第92話 愛莉と二人で♡


 キャンプファイヤーの鎮火と共に高校2年目の文化祭が終わった。


 リア充たちの炎も鎮火したからか、高校内は騒がしかった祭りの空気から、疲れ切って落ち着いた空気に戻っている。


 俺たちはクラスに戻って帰りのHRを済ませると、クラスの面々は劇の道具の後片付けを明日にするくらい、クタクタになりながらそのまま下校していった。


「んじゃ、あたしは実行委員の集まりあるから」

「わたしも陸上部のミーティングあるから、先に行くね?」


 優里亜は文化祭実行委員、黒木は陸上部のミーティングで先に教室から出て行った。


 こんな日でも大会を控えた陸上部はミーティングがあるのか……やっぱ運動部って嫌すぎるな。


(さて、俺も帰るとする……か?)


 俺がカバンを持って立ち上がると、前の席の海山がくるりとこちらを向いて来る。


「諒太諒太っ、一緒に帰ろっ?」

「え? あ、ああ。構わないけど」


 黒木も優里亜もいないからだと思うが、海山に誘われて俺は二人で帰ることになった。


 ☆☆


 海山と一緒に校舎から出ると、すっかり頭上の夜空には月が顔を出している。


 もう夜の7時過ぎだもんな……こんな時間に下校するのは久しぶりだ。


「楽しかったね、文化祭っ」

「海山の場合は『楽しい』よりも『美味しかった』だろ」

「なにそれっ! まるで愛莉が食べてばかりだったみたいじゃん!」


 食べてばかりだったと思うが……?


「でも文化祭の食べ物って安いのにすごい美味しかったよねー。毎日文化祭ならいいのに」

「それ、作ってる側からしたらたまったもんじゃないだろ」

「愛莉も来年は飲食系やりたくなっちゃった!」


 自分が食べたいだけだと思うが……今年みたいな劇よりはマシだよな。


「あ、でもやっぱりまた劇やりたい!」

「俺はもう二度と劇はやらない」

「えー! やろうよ! 楽しかったじゃん!」

「だって今回の成功で次の劇も男女逆転で行こうとかそういうノリになるだろ? そうしたら今度も俺がお姫様役を押し付けられるに決まってる」


 陽キャというものは、決まってそういうノリをやりたがる生き物だ。

 今年は俺がそこそこ無難に姫の役を熟したが、このまま来年も俺を主役にすれば面白そうみたいなノリが生まれるのは必然。

 だから劇にするわけにはいかないのだ。


「そんなぁ……今度は愛莉がお姫様やりたかったのにぃ」

「そうなのか? じゃあ海山が男女逆転をやめて、自分がお姫様をやりたいって言ってくれるなら俺は賛同しよう」

「ほんと!?」


 黒木の考案した男女逆転がなければ、俺がヒロインをやらされることもないし、海山はお姫様をやれる。Win-Winってことだ。

 そうなれば俺は、裏方でダラダラしてればいいんだけだもんなぁ……下手に飲食やるより楽じゃないか。


「じゃあ愛莉がお姫様で、諒太は王子様やってね!」

「ああ、任せ……って、王子様? 俺が!?」

「うん! 諒太が王子様やってくれるなら、愛莉がみんなを説得してあげる!」

「いやいや、なんでそうなるんだよ!」

「諒太が主役じゃないと愛莉嫌だもん! 他の男子がやるならやらなーい」

「な、なんだよそれ」


 よく分からないが、どうやら海山はとにかく俺を舞台に上げたいらしい。

 そりゃ話し慣れてる俺となら安心するのかもしれないが……俺の気持ちも考えてくれよ海山ぁ。


「そ、そもそも来年同じクラスになるか分からないし……でもまぁ、検討しておく」

「ほんと? やったー!」

「だから検討するだけだって」


 黒木から頼まれた副会長の件といい、先延ばしにしてる案件がまた一つ増えてちまった……はぁ。


「諒太と……一緒に……えへ」


 夜の暗がりであんまり確認できなかったが、海山はやけに頬を赤らめていた。


「あっ、そうだ諒太。明日の放課後なんだけど……」

「ん?」

「諒太の家、行ってもいい?」

「えっ……俺の家? 急になんだよ」

「だめ、かな?」


 ダメというか、なんというか……海山は俺の家に来たいのか? しかも今回は……一人で。


「お、俺のなんかの家でいいなら……」

「やったー、じゃあ明日は放課後一緒に帰ろうね?」


 なんてことだ。海山から俺の家に来たいだなんて……。


(今日の劇の前のパイタッチ未遂といい、もしかして海山は……のでは……!?)


 期待を胸に、俺は翌日の放課後に海山を家に迎えた……のだが。


「あー、これもこれもこれも、分かんなーい!」

「…………」

「諒太、早く教えてよー」

「…………」


 べ、勉強会だったかぁぁぁあああ。

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