第74話 文化祭が始まる
俺の高校の3大イベントの1つである初夏の文化祭。
そしてついに今日——その文化祭が行われるのだ。
陽キャたちはお祭りムードで朝から浮かれているかも知れないが……一方で、陰キャの俺は朝からメシが喉を通らない。
「……わ、悪い姉貴。残りの朝メシ、全部食べてもらっていいか?」
「え、いいの? ラッキー」
姉に自分の朝食を全て譲ると、俺は自室に戻って制服に着替える。
(ついに来ちまったか……文化祭)
一応、白雪姫の役は2週間ちゃんと練習してある程度板について来た(嬉しくはないが)。
セリフに関しても黒木のおかげで少なくなったし、その辺は問題ないんだが……。
「し、シンプルに……緊張して来た」
さすがの俺でも緊張の色を隠せない。
生まれてこの方、緊張する場面を避けて来た陰キャの俺にとって、人前で劇をするなんてかなりのプレッシャーなんだよなぁ。
(今さらだが白雪姫を断ってクラスで干されるのと、人前で女装して白雪姫をやるのだったら、クラスで干された方がマシだったんじゃないか?)
「って、今さら後悔してもしょうがないだろ俺。さっさと2回演じて帰ってくればいい」
それに客の目当ては俺みたいな女装男子じゃなくて、
だから俺はネタ役として一生分の恥をかくだけだ。何も緊張する必要はない。
「はぁ……行ってきまーす」
俺は支度を済ませると鞄を手に取って家を出る。
「って、ん?」
玄関から出ると、家の門の前に黒木と優里亜の姿が見えた。
どうやら二人は俺を待ちながら談笑しているようだ。
(おいおい。演劇はまだだってのに朝から王子様二人のお迎えってか?)
「……お、おはよう二人とも」
「おはよう、諒太くんっ」
「おはよ諒太。今日はちょっと遅い」
黒木は朝からやけに上機嫌で、優里亜はいつも通りツンとしている。
「し、支度に時間がかかったんだよ」
「支度って? 文化祭なんだから入れる教科書とかないじゃん」
「まあまあ優里亜? 諒太くんもオトコノコなんだから色々あるんだよきっと」
にっこりと笑いながら俺をフォローする黒木。
言い方的に俺が朝からやましいことをしていると勘違いしてそうなんだが……無視無視。
「二人だけなのか? 海山は?」
「愛莉は寝坊。後で来ると思う」
こんな文化祭の日でも寝坊って……海山らしいな。
「ねえ諒太くん? 今日のわたし、ちょっと違う所があるんだけど分かるかな?」
「ち、違うところ……?」
俺が黒木をジッと見つめると、黒木は耳元の垂れた横髪を耳に掛けながら妖艶に微笑む。
相変わらずの整った美しい顔立ちで、黒髪ストレートの髪も変わった様子は無いが……。
「ほらここ。リップだよ?」
「リップ?」
黒木は自分の口元を指差して言った。
ああ、言われて見れば……確かに少し赤い。
「今日は諒太くんとキスシーンがあるからお気に入りのリップをして来たんだよ?」
「「はあ!?」」
俺と優里亜は同時に驚いて声を上げる。
「お、おまっ、何を言って」
「ちょ、瑠衣! もしかして諒太に本当のキスをするつもり!?」
「ふふっ……ジョーダンジョーダン。キスシーンはリハの時みたいにキスして見えるようにするだけだし、お気に入りのリップをして来たのはただの気分転換だから。もう優里亜ったら動揺しすぎなんだから」
「そ、そう、だよね」
黒木は半笑いで優里亜を揶揄うように言う。
「ったく。瑠衣ってたまに本当か嘘か分かりづらいこと言うから本気にしちゃったじゃん。てか諒太、ちょっぴり嬉しそうな顔してなかった?」
「し、してねえよ!」
「ふふっ……もしかして諒太くんは、わたしにファーストキス奪って欲しかったり?」
「んなわけあるか! そんなことよりもう高校行くぞ」
「はーいっ」
俺が促したことでやっと俺たちは高校に向かって歩き出す。
それにしてもファーストキス……か。
間接キスを含めると海山が俺のファーストキスの相手なんだが……。
そんなこと言えるはずもないので俺は黙っておいた。
「てか普通に楽しみだよね劇。リハの時の諒太の白雪姫、けっこう可愛かったし」
「だよねー! 諒太くん、衣装着たらツーショット撮ろうね?」
「嫌に決まってるだろ」
こうして登校している間も、本番は刻々と近づいて来ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます