第49話 田中の激推し♡


 結局どれだけで探しても白雪姫の絵本は見つからなかったので、最終的に『異世界チート白雪姫〜最強の私をキスで目覚めさせておいて婚約破棄するとかマジ?〜』という田中激推しの女性向けラノベを読んで、白雪姫のストーリーを補完することに(なんでこんなことに)。

 俺は渋々電子書籍で『異世界チート白雪姫』の1巻を購入する。


「お前、これを布教したかっただけだろ」

『まぁそれもありますねぇ。最近界隈では婚約破棄が人気ジャンルなので!』

「そりゃ知ってるけどさ……」


 女性主人公の視点だと、ヒロインの激エロシーンよりも男の肉体美の描写の方が多いので、思春期ピンク脳の俺にとっては刺激が全く足りない。


(エロかエロじゃないか……それはただでさえ激エロが制限されている高校生にとって、死活問題なのだ)


『それにしても諒太くんが白雪姫の役をやるんですかぁ……諒太くんって、そっちの気もあったんですね』

「だからそれは陽キャが押し付けて来て。俺は仕方なくやることになっただけだ!」

『ちなみに王子役は黒木さんと市之瀬さんなんですよね?』

「あ、ああ。そうだが?」


 俺がそう答えると田中は『むぅ……』と長めに唸った。


『あの二人が王子様役なんて……チートじゃないですか』

「んだよ。あいつらは俺ら陰キャと違って存在自体がチートだろ?」

『それはそうですが……最近、美少女三人衆とはどうなんですか?』

「どうって言われてもな。デートしたり、デートしたり、デートしたりかな」

『めっちゃデートしてるじゃないですか! え? むしろデートしかしてないんですか!?」

「そうなるな」


 俺は鼻高々で自慢げに言う。

 美少女三人衆とデートしまくってるとか田中くらいにしか自慢できないからなぁ。

 陽キャ男子どもにも自慢したいが、そんなことを言ったら半殺しに遭うのは必然だもんな。


『諒太くんは変わっちゃいましたね。そのうち30歳まで守ると言っていた童貞も誰かで適当に捨てて、陰キャの私とは話してくれなくなるんですよ』

「なにイジけてんだよ田中。俺みたいな陰キャオタクが童貞捨てられるわけないだろ?」

『でも……』


 なんだなんだ? 陰キャ同盟を裏切った俺に嫉妬してんのか?

 俺が増長しながら自慢したからか、なんか勘違いされてるみたいだ。


「あのさ田中。俺はあの三人とデートはしてもそういう関係にはならないぞ?」

『へ? どゆことです?』

「実はあの三人衆、それぞれに想い人がいるんだ」

『お、想い人?』

「なんか三人とも小学生の頃に好きになった男子がいるらしくてさ、今もその男子のことが好きらしい。だから俺は美少女三人衆と遊ぶことはあっても、あの三人の誰かと付き合えることはねえよ。残念ながら」

『そ、そう、なんですね……はぁ』


 田中はなぜかため息(?)をついていた。

 俺が同族だと再確認して安心したのだろうか。


「ていうか、もし仮に数パーの可能性で三人の誰かと付き合えたとしても、俺は田中をブッチするような人間じゃねえよ。お前は俺の唯一のオタ友なんだからさ」

『諒太くん……ふふ、やっぱり諒太くんは変わってなかったです』

「は? 変わっただろ! 俺はあの美少女三人衆とイチャラブデートしたんだぞ!」

『でも三人の誰とも付き合えないなら、諒太くんは一生童貞ですよ?』


 ぐう正論すぎて、反論もできん……っ!


『まあ、それはそれでいいですけどね』

「どういうことだよ」

『なんでもないですー。私はそろそろ塾があるので電話はこれくらいで』

「あ、ああ。なんか色々とありがとな田中。やっぱ付き合いが長いお前と話してると遠慮なく喋れて気楽だわ」

『…………っ』

「ん? 田中?」


『そ……そういうところですよ、もう』


 田中は最後にそう呟くと、ポロンとlime電話が切られてしまう。


「な、なにが"そういうところ"なんだ?」


 よく分からなかった。

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