第53話 油断しすぎのゆるゆるコミュニケーション


 放課後の文化祭準備で、俺と海山、優里亜の3人はダンボールを集めるために高校を出た。


 一応、高校を出る前に校内の資源置き場に行ってみたが、やはりダンボールだけはすっからかんで、すでに他のクラスに奪われていたのだった。


(文化祭はどのクラスもダンボールが一番必要になるもんなぁ……みんな考えてることは同じってことだ)


「やっぱないねー。三年生に全部取られちゃったのかな?」

「そうかも。とりあえず近くのスーパーとかで交渉しないと。行くよ諒太、愛莉」

「うんっ」

「お、おお……」


 交渉に関しては力になれそうもないので、俺は運ぶのに専念しよう。


 ダンボール集めに関しては店との交渉が絶対に必要で、勝手に持ち出すのは許されない。

 高校から出る前に優里亜が言っていたが、昨年の文化祭では、近所にある無人のリサイクルセンターから勝手に持ち出した組があったらしく、大きな問題になったらしい。


 だからその辺はかなり厳しくなっており、しっかり交渉しないといけないのだが……海山も優里亜も俺なんかより断然コミュ力があるわけだし、心配はいらないだろう。


 ただそうなると、俺は男として『荷物持ち』を頑張らなければならない。

 しかしながら俺は、言うまでもなく非力。


 それでも少しは俺だって……。


「諒太。男があんた一人だからって別に無理しなくていいから。たくさん貰えてもあたしが一緒に持ってあげるし」


 優里亜はツンケンしながらも心配してくれた。

 どうやら優里亜には俺の考えていることがお見通しだったようだ。

 見栄張ろうとしてるのがバレバレだったなんて……なんか、恥ずかしいな。

 恥じらう一方で、優里亜はほんとに周りがよく見えているんだと感心してしまう。


「諒太諒太〜、優里亜だけじゃなくて、愛莉もいっぱい持てるよー? だっていつも——」

「ま、待て!」


 話の中で普通に口を滑らせた海山は、バイトのことを喋ろうとするので、俺は咄嗟に「待て」と声が出た。

 海山もそれに気がつき両手で口を塞ぐ。


「ん? 諒太どしたん急に、大きな声出して」


 優里亜が首を傾げながら訊ねてくる。


「え、え、ええっと!」


 ヤバいヤバいヤバい。

 一番危惧していた事態がさっそく起きちまった……!

 俺はすぐに海山の方を見る。

 すると海山は「ごめん」と、申し訳なさそうに目で伝えて来る。

 仕方ない……また上手いこと誤魔化すしかないか。


「み、海山もさ、もし重かったら遠慮なく言ってくれ! 俺が一緒に持つから!」


 俺は必死に捲し立てて、誤魔化していく。

 そして優里亜の顔色を伺ってみたが……。


「なんか諒太さ」


 ヤバい……バレ……っ!


「あ、愛莉にばっかり優しくね? あたしだって持ってあげるって言ってんだから、お礼の一つくらい言ってもいいじゃん」

「え、ええと、おう。ありがとうな優里……じゃなくて、市之瀬」

「ま、今回は許したげる」


 どうやら優里亜は海山の失言を誤魔化したことよりも、俺が海山にばかりフォローしていたのが気に入らなかったらしい。


 と、とにかくバレなくて良かった……。


(ふぅ……)


 一難去った。そう思って安堵の息を漏らした刹那。


「てか愛莉だけじゃなくてあたしだって、しょっちゅう部屋の模様替えとかするし、円盤の並べ替えとか、あと推し棚も定期的に移動させてるから、力には自信あるし!」

「円盤? 推し棚? ナニソレ優里亜?」

「あっ」


 油断してたら優里亜までポロリする。


(こいつらマジで何やってんだ!? 暴露大会してんじゃねえんだぞっっ!!!)


 おい、油断も隙もないじゃねえか……!

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