第50話 玄関先にいたのは


 劇の配役が決まった翌朝。

 俺はいつも通り早起きして、ソシャゲのログインを済ませるとベッドから起き上がろうと思った……のだが。


「あー! 学校、行きたくねえ……!」


 一晩寝て冷静に考えてみたのだが……白雪姫なんてやりたくなさすぎる。


 今さらだが、あの時陽キャに反抗しなかったことを後悔してしまう。


 でもあの時反抗していたら(海山との噂も相まって)間違いなく俺はクラスで干されていたかもしれない。


(最悪の場合はイジメなんかもあったかも……はぁ)


 考えれば考えるほど億劫な気持ちになる。


 将来、俺の女装が高校の同窓会とかの語り草にされるのは嫌だが、あの時引き受けたのは今の自分を守るために必要なことだった。


 そう、仕方なかったんだが……トドメを刺すように発表された王子役のダブルキャスト。

 それが俺にとっては悩みのタネになっている。


 優里亜と黒木が王子ってのは……どう考えても嫌な予感しかしない。


 だって白雪姫ってことは、あの二人と……キスシーンをるってこと、だもんな。


「おーい諒太ー、早く起きて来ないとお父さんがアンタのご飯食べちゃうってー」

「はあ!? あのクソ親父!」


 俺はベッドから飛び起きるとすぐにリビングへ向かうのだった。



 ☆☆



 結局高校へ行かないわけにもいかず、俺は寝癖を直しながら玄関で革靴を履いた。

 陰キャってのは、一日でも高校に行かないと悪目立ちするか存在を忘れられるかの二択だから、簡単に休むわけにはいかない。


 白雪姫は成るようにしかならないもんな……海山も小人(爆乳人)頑張るって言ってたし、俺も頑張らないと。


「行って来まーす……ん?」


 俺は家を出ると、眠たい目を擦った。

 玄関の門からチラッとが見える。


 どうやら表札の前で誰かが、背中を預けながら立っているようだ。


「ふふっ……おはよう、諒太くん」


 表札の前で待っていたのは——黒木瑠衣だった。

 昨日まで着ていた紺色の冬服ではなく、真っ白な半袖夏服セーラーを着ている黒木は新鮮に映る。


「な、なんで黒木が……ここに」

「あらあら。諒太くんのお家がここにあるなんて初めて知ったなー、凄い偶然っ」


 何度も言うが、お前は偶然という言葉を一度辞書で引いてこい。


「絶対俺の家って知ってたろ。おい、誰から聞いた?」

「誰からも聞いてないけど? ただ、泉谷という苗字の表札がこの近くで2つあり、一つはご老人夫婦の家でしたので、消去法でこちらが諒太くんのお家だと分かっただけ」


 さっきの発言は全て嘘だと言わんばかりに、

 ベラベラと名推理を披露する黒木瑠衣。

 こいつ……マジで何考えてんのか分かんねえ! なんで俺の家特定してんだよ!


「ちょ、諒太! く、くく、黒木瑠衣じゃん! なんでうちの前にいるの!」


 玄関先で俺たちが突っ立って話していると、後から出て来た姉が驚いて尻餅をつく。

 化け物でも見たみたいなオーバーリアクション。

 まぁ黒木瑠衣は俺たちの上の世代でも有名人だからな……。


「あら、諒太くんのお姉さんですか?」

「あ、ああ」


 俺がそう答えると、すぐに黒木は姉の前に立ち、お手本のように綺麗なお辞儀を見せる。


「お姉さん、お初お目にかかります。わたしは諒太くんのクラスメイトで黒木瑠衣と申します。諒太くんは大切なお友達として、お付き合いさせていただいております」

「お、おつっ! へ、へえ、諒太もやるじゃん。いやまだヤッてないかもだけど」


 要らない下ネタを織り交ぜながら、姉は小走りで門を通り抜けていく。


「あ、アタシだって大学にクソイケメンな彼氏いるし! 毎日ヤリまくりだし! だからマウント取った気になるなよ諒太! バーカバーカ!」


 精神年齢6歳の姉(21歳)は、捨て台詞を吐きながら逃げるように大学へ行ってしまった。


「ふふっ、どうやらお姉さんに勘違いされちゃったね?」

「お前のせいだろ!」


 今日イチのツッコミが出た。

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