第88話 ヘソチラ事変


 トイレで衣装から制服に着替えて、体育館の前まで戻って来ると、体育館の前では美少女三人衆が楽しそうに会話していた。


「てか愛莉のボタン弾けたのマジで笑ったー。どんだけおっぱいデカいんだか」

「もぉ、笑い事じゃないよ! 諒太におっぱいめっちゃ見られたし!」

「ふふっ……じゃあ後で諒太くんにはしないとね?」

「おしおきって何するの? あ、もしかしてお尻ぺんぺんの刑とか!?」

「ダメだし愛莉。諒太の場合はそれご褒美」

「え? なんで?」


 三人はデカい声で俺のイメージが悪くなる(自業自得だが)ようなとんでもない会話をしている。

 早く合流しないとヤバいなこれは。


「お、おい、全員揃って俺の悪口大会か?」


 黙っていられなくなった俺は、澄ました顔で三人の会話をぶった斬りながら入って行く。


「あっ、諒太やっと来た!」

「諒太遅いし、お化け屋敷大好評すぎて長蛇の列になっちゃったんだけど?」

「そうだよ諒太くん、謝って?」


 なんか俺が悪いみたいな空気になっているが、どう考えても黒木のせいでもあるだろ。


 それなのに他人行儀になりやがって……やっぱ黒木はどす黒——。


「ふふっ、なんてね。全部わたしの長話のせいだから、みんな諒太くんは責めないであげて? お詫びにこの後、何でも奢るから」

「ほんと!? 瑠衣ちゃん太っ腹〜!」

「あんがと瑠衣」


 や、やっぱり黒木様ですわぁ。

 こうやって他人の感情をコントロールするのが上手いから、何もかも掌握できるのだろう。


「ねえ早く行こー! たこ焼き! 焼きそばっ!」

「ちょ、愛莉走んなし!」


 二人が小走りで体育館から校舎に向かうので、俺と黒木はそれを追うように歩き出す。


「なんか悪いな黒木。お詫びとはいえ、奢ってもらえるなんて」

「諒太くんには奢らないよ?」

「えっ」

「その代わり、諒太くんには……から、それで勘弁してね?」

「良いもの?」


 黒木は言いながら、俺のスラックスのポケットにある膨らみを指差す。


(俺のスマホに何か送ったってことか……?)


 俺は言われるがままスマホを取り出す。

 すると黒木からlimeの通知が来ていた。


(画像が送られて……ってことはまさか!)


 黒木とのトーク画面を開いてみると、そこには。


「な、なっ! なんだと!?」


 送られて来た写真は、いつも通りスマホの内カメラで自撮りした写真と、トイレの鏡越しに撮った写真の2枚。


 ただの自撮りならそれほど驚かないのだが、今回驚いたのは……その服装だ。


 黒木は、の白雪姫の衣装を身に纏っており、その上2枚目の鏡越しの写真では、ヘソのところだけ上着のボタンを外して、わざとらしくチラッと見せているのだ。


(い、いつの間に黒木はこの衣装をっ、しかもヘソチラっ!)


「ふふっ、気に入ってくれた? 昨日の放課後にこっそり撮っておいたものなんだけど……どうかな?」

「えと……この、ヘソチラはどういう」

「なんとなく肌色が少ないと思ったから。変態の諒太くんのことだし、こうすれば喜びそうだと思っただけだよ?」


 くっ……変態呼ばわり……わ、悪くないな。

 黒木にはバレてるのか? 俺のへきがッ!

 ていうか、こんなドスケベ自撮りを送って来る時点で黒木も十分変態だろっ!


「あ、今わたしなこと変態って思ったでしょ?」

「そ、そんなこと思ってない」

「いいよ。わたしも諒太くんと同じですっごい変態だからね」

「自分から言うな! い、一応、お前は清楚で通ってるんだし」


「ふふっ。じゃあ……諒太くんの前でだけ、変態になっちゃうのかも?」


「へ?」


 今日の黒木はやけにその手の発言が多い。

 もしかして……よ、欲求不満、とか?

 えっっっっろ。

 今はこの言葉しか頭に浮かばなかった。


 ☆☆


 校舎に入ると、午後ということもあり、商品が売り切れて片付けを始めているクラスも散見された。


 何か買って屋上で食べるといい話になった俺たちは、階段を上がりながら各階の店を眺めながら歩く。


 事の流れで美少女三人衆と一緒に歩いているが……やはり周りからの視線はいつもより多く感じる。


「ね、諒太諒太! ヤバいよ! 3年A組のポテト屋さん、半額だって! はやく行こうよっ!」


 校舎に入ってからずっとテンションMAXな海山が、ものすごい勢いで胸を揺らしながら報告して来る。

 相変わらず元気だなぁ……海山っぱい。


「愛莉はたこ焼きと焼きそば食べたかったんじゃないの?」

「お昼のオムライス少なかったから、ポテトも食べたい! あとそこのチョコバナナとベビーカステラとー」


 ほんと海山の食欲は底が見えないな。

 もっと食べて大きくなれよ……。


「相変わらず食べるなぁ愛莉は。でも屋上で食べるなら場所取りの方が先じゃね? 文化祭のキャンプファイヤーって、屋上から見てる子多いし」

「えー! でも食べ物売り切れちゃうしー」

「まあまあ二人とも」


 二人の意見が反対になると、すかさず黒木が割って入る。


「ならこうしない? 愛莉とわたしでゆっくり食べ物を買って来るから、諒太くんと優里亜は先に屋上で場所取っておいて? それなら大丈夫だよね?」

「おお! さっすが瑠衣ちゃん!」


 こういう機転が効くところは、まとめ役の黒木瑠衣らしいというか……黒くないな。色んな意味で。


「じゃあ屋上の方はよろしくね、二人とも」

「分かった瑠衣。さ、早く行くよ諒太」

「お、おう」


 こうして俺と優里亜は二人で屋上へ向かうのだった。




— — — — — — — — — — — —

書籍化が決まったからノリノリで書いてる。


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