第42話 文化祭は彼女の手の中
2限目の現代社会が自習になったので、文化祭でクラスが何をやるのか話し合うことに。
女子の実行委員は高校のNo.1ギャルの市之瀬優里亜。
片や男子の実行委員は、ガッツリ陽キャのイケメン男子で性格がいかにもリーダー向きの
「じゃあ今日も文化祭の話するぞー! 前回の話し合いで、劇か喫茶店の2択にまで絞ったんだったな。みんな、土日でどっちにするか考えて来たよな?」
火野は持ち前のトーク力で円滑に話を進めていく。
男子と話すのが嫌な優里亜は、火野に言われたら無言で黒板に色々と書いていくサポート役に徹していた。
(あの火野にさえ、優里亜は心を開いていないのか)
そう考えると、俺って凄いのかもなぁ……。
顔も身長もコミュ力も、陽キャの火野には遠く及ばないし、火野に唯一勝てるのは勉強くらいだった。
しかし勉強だけでは『ただのガリ勉くん』と化してしまうので、群れなす陽キャたちよりクラスカーストが上になることはほぼない。
ぼっちオタクの陰キャで、ずっとクラスカーストの底辺にいた俺だが……間違いなく今の俺は、陽キャどもより上のステージにいると思う。
(これも優里亜、海山、黒木と近い席になった席替えのおかげか)
ついこの間までは3人にも苦手意識を持っていたが、秘密を共有したことですっかり仲良くなった。
最初は席替えを憎んでいたが、これも不幸中の幸いということだろう。
「じゃあ、紙配るからみんなどっちがいいか書けよー」
俺が優越感に浸りながらニヤニヤしていると、いつの間にか投票が始まろうとしていた。
「はい諒太、紙」
前の席に座る海山から手のひらサイズの白紙を受け取ると、俺はすぐに『劇』と書いた。
用紙の回収が終わると、しばらくして集計結果が出る。
「えー、では発表します。我らが2年1組が文化祭でやるのは……演劇になりました!」
火野の発表を聞いて、クラス中から拍手が起きた。
(おお、やっぱり劇になったか)
海山と黒木はお互いに顔を見合わせて笑っている。
実行委員の優里亜が演劇の方が楽だって言ってたから、二人も演劇になったのが嬉しいのだろう。
なんだかんだでこの3人の友情は側から見ても気持ちが良いな。
「劇に決まったことだし、ついでにやる演目とか出して決めてこうぜ。誰か提案をしてくれ——」
火野の発言を遮るように、俺の右隣からスッと手が上がる。
く、黒木……?
「オリジナルだと準備が大変だし、定番が良いと思うの。そう、例えば『白雪姫』とか……どうかな?」
し、白雪姫……だと?
白雪姫ってあれか? りんご食ってたら眠くなってイケメン王子のキスがないと絶対に起きないとかいう、理想の高いワガママニート女の末路みたいな話か?
(ったく、なんでよりにもよってキスシーンがある作品なんて、勧めるんだよ……クラスの演劇なんてどうせ誰も来ないんだから、桃太郎とかでいいだろうに)
「おお! いいね白雪姫! 妙案! 最高! みんなはどうだ?」
火野は黒木をヨイショしながらみんなに問いかける。
「うん、黒木ちゃんが言うなら私もそれでー!」
「私も私もー!」
「俺もいいぜ!」
「俺っ! 黒木さんのキスで目覚めたい!」
「「「「俺も!」」」」
多少キモい集団がいたものの、クラスのほぼ全員が首を縦に振る。
(これが……黒木瑠衣という絶対的存在の強制力、なのか?)
黒木瑠衣が右と言えば右、左と言えば左。
学級委員長で高校1の人気者である黒木瑠衣が発言したらそれはもう総意に変わるのだ。
「じゃあ白雪姫に決定で!」
またしてもクラス中から拍手が起こる。
(せっかくこのクラスには1000年に一度くらいの爆乳美少女・海山愛莉がいるのだから、海山を主人公とした爆乳ヒロインのちょいエロな劇にすればいいのに……)
通るはずもないことを願っていると、前の席の爆乳がこちらに「コンニチワ」していた。
「ねえねえ諒太っ、白雪姫なら一緒に
「小人? お前みたいな小人がいてたまるか」
「何で? 可愛いじゃん小人」
お前は……誰がどう見ても
「それと——ただ演劇をやるのもつまらないから、一つ提案があって」
また、提案?
完璧主義の黒木のことだ。
どうせ自分が白雪姫をやりたいとか——。
「白雪姫は男子がやって、女子が王子役をやるの! どうかなっ」
(……は?)
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