第52話 オタクと文化祭準備


 俺が文化祭の演劇で優里亜と黒木の相手役をやることになったのは、高校でも周知の事実になっていた。


 教室まで向かう途中、校内を歩いていると、いつもの倍以上の冷たい視線が俺に突き刺さる。


「あれ、黒木ちゃんと主演やる陰キャじゃね」

「羨ましいけど、誰が相手役でもあの二人とじゃ、あまりにも釣り合わないよなぁ」

「ま、そうだよな。別に一緒に劇に出たところであの二人と付き合えるわけねえし」


 僻んで来る男子たちは、俺みたいな陰キャが彼女たちの相手役になったところで、関係に変化はないと踏んでいるらしい。

 つまり俺は完全にだと思われているようだ。


(実際は劇の前からあの美少女三人衆と親交があるのだが……)


 そう言いたい気持ちを押し殺して、今日も俺は高校生活をやり過ごした。

 そして放課後になると、男子の文化祭実行委員である火野が黒板の前に出て来た。


「じゃ、今日からさっそく文化祭の準備するから、放課後残れる人は残ってくれ」


 出た。放課後居残り文化祭準備。

 陽キャたちがキャッキャうふふと遊びながら準備をする最悪のイベントだ。


 そんなのだから昨年は一度も文化祭準備に参加しなかったのだが、今回は主演なんだし、帰るわけにもいかないよな……。


(主演なのに準備手伝わずに帰って、空気を悪くしたら地獄になる)


 俺はぼっちであるものの、周りの空気感は悪くしたくない、平穏を望むぼっち陰キャなのだ。


「優里亜、愛莉、あとはよろしくね」


 右隣の黒木は、海山と優里亜にそう言い残して教室から出て行った。


「瑠衣ちゃん大変だねー」

「そりゃ5連覇がかかったインハイだし。その上、瑠衣の人生もかかってるから……」


 優里亜は髪を弄りながら、心配そうな目で黒木の出て行った後ろの引き戸を見つめていた。


(そういや優里亜は王子役を決める時も、黒木のことを心配してたんだっけな)


 結局ダブルキャストになってしまったが、優里亜的には陸上に集中して欲しかったのだろう。


(黒木がいないとなると、クラスに残る奴らも減りそうなものだが……)


「ねえねえ諒太、なんか人が少なくない?」

「……ま、こんなものだろ」


 案の定というか、クラスに残っていたのは劇で役が割り振られた面々と、あとは脚本担当の陰キャ女子のグループ、そして実行委員の優里亜と火野くらいだった。


 こんなことなら運動部以外は強制にした方が良かったのではないかと思う。


 黒板の前では優里亜と火野が話しており、何か方針が決まったのか、話し合いが終わると優里亜がこっちに歩いて来た。


「優里亜〜、愛莉たちは何すればいいのー?」

「そのことなんだけど」


 優里亜は自分の席に座ると、俺と愛莉の席に椅子を向けて話し始める。


「火野が脚本グループと話し合いするみたいだから、あたしと他の役があるメンバーはをすることになった」

「「ダンボール集め?」」


 俺と愛莉は同時に首を傾げる。


「毎年どのクラスでもダンボールはめっちゃ使うっしょ? だから校内の要らないダンボールだけじゃ足りなくなるの。それで近くのスーパーとか、コンビニとかで交渉してダンボールを集めないとダメってこと」


 ああそういえば、昨年のクラスでもダンボール集めに陽キャたちは苦戦していたような。


「とりあえず役があるメンバーはみんな残ってくれたけど脚本ができないと本題には入れないし、ダンボールは早い者勝ちだから、効率よく二手に分かれて集めて欲しいって火野が」

「分かった! じゃあ愛莉と諒太と優里亜の3人でお出かけしよー?」


 お出かけじゃなくてダンボール集めだろ。

 どうやら海山は完全にお遊びモードだ。

 まあ、文化祭準備なんて陽キャたちにとってはちょっとした遊びみたいなものだからな。

 陰キャにとっては嫌すぎる労働なのだが。


「分かったよ愛莉。じゃあ3人で行こっか」


 海山と優里亜の二人と……。

 俺は海山と優里亜を見回す。


 秘密のことがバレたらヤバいし、どちらとも変に馴れ馴れしくしないように意識しないとな……。

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