第59話 見せられないもの?
「いいよね? 諒太くん?」
高校の近辺にはカラオケもボウリング場もあるのに、よりにもよって黒木が行きたいと言い出したのは俺の家だった。
黒木の一言があまりにも突然すぎて、俺は座りながら絶句してしまう。
「いい、よね?」
「……っ!」
(一体全体、何が起きてるんだ)
3人の会話の流れでは、どう考えても黒木の選択肢は「カラオケ」か「ボウリング」の2択だったろ。
あの話から絶対に候補で挙がらないであろう第3の選択肢(俺の家)を創造し、半ば強引にそれを提案した黒木。
「もちろん! 帰り道でお菓子とか飲み物も買って行くし。いいよね?」
さっきから「いいよね」と、ラグビーのスクラム並みに強引にゴリ押そうとする黒木。
(このままだと黒木瑠衣の突然の提案で、美少女3人衆が俺の家へ来ることに……って、ちょっと待て!)
「そ、そんなのダメに決まって」
俺が断ろうとすると、黒木は瞳を大きく開いて、真っ正面から無言で俺を見つめて来る。
刹那的にスッと目のハイライトを失い、まるでブラックホールのように引き込まれる黒木の真っ黒な眼差し。
俺に向かって「はよ黙って頷け」と言わんばかりの圧を感じる。
「くっ……」
い、いやいや……こんな所で黒木の圧に屈するわけにはいかない。
俺の部屋には、間違いなく同級生の女子には見せられないブツが転がっている。
声優の写真集とか、おっぱいマウスパッドとか、抱き枕とか、おっぱいマウスパッドとか、エロゲとか、おっぱいマウスパッドとか……もう数えきれないほどある。
(か、仮に俺の部屋を回避したとしても、大広間なんかにこの3人を案内したら、クソ姉が裸で入って来たり、俺が一生童貞ルートなのを嘆いていた両親に見つかって、変な勘違いをされる可能性もあるんだよな)
だから、断じてこの3人を俺の家に入らせるわけにはいかないっ!
「ふ、二人だって嫌だろ? 俺の家なんて。絶対臭いし汚いし!」
俺は黒木の視線を受け流し、今度は海山と優里亜の二人へ助け船を出す。
頼む二人とも。ここは「オタクの家とか嫌だー」とか「イカ臭そうだから無理〜」とかなんとか言って、
「うーん……愛莉は諒太の家行きたいなー。なんかおもしろそーだし!」
「はあ?」
「あ、あたしも! 愛莉と同じ。お、オタクの部屋とか見てみたいっつうか」
海山はただのアホ丸出し、優里亜はオタクとしての興味本位で俺の家に行きたいとか言い出す。
(二人とも……俺のSOSに気づけよ!)
「ね、二人もこう言ってるし、いいよね?」
「……ぐっ」
トドメの「いいよね?」が、俺の首を無理やり縦に振らせたのだった。
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