第54話 誤魔化しのアイスクリーム
優里亜は自分の失言によってオタバレしそうになってしまう。
「えと、えとー」
目をぐるぐるさせながら必死に言い訳を考える優里亜。
珍しくかなり慌てており、これは俺がフォローするしかないと思えた。
「み、海山? 円盤っていうのは、音楽のCDとかの総称のことで、推し棚っていうのは、こう……押したり引いたりする棚のことだと思うぞ?」
かなーり苦しい言い訳だと自覚しながらも、優里亜をフォローするために言ったのだが。
「へぇー! 愛莉そういうの知らなかった。諒太よく知ってるね!」
「え? あ、ああ、おう」
海山は「俺のいうことだから」と、完全に信じ込んでいたのだ。
海山の中の俺への信頼を逆手に取ったような感じになってしまい、罪悪感が半端ない。
仮にこれを黒木瑠衣に言ったら、俺の焦った言い方を含めて、まず間違いなくバレているだろう。
「でも優里亜って、アイドルとか韓流歌手とかも興味なさそうだったから意外かも? 誰のCDなの?」
「え、えと」
えとえと状態で手をわちゃわちゃさせる優里亜。
(普段は自信満々のギャルなのに、まさかこんな状態になるなんて……)
普段3人の時は上手くやれているのだから、何かしらの理由でよほど気が抜けていたのだろうか。
とりあえず、俺は再び優里亜へ助け舟を出すために何か話題を逸らせそうなものを探した。
ん? あれは……。
「そ、そうだ海山! アイス! アイス食べないか? 奢るから」
俺は道中にあったアイスクリームチェーンの『サーティーンプラスワン』を指差す。
「ほんと!? 諒太奢ってくれるの!?」
「奢る奢る!」
「愛莉トリプル食べたーいっ! いい? いい?」
餌を持ったご主人に飛びつくワンコのように激しく迫って来る海山。
その爆乳が何度も俺の身体に当たって、その弾力で俺は転びそうになる。
さながらぶつかり稽古のようだ。
「わ、分かった分かった。好きなの買ってやるから……」
「やったー! 諒太太っ腹〜」
「はぁ……」
まあ、アイスでこの場を凌げるなら安いもんだ。
爆乳とぶつかり稽古したってことで元は取れたと思うべきだな。
完全にダンボール集めは中断され、海山は真っ先に店内へ入ってどのアイスにするか選んでいる。
俺と優里亜は後から入り、なぜかあずき味の前で足を止めた。
「諒太、その」
優里亜は申し訳なさそうに横目で見て来る。
「ご、ごめん」
「別に、謝ること——」
「あたしもアイス食べたいかも」
「はぁ?」
優里亜は「あずきシングルで」と注文する。
一方で海山はめちゃくちゃ悩んでるらしく、海山を待つために俺と優里亜は店内のテーブルに座った。
「諒太……さっきはフォローあんがと。あとアイスも」
俺と差し向かいで座った優里亜は、あずき味のアイスをペロペロ舐めながら申し訳なさそうに言う。
目の前で優里亜が舌を出してるのはちょっと……いや、かなりエロい。
「ちょい諒太? 今なんか変なこと考えた?」
「ご……ごほん。優里亜さ、もし俺が誤魔化さなかったら海山にオタバレしてたぞ? なんで今日はポロポロと
「それは! な、なんつーか諒太が愛莉のことばっか褒めてて、あと愛莉の胸ばっか見てニヤついてるから……イラついたというか」
「胸は見てない! ……とは言い切れないが、どうしてそれで優里亜がイラつくんだよ」
「あ、あたしにも分かんないけど、なんとなく!」
なんとなくって……じゃあ、俺が居たから普段の冷静さを保てなかったって言うのか?
俺への責任転嫁? なのか?
「……と、とにかくごめん、諒太。これからは気をつけるから」
そう言って優里亜はアイスを食べ終わると立ち上がる。
「ちょいあたし手洗って来るから。そこで愛莉とゆっくりしてて」
「お、おう」
優里亜がトイレの方へ行くのと同時に、入れ替わるように海山が来て俺を手招きして来る。
「諒太諒太〜、どれにするか決まったよー」
「あー、はいはい」
海山はトリプルでパチパチする系のアイスを頼んでおり、買ってあげたら満足そうに食べ始めた。
「んふ〜、このパチパチ超好き〜」
これを食ってたら、さっきのこと全部忘れそうな顔をしている。
よしよし……って待て。
優里亜のことばかり気を取られていたが、そもそもは……。
「おい海山。そういやさっき『バイト』のこと市之瀬の前で言いそうになっただろ」
「ああー、あん時はごめんね? 愛莉、隣に諒太が居たからついぽろっと」
「お、俺が居たから? うっかりポロリしそうになっちゃったのか?」
「うん! だからごめんね?」
海山は喋るたびに口の中でパチパチと音を立てながら言う。
なんていうか……海山は仕方ないと思える。色んな意味で。
「そうだ! 諒太もパチパチアイス食べる?」
「え?」
「愛莉が、あーん、してあげよっか?」
「い……いいんすか」
「なんで敬語なのー?」
昨日に引き続き、またしても海山との間接キスチャンスだと!?
アイス奢って良かったぁ〜(織●裕●vo)。
「じゃあ、遠慮な——」
「そんなにアイス欲しいんならあたしが奢ったげようか? 諒太ぁ?」
いつの間にか戻って来て俺の背後に現れた優里亜。
いつぞやの間接キスを止められた時の既視感。
優里亜は笑っているが、絶対に海山との間接キスは許さないという意思がひしひしと伝わって来た。
「あはは……冗談です」
「えー? まあ諒太がそう言うなら、愛莉が全部食べちゃおー」
優里亜の逆鱗に触れたらパチパチどころじゃなくなりそうだったので、俺は断るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます