第57話 爆乳とは、一体。


 ダンボールの問題は海山のおかげで解決し、文化祭に向けた演劇の準備も順調に進められた。


 放課後の作業は脚本演出の担当と大道具の担当、買い出し担当の3つに分かれて進められ、俺を含めた劇で役を任された面々は買い出しなどを手伝っていた。


 そして数日が経ったある日の昼休み。


「みんなー、脚本できたぞー」


 パソコン室のコピー機で印刷をして来た実行委員の火野が、役のあるクラスメイトを黒板の前に呼んで、完成した脚本を配り始める。


 脚本……やっと完成したのか。


(最初はどうなるものかと思ったが……完成したなら良かった)


 脚本の最初のページにある役の一覧には『爆乳の小人』という進●の巨人の対義語みたいな役名があるが、ツッコんだら負けのような気がするので俺はスルーする。


「見て見て諒太っ、愛莉の小人、セリフがいっぱいあるよー」

「あ、ああ……」


 海山が演じる『爆乳の小人』はどうやら小人の中でもリーダー格の小人という設定らしく、結構セリフが多めだった。

 海山のセリフを多めにしているのはおそらく高校中にいる海山のファンを呼び込むための一種の策略なのだろう。


「やったー! 愛莉も主役並みにセリフあるじゃーん」


 そんなことなどいざ知らず、当の本人は嬉しそうだ。


(というか、今更なんだが……この配役……)


 俺は気づいてしまう。


 役が男女逆になっているため、毒リンゴでお馴染みの妃(義母)は、火野がやるみたいだが、それ以外の役は女子ばかりなのだ。


 白雪姫を森へ逃してくれた猟師も女子で、海山も含めた小人7人も女子たち。

 その上、王子役は優里亜と黒木……。


(いや……これもう完全に俺得なハーレム白雪姫だろ)


「午前の部は市之瀬に王子役をやって、午後の部は黒木に王子の役を演じてもらうことにしたから。よろしくな」


 火野がそう説明すると、黒木と優里亜は小さく頷く。

 そういえばちゃんとダブルキャストなのか。

 最初は優里亜で最後は黒木、か。

 なんなら白雪姫の方もダブルキャストにして欲しいんだが……。


「ねえ諒太」


 俺が苦い顔をしていると、優里亜が声をかけて来る。


「あたし、演劇とか初めてだけど……本気でやるから。諒太も本気でやって」

「お、おお……」


 優里亜はそう言い残して黒板の前から自分の席へと戻って行く。


「もう優里亜ったら。変なところで真面目なんだから」


 黒木が優里亜の背中を見ながら俺に話しかけて来る。


「諒太くん。わたしたちはになるんだから……いっぱい楽しもうね?」

「な、なんだよそれ」

「文字通りだよ? わたしたちは運命に導かれた王子と白雪姫なんだから」


 いちいち含みのある言い方をする黒木。

 運命の相手ねえ。


「ねえ、瑠衣ちゃん瑠衣ちゃん」

「どうしたの愛莉?」


「あのねっ、愛莉の小人の役が『爆乳の小人』なんだけど、ってどういう意味なの?」


「…………」


 さすがの黒木も顔の表情が一瞬硬直する。

 子どもに聞かれたら気まずい質問ランキング1位の『子どもってどうやって生まれるのー?』並みに答えにくい質問が来る。


「ふふっ……その手の質問は諒太くんの専門だから諒太くんに聞いてね?」

「はーい」


 黒木はペロッと可愛らしく舌を出すと、自分の席へ戻って行ってしまう。


(お、おい! 黒木っ!)


 とんでもない爆弾を置いて逃げやがった。


「ねえねえ諒太、ばくにゅーってなーに?」

「……そ、それは」


 素直に『巨乳を超えた異次元のデカさを誇るおっぱいのことだよー』なんて言ったら、ドン引き不可避だろ……。


「な、なあ海山。そんなことより学食の新メニュー食べに行かないか?」

「え、新メニュー!? 食べたい!」


 俺はまたしても食べ物で話を逸らすことに。


 またしばらくは節約しないとな……。

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