確かに……って、あれ? 市之瀬さん逆バニーをご存知なのですか?」
「「あ」」
げっ……そ、そうか。
逆バニーって一時期オタク界隈でブームになって、絵師たちのトレンドにもなっていたが、オタク以外で逆バニーを知ってるやつなんてA●ガチ勢くらいだ。
まずいな、このままだとオタクバレ……。
まだ期末テストの山すら超えてないのに、音速でオタバレしそうになってる優里亜も優里亜だろ。
仕方ない。いつも通り俺が助け船を出してやろう。
「じ、実は、逆バニーは俺がこの前教えたんだよ!」
「諒太くんが逆バニーを教えた!? もう、最低ですよ!」
逆バニーのコスプレさせようと言い出したお前にだけは言われたくないが。
「ま、逆バニーとまでは言わないが、バニーコスはしてもらおうかな」
「いいですねえ。市之瀬さんのスタイルならカメコも山ほど集まりますよ」
「す、するわけねえし! あたしそう言うの興味ないから」
と、優里亜は否定したが、前に「部屋に来ればメイドコスを見せてあげる」と言われたのを覚えているので、単に優里亜は知らない輩には素肌を見られたくないということだろう。
優里亜って太もも見せるのは恥ずかしくないのに、変にガード固いんだよなぁ。
(でも、優里亜のコスプレか……)
「諒太、なにニヤけてんの?」
「いや、なんでもない」
ど、どうやら顔に出ていたようだった。
☆☆
「じゃあ諒太くんまた。お邪魔しましたー」
「諒太、またね」
「おう、二人とも気をつけて」
二人を玄関先まで見送り、俺は家の中へと戻る。
「はぁ……やっと一人になれる」
毎回毎回、女子が部屋に来るたびにとんでもないことが起きて心労が半端ない。
しかし今日は優里亜にゴムバレして没収されたものの、買った箱は二つなので実はまだ本棚の隅に隠れている。
(もう一箱は、大切に保管しておいてもいいし……最悪一人でも、使えるワケで)
と、いやらしいことばかり考えていたら、limeにどこぞの学年1位から写真が送られて来た通知があった。
俺はそれを確認するやいなや、晩飯を後回しにして部屋へ飛び込む。
『瑠衣:今日はスイムトレだったから、特別に水着だよ? どうかな?』
今日の瑠衣の自撮りは、鏡に映った自分のスク水姿を送って来た。
「……って、スク水だと!?」
スク水は身体のラインがしっかりと見えてしまうため、相変わらず腰周りが細く、筋肉質な長い脚が見えた。
また、愛莉や優里亜と比べるのは良くないが、こうやってスク水姿を見ると瑠衣にもちゃんと年相応の胸の膨らみがある。
(や、やっぱ瑠衣のスタイル……良すぎるな)
自分が美少女という自覚がある上でこんな写真を思春期真っ只中の男子に送るのはアウト寄りのアウトだろ……。
(ギャルなのに恥ずかしがる優里亜とは正反対に、清楚な雰囲気があるくせにこんなコスプレ紛いの自撮りを、恥ずかしがらずに送って来る何考えてんだか分からない学年1位もいるんだけどな)
俺は速攻で写真を保存すると、limeの返事として、下ベロを出しながら息を荒くするガンギマリチワワのスタンプを送り返す。
「それにしても瑠衣とこんなやりとりを始めてもう数ヶ月……か」
偶然とはいえ、あの黒木瑠衣の窮地を2度も助けたのが俺だったらしい。
瑠衣がやけに俺に絡んで来るのも、それが原因なのだろう。
そして黒木瑠衣が生徒会長になったら……俺は。
「い、いやいや、まだ決めてないだろ! そもそも副会長なんて俺の柄じゃないし……」
と、言いつつも、スマホの写真フォルダに目を落とす。
「自撮りが終わっちまうのは……寂しいよな」
もはや黒木瑠衣の自撮りは、俺にとってア●プ●みたいなサブスクだ。
無くても良かったはずなのに、一度その良さを知ってしまうと抜け出せないレベルのサブスク……まさにサブスク地獄。
「結論は夏休み明けでもいいって言ってたし、副会長をやることでこの関係を続けるのかどうか、それは夏休み明けの俺に決めさせればいいか」
悠長にそんなことを考えながら、俺は週末の学期末テストを迎えるのだった。
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