第48話 電話の相手は〇〇
コーポで海山と別れたら、いつもの帰り道が急に静かに思えてなんとなく寂しさがあった。
海山は天然で騒がしいけど、マスコットキャラでいつも明るいから、隣にいるとなんとなく落ち着く。
(陰キャな俺にも優しくしてくれるし、マジで良い子だよなー)
そんな感じで海山のことばかり考えていたら、いつの間にか家に帰って来ていた。
「ただいまー」
玄関からリビングに行くと、リビングのソファではシャツにパンイチの姉がダラダラと寝ている。
はぁ……海山に比べて貧相な胸だこと。
「あ、諒太〜? アンタのアイス食べといたから」
「お、おい嘘だろ! 限定味のハーデンめっちゃ楽しみにしてたのに。くそ! このバカ姉が」
「あとさー」
「なんだよ!」
「さっき田中ちゃんがウチに来てたんだけどー?」
田中がうちに?
何の用だろうか。
(そういえば田中とはあの屋上で話した時以来、limeでも会話してないな)
最近はあの美少女三人衆といる時間が多くなり、田中とオタ話をする暇すらなくなっていた。
「本人は『なんとなく寄った』とか言ってたけどさー、わざわざ来たってことはあんたに用があったんじゃないの?」
「そう、だよな」
「limeで聞いておきなさいよー?」
「わ、分かってる」
俺は田中に『少し電話しないか?』とlimeを送ると、部屋に戻った。
田中の返事を待っていると、黒木から今日の画像が送られて来た。
「ぬおっ……! 今日はツインテだと!?」
アンダーツインテの髪型をした制服姿の黒木が、ベッドに横たわる自撮り写真が送られて来る。
『黒木:劇を頑張れるように♡今日も写真送るね? 制服にツインテール、諒太くんはこういうのが好きなんでしょ?』
こいつ……オタクの
黒木の美人顔にツインテールはあまりにも反則的だ。
可愛い系の女子がやる1000倍はギャップ萌えの付加価値と破壊力がある。
そんなこんなで俺が黒木の写真を保存していたら、田中から返事が来た。
『田中:分かりました。今なら電話できますので』
俺はその返事を見て田中に電話をかける。
「田中、久しぶり」
『おおー、諒太くんお久しぶりです』
「さっき家に来てくれたみたいだけど、何か用があったのか?」
『えと、特に用があったわけじゃないのですが、文化祭のことで変な噂を耳にしまして』
「変な噂?」
い、嫌な予感しかしないのだが……。
『なんか、文化祭で諒太くんが白雪姫をやって、美少女三人衆の市之瀬さんと黒木さんが王子をやるとかなんとか』
……田中、それ噂やない。事実や。
『性別逆転してる時点でおかしいですし、やっぱりデマですよね?』
「……やる」
『は?』
「俺……白雪姫をやるんだよ、田中」
『……あの、最近の諒太くん色々と頭おかしいんじゃないですか』
田中のドン引きボイスが鼓膜を突き破って俺のメンタルをグシャグシャにする。
(もうやめろ田中! 俺のライフは0よっ!)
『マジでやるんですか白雪姫。つまり女装するってことですよね?』
「あーうるせー! 俺がやることになっちまったんだよ! 仕方ないだろ!」
『なるほど、陽キャに押し切られたんですね』
田中は陰キャの気持ちがよく分かるので、俺の状況も瞬時に察していた。
さすが陰キャ女子。
『まあ、それは良いとしても、そもそも諒太くんは白雪姫のストーリーちゃんと理解してます?』
「あ、当たり前だ。確か部屋の本棚に絵本があってよく読んでたからな」
『諒太くんにしてはメルヘンなエピソードトークですね』
「俺にしてはってどういう意味だよ」
俺は田中にツッコミつつ、部屋の本棚の前へと移動する。
「そういえばあの絵本って今はどこにあるんだろ」
『せっかくですし探してみたらどうです? 主役をやるんならちゃんと読まないと』
「それも、そうだな」
最近の本棚は上から下まで漫画ばかりで、パッと見では見つからない。
絵本なんてもう何年も読んでないから下の方にあるかな……?
「白雪、白雪……ん?」
下の段を見た時、懐かしい漫画が出て来た。
俺が小学生の頃に読んでた少年誌の漫画で、タイトルは『ラッキー&H』。
(この漫画、少年誌の割にかなりエロいシーンがあるから、よく親に隠れながら読んだっけ)
あれ、でもこの漫画……18巻まであるのに、なぜか最初の1巻だけ、ないな。
「……ま、いいか」
『諒太くんどうしました?』
「いや、なんでもない」
俺はまた白雪姫を探し始めるのだった。
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