第89話 キャンプファイヤーはあなたと


 屋上へ行くため、俺は優里亜と一緒に階段を上がる。


 この高校では何十年も前から、文化祭の最後でキャンプファイヤーをするのが恒例行事となっており、リア充カップルたちがフォークダンスをするためのリア充専用イベントになっている。

 逆に非リア充の生徒は、屋上やグラウンド側にある教室からそれを眺め、野次馬のように不平不満を口にするのだ。


 まさに天国と地獄。現実はあまりにも非情である。

 ちなみに言うまでもなく非リア充の俺は、昨年のキャンプファイヤーの時間もラノベを読んでいた。

 読んでいたラノベでもキャンプファイヤーのシーンがあって、鬱屈な気持ちになったことを鮮明に覚えている。


「優里亜はキャンプファイヤー近くで見なくていいのか?」


 階段を上りながらなんとなく聞いてみると、優里亜の顔はムスッとなった。


「彼氏いないあたしにそれ聞くの酷じゃね? あんなとこ、バカップルしかいかねえし」


 バカップル……か。

 確かにあんなの、堂々と付き合ってるアピールをしたい輩しか行かないだろう。


「でも……来年は、フォークダンス踊る相手がいたらいいなって、思うけどさ」


 バカップルとか言っといて来年は行きたいとか、お前はどっち側の人間なんだよ。


 まぁ、優里亜の場合はいくらオタクとはいえ、見た目(とデカ腿)が高校トップクラスのギャルなのは違いないし、彼氏がいない現状の方がおかしいくらいだからな。

 非リアには含まれない人間だということには違いない。あと本人曰く性欲強いらしいし。


「諒太は去年のキャンプファイヤーの時、どうしてたん? 意外とキャンプファイヤーの周りにいたり?」

「んなわけあるか。俺は空き教室でラノベ読んでた」

「あぁ、やっぱそうだよねー」


 優里亜は分かりきったような顔で頷きながら言う。

 俺の良き理解者なら、そんな悲しいことをわざわざ聞くんじゃあない。


「つーかあたしらも去年は、キャンプファイヤーの周りじゃなくて屋上からキャンプファイヤー見たんだよね。あたしと瑠衣は彼氏いないし、愛莉は彼氏が他校にいるから」

「ああ……なるほど。それで今年も屋上に行こうって話になったのか」


 まぁ、海山の彼氏ってのはバイトのための真っ赤な嘘なのだが……。

 話しながら屋上のドアの前まで来ると、優里亜が急に足を止める。


「ちなみに諒太はさ、もしもあたしら3人とフォークダンス踊れるってなったら、誰と踊りたい?」

「3人と?」

「あ、田中は無しだから!」


 最初から田中は入ってないが……。

 おそらく田中を"オチ担当"に使うなと言うことであろう。


「まぁ……それなら、優里亜一択だな」

「へっ? ほんと!?」

「だって黒木だと顔とか色々と直視できないし、逆に海山だと目の前にある胸を凝視しちまって周りから変態だと思われそうで」

「なんそれ! じゃあ消去法じゃん!」

「待て。優里亜一択なのは消去法じゃない」

「えっ……」

「優里亜の場合は揺れる太ももに視線が行くから、周りから地面を見てるようにしか見えない」

「結局見るんかい! てか太もも見んな!」


 話の流れで太ももをガン見したら、優里亜にぶっ叩かれた。


「そもそもあたしだって、胸はデカい方なんだけど」

「いやぁ、海山のを見てるとさぁ……なんというか」

「は? あたしのが物足りないってワケ? もういっぺん叩かれたい?」

「あ、はい。喜んで」

「喜ぶなっ! もう、ほんと諒太は……」



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