第58話 急展開のラブコメ事件


 午後の退屈な授業を右耳から左耳へ聞き流し、俺は脚本を読んでいた。


 演劇なんて保育園のお遊戯会以来出たことがないし、よりにもよってヒロインを演ることになってしまったのだから、人一倍頑張らないといけない。


(主役だから当たり前だが、結構セリフあるし……本番動揺して、セリフが飛びそうにならないためにも読み込んでおかないとな)


 そんな感じで脚本を読み込んでいたら、いつの間にか午後の授業が終わっていた。


 今日の放課後の文化祭準備は、実行委員の火野が参加できないこともあり、基本的に自由参加となっている。


 連日文化祭の準備に参加させられていたので、今日は家に帰ってセリフを覚える作業に集中するとしよう。


 俺が帰り支度をしていると、前の席に座る海山が優里亜を連れて黒木の席に集まっていた。


「ねえねえ二人とも! 今日は文化祭準備が強制じゃないんだし、みんなで脚本読もうよー! 瑠衣ちゃんって今日陸上部お休みでしょー?」

「うん、だから大丈夫だよ?」

「やったー! じゃあ〜、瑠衣ちゃんのお家行ってもいい?」

「わたしの家、かぁ……」


 黒木は口篭りながら、なぜか左隣に座る俺の方を横目で見て来る。


 な、なんだなんだ?


 俺は黒木の視線を感じ取り、帰り支度をするフリをして聞き耳を立てた。


「うーん……今日はわたしの家ちょっと厳しいかも。大部屋はお父様が客人用に使うって言ってたし、かと言ってわたしの部屋も……ちょっぴり散らかってるというか」


 そう言いながらも、黒木は俺の方を横目でずっと見ていた。

 い、いやだからなんで俺の方見てんだ!


「そっかー。愛莉の家は狭い上に散らかってるから無理なんだよねえ。じゃあ優里亜は?」

「あ、あたしの部屋も……無理」


 優里亜は苦笑いを浮かべながら言う。

 どうせ優里亜のことだ。乳きゅんのグッズとかが満遍なく部屋中に飾ってあるのだろう。


(もしミルクたんの哺乳瓶が見つかったら、高校No. 1ギャルじゃなくて母乳ちゅーちゅーギャルになっちまう)


 まあ優里亜のことを言えないくらい俺の部屋は見られたらヤバいものだらけなんだが……。


「じゃあファミレスにする?」

「えぇー? この前近くのファミレス行ったら西中のヤンキーたちばっかでうるさかったじゃん。あの時は瑠衣のおかげで全員、静かになったけど」

「あの時の瑠衣ちゃんカッコよかったー! 一瞬でヤンキー黙らせちゃうんだもん」

「ふふっ。そんなことないよ、あれくらい普通だから」


 お、おいおい、黒木がヤンキーたちに何をしたって言うんだよ。

 普通に気になるんだが……。


「ファミレスが却下ならスノトにする?」

「でもスノトだとうちの生徒ばかりで席座れないかもだし……それにスノトだと愛莉がフラペチーノ3杯も飲もうとするから」

「し、しないもん! そんなに飲んだらお腹壊しちゃうし!」


 海山が赤面しながら否定する。

 海山なら普通に飲みそうな量だよなぁ。


「んじゃ、結局どうする? 今日はせっかく瑠衣が休みなんだし、あたしは瑠衣が決めたとこでいいけど?」

「そだね。愛莉も瑠衣ちゃんが行きたいところでいいや。新しく出来た駅前のカラオケでもいいし、いつものボウリング場でもいいし。愛莉はどこでもおっけー」

「ったく愛莉と来たら。今日は出来立ての脚本をみんなで読むんでしょ? 言っとくけど遊ばないから」

「ぶー、優里亜の真面目っ子。でも優里亜、真面目っ子の割には今日のパンツちょっと派手だったよねー」

「ちょっ!」


 なん……だと!?

 優里亜のパンツが……派手!?


(海山! そのまま優里亜のパンツについて詳しく!)


「へ、変なこと言わないでよ愛莉! このバカ!」

「ぐぎゅぅぅっ! ぎ、ギブギブ。ごめんて優里亜っ」


 赤面した優里亜にサイドヘッドロックを喰らって、苦しそうな海山。


 すると、ヘッドロックによって海山の爆乳が優里亜のデカ腿に当たっているのが見える。


(ぬ、ぬおおおおおおお!!! 海山の爆乳と優里亜のデカ腿が奇跡の合体!!)


 ま、まさに感動の瞬間……っ!


「……って、えっ?」


 俺が優里亜と海山の方をまじまじと見ていたら、いつの間にか俺の席の目の前に黒木が立っていた。


「ふふっ……」


 やけに不穏な笑みを浮かべた黒木は、喧嘩している二人の方を向く。


「二人ともケンカはもう辞めて? わたし、行きたい場所が決まったから」


 黒木がそう言うと、優里亜は海山を解放した。


「それで結局瑠衣はどこがいいの? カラオケ?」


「ううん。わたしはね……せっかくだから、に行きたいなぁって」


「「「は……はあ!?」」」


 まさかさっきの黒木の笑みは……これを思いついた笑みだったのか……!

 どこまでも黒木こいつは……!


「いいよね? 諒太くん?」

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