第75話 優里亜のパンツ(直球)


 高校に着くと、校門には文化祭と書かれた華やかなアーチが建っており、校舎では文化祭の準備で忙しない生徒たちが廊下を行き来していた。


(いよいよって感じだな……)


 1年の時のクラスはチョコバナナの店を開いていたが、もちろん陰キャの俺はほぼ参加していない。

 陰キャの文化祭は大抵、体育館でやってる演劇を見るふりしてパイプ椅子に座りながら寝て過ごしたり、クーラーの効いた空き教室へ行って本を読むものだ。


 実際に昨年、そう過ごした俺にとって、今年はこんな大役を任されるなんて、想像すらしていなかった。


 しかも今年は……一生関わることはないと思っていた美少女たちと一緒だなんて……。


「みんな忙しそう。なんか文化祭って感じだね?」

「そう、だな」

「諒太くんは1年の時、文化祭で何してたの? もしかして田中さんと回ってたり?」

「なんで田中が出て来るんだよ」

「いいじゃん。教えて?」


 はぁ……黒木がしつこいので、正直に答えるとしよう。


「田中とは何もなかった。ちなみにクラスはチョコバナナを売ってたけど、俺はぼっちすぎて店番のシフトにすら入れられなかったから、空き教室でラノベ読んでた」

「なんそれ。マジで陰キャの文化祭じゃん」


 マジで陰キャなんだよこっちは。


「ふふっ。なんか諒太くんらしいね?」

「黒木、お前馬鹿にしてるだろ」

「してないよー? あ、それよりも黒歴史を教えてくれた諒太くんへ、お礼に一つ小話を」

「小話ぃ?」

「実は去年の文化祭で、優里亜がメイド服を着たんだけど太腿が大きすぎてパンツが——」

「ちょい瑠衣! あんたねっ!」


 優里亜がものすごい勢いで黒木の口を押さえる。


(え、おい! 優里亜のおパンツが何だって!?)


 見えたのか見えてないのか! 

 さっさと教えろ! 黒木ぃ!


 ☆☆


 この高校の文化祭で各クラスの出し物は大きく分けて演劇・展示・店の3種類だ。


 展示と店は基本的に自分たちの教室で開くのがルールであり、演劇は体育館で行われる。


 俺たちのクラスも含めて今年の文化祭で演劇をやるのは5クラスあり、その5クラスとさらに演劇部を加えた6団体が午前と午後で1回ずつ公演をするのだ。

 ちなみに持ち時間は30分まで。演じていると意外と長く感じるのが不思議だ。


「うちのクラスも準備始めてるかな?」

「多分ね。あたしらの劇は全体の二番目だし。ほら、あたしらも急ぐよ」


 優里亜に促されて急ぎ足で俺たちが教室に到着すると、すでに俺のクラスでも演劇の準備が行われていた。


 衣装担当の文化部グループは衣装の最終チェックを行っており、大道具小道具担当の運動部たちは体育館へセットを運び、実行委員の火野と脚本演出担当のオタク女子グループは、演出用の照明器具について話し合っていた。


 普段はクラスでお茶らけているクラスメイトが、これほどまでに団結して真面目にやっていると、主役としてはプレッシャーかかって仕方ない。


(やっべぇ……改めて緊張する……)


「やっほー、三人ともっ」


 背後から突然、声をかけて来たのは海山だった。


「ちょい愛莉、遅いし。今日は本番だよ?」

「ごめんごめん」


 海山は少し跳ねた寝癖を撫でながら謝る。

 こんな文化祭当日も寝坊とは……さすがというかやっぱりというか。


「それより諒太諒太っ! さっきすれ違った衣装担当の子たちがね、小人の愛莉と白雪姫の諒太の二人で廊下歩いて呼び込みして欲しいって!」

「よ、呼び込みぃ? それなら海山と黒木と市之瀬の3人でやってくれよ」

「うーん。なんかね、王子様の衣装はお高い所のをレンタルしてるから、舞台以外では使いたくないんだって」

「はあ? じゃあ白雪姫と小人の衣装なら良いってのかよ」

「うん! 愛莉と諒太の衣装って鈍☆器で買って来た安いコスプレ衣装だし!」


 そう、これがこのクラスの現実である。

 黒木と優里亜は男女問わず教室内にガチ恋勢がいるため、文化祭の費用はなぜかほぼこの二人の衣装に使われた。


 それに引き換え白雪姫の衣装は鈍☆器……。


「さぁ、諒太と愛莉はお着替えへレッツゴー」


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