第93話 勉強会はイチャイチャタイム
海山から家へ行きたいと言われたので、もしかしてワンチャン誘われているのか? と勘違いしていた俺は、昨日の帰りにアレをする上で必要なものを2箱買って、翌日を心待ちにしていた。
そして翌日。
海山は俺の部屋に入るなり、部屋の隅にあったちゃぶ台を中央に持って来て、カバンからとあるものを広げると、床にあったクッションに座る。
「じゃあそろそろ、始めよっか……勉強会っ!」
「ああ。俺の方も準備万端……って、勉強会?」
「うん! だってテストまであと2週間だよ? 次赤点取ったらバイト禁止になっちゃうから、勉強会やろって約束したじゃん!」
一体何をするのかと思ったら……ただの勉強会だったのだ。
俺が待ち望んでいたのは保健体育の実技だったのだが、ただの勉強会……。
「諒太の部屋のクーラー涼し〜、愛莉の家ってかなり昔のクーラーだから電気代ヤバいし、時々バカになっちゃうんだよねえ」
海山はその爆乳をちゃぶ台にどっしり乗せながら、手をうちわ代わりにして扇いでいる。
こうやって見てるだけでも海山はあまりにもエロすぎるが……保健体育のテストで黒木と並んで学年一位だった俺の(性)知識を満遍なく披露できると思ったのに、ただの勉強会かぁ……。
期末テストまでは残り2週間。
一応、県内随一の公立進学校である俺の高校では、文化祭の後は一転、みんな勉強ムードに変わるのは恒例である。
「勉強会するのはいいけどさ、海山は前回、何教科赤点だったんだ?」
「ほぼ全部!」
「ああ、じゃあ詰んだな」
「もぉ、諦めないでよっ。愛莉はまだ諦めてないよ!」
海山はフンスと鼻息を荒くしながら胸をバルンと揺らす(アレを期待していたからいつも以上に海山の胸にしか目が行かない)。
「絶対、赤点回避するもん! 勉強もバイトも両立しないと!」
本人が諦めてたらもっと状況は悲惨だが、まだ救いがある方か。
「お願い諒太! 来週からまた少しずつバイト入らないといけないし! 今日だけである程度やっておきたいの!」
「分かった分かった。約束してたんだし、今さら手伝わないなんて言わないよ」
「ほんと!? ありがとう諒太っ!」
海山は満面の笑みで白い歯を見せると、嬉しそうに勉強を開始した。
こんなにやる気あるなら普段から勉強して欲しい気もするけど、海山はバイトとか色々と忙しいもんな……。
お母さんと二人暮らしって言ってたし、バイトだけじゃなくて家事とかも大変なのだろう。
あんまりキツく言っても可哀想だし、優しく教えてあげないとな。
「諒太ぁ、ここ分かんない」
「ん? どこだ?」
「このページ全部〜」
「……」
いや、やっぱ厳しく行くか。
☆☆
数学、現国、古文のテスト範囲を一気に復習しながら、時折テストも織り交ぜて教えていく。
「……よし、これも正解だ。やればできるじゃないか海山」
「へへーん。これでも愛莉、一夜漬けのプロだから記憶力はいいんだからっ」
一夜漬けのプロって誇れるのか……?
「じゃあ高校受験も一夜漬けだったのか?」
「一夜漬け1週間分で合格したよ!」
一夜漬け1週間分ってなんだよ!
それはもう一夜漬けとは言わないのだが。
「って待て。つまり海山は1週間しっかり勉強しただけで、うちの高校に合格したってことか?」
「うん! 前にも話したけど愛莉の家の財力じゃ私立なんてとても行けないし、ある程度近所が良かったから、愛莉の進学先は西中のヤンキーばかり集まる不良公立か県内トップの学力を誇るうちの高校の2択だったんだー。愛莉ヤンキーとか嫌いだし、新しい自分を見つけるためにもうちの高校を選んだのっ」
選んだのって、選ばれる側のはずなのにまるで選んだような言い方……俺なんて1年間予備校に通い詰めて死ぬ気で受かったってのに。
ひょっとして海山ってしっかり勉強したら化けるタイプの天才……なのか?
「高校に入るまでは良かったけど、入ってから苦労しちゃって。テストは散々だし」
「でも俺が教えたらすぐできるようになったじゃないか。凄いぞ!」
「そう? じゃあじゃあ! ご褒美になでなで、して?」
「は? なで?」
海山は俺の手を取ると自分の頭に乗せる。
頭を、撫でろと言うことか?
(ラノベとかだとよくある「撫で撫でシチュエーション」だが、実際の女子は頭を撫でられるのが嫌みたいな話を聞いたことがあるが……)
「はやく撫でて〜」
「お、おう」
海山は甘え上手だし、こういうの好きなのか……?
俺はそのまま海山の頭を撫でる。
海山の髪はサラサラしてて、撫でれば撫でるほど甘い香りが匂って……ヤバい。この匂いだけで白米いける。
「むふぅ……やっぱりなでなでは誰にしてもらうかだよねぇ」
「なんだよそれ。俺じゃ不満ってことか?」
「うーん、どうだろうねー」
海山にしては珍しくはぐらかすような言い方をした。
やっぱ不満なのか?
「男子の手って大きいよね。愛莉は諒太しか男子のお友達いないから、他の男子がどれくらいなのかよく分からないけど、諒太の手は大きくて、凄い安心する」
海山はそう言いながら目を閉じて俺のなでなでを味わっていた。
「男子といえば。市之瀬と黒木についてる『嘘の彼氏』の件、まだバレてないのか?」
「へ? バレてないよ? 多分」
「でもキャンプファイヤーの時に『彼氏欲しー』とか言ってボロ出してたし、バレるのも時間の問題だと思うが……嘘だとバレる前に一旦、別れたとか言っておいた方が、いいんじゃないか?」
「えー! でもそれだとバイトで忙しい時の口実がなくなっちゃうしぃ……」
やっぱりバイトの件を隠したいって気持ちは強いんだな。
あの3人の絆なら、海山が家庭の事情でバイトしてることについても、理解を示してくれると思うが……。
いや、そんなことは海山も分かっているとは思う。でも二人に理解されるからこそ、色々と心配されたり、変に気を遣われるのが嫌なのかもしれない。
海山みたいな真っ直ぐで優しい女の子が、嘘をついてでも守りたい秘密なんだ。
「……でもね」
「ん?」
「愛莉が、本当に彼氏できたら……後ろめたくないかなって……?」
「本当に彼氏を?」
「……や、やっぱなんでもない! ほら、勉強戻ろうよ諒太っ!」
海山はシャーペンが吹っ飛ぶくらいの勢いで掴むと勉強に戻った。
そりゃ、海山にも好きな男子くらいいる、よな……はぁ、羨ましぃ。
「海山、俺は応援してるぞ。彼氏できるといいな」
「…………むぅ」
「な、なんだよ、睨んで」
「……ばか」
「え?」
「もうその話は終わりなの! ここと、ここと、こことここ! 早く教えて諒太!」
「ええ……」
なぜか海山は怒っていた。
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