4章 文化祭準備はほどほどに

第41話 その選択は運命の分かれ道


「「………」」


 黒木の『諒太くん』呼びによって、前の席から海山、左の席から優里亜の冷たい視線が俺に突き刺さる。


 二人の視線が痛くなるのは必然。

 俺はこの美少女グループ3人それぞれの秘密を知っていることで3人全員と接点を持ってしまったわけだが、それぞれの秘密を他2人に打ち明けることは許されない。


 だから3人は俺が他の2人と『秘密の共有』をしていて、多少親密になっていることを知らないのだ。

 それなのに黒木が俺のことをフランクに下の名前で呼んでしまったこの状況は、他二人からしたら謎すぎる現象。

 以前、海山がミスって俺を「諒太」と呼んでしまった時も同じくこの空気になった。


(怪しまれるのは当たり前……この状況は、非常にまずい)


「ねえ、なんで瑠衣ちゃんも諒太って呼んでるの? 瑠衣ちゃんと諒太って中学の時は一度も話したことなかったんだよね?」

「それはそうだけど、愛莉も諒太って呼んでるからなんとなく呼んでみたの。それに近くの席にいるみんなが別々の呼び方してると、諒太くんも頭がこんがらがっちゃうし、その方が良いかなって」


 さすが才色兼備の天才……間髪を入れずに流れるように言い訳が出て来る。

 ここまで表情に動揺の色が無いと、本当にそうだと思てしまうが……ただ一人、俺だけにはそれが"わざと"呼んだのだと分かってしまう。


(きっと黒木は俺のことを、みんなの前でも下の名前で呼びたいから手を打ったのだろう)


 この辺の賢さが黒木の凄みというかなんというか……完璧主義者だけに、抜かりない。


「そうだ。優里亜も諒太くんのこと『諒太』って呼びなよ」

「えっ、あ、あたし?」

「ほらほら」


 黒木に促されて優里亜が俺の方を向く。


「じゃあ……りょ、諒太」


 優里亜は唇を少し尖らせながら俺を呼ぶ。

 わざとらしく呼び慣れていない感じを醸し出している所からして、優里亜もズルいところがあるなぁ、と思ってしまう。


 だがこうして、俺は(プライベートだけでなく)普段から3人に『諒太』と呼ばれることになってしまったのだ。


「それで話を戻すけど、諒太くんはどっちに投票するの? 演劇? 喫茶店?」

「え? お……俺は」


 黒木はナチュラルに、クラスカーストトップの美少女グループの会話に俺を入れようとして来る。


「一応、海山に頼まれたから喫茶店にしようかなと」

「へぇ、喫茶店。本当にさっき文化祭の話をしてたんだね愛莉」

「し、してたよ! もぉー、瑠衣ちゃんったら疑わないでよー」


 どうやら黒木は俺たちの関係を疑っているようだ。


(まあ確かに、海山と俺は学食のみならずスノトでも二人でいた所を周りに見られてるし、色々と疑われてもおかしくないもんなぁ……)


「愛莉も諒太くんも喫茶店かぁ。優里亜は実行委員だけど前に劇がいいって言ってたよね?」

「ま、まあ……だって喫茶店にすると、飲食系の手続きとかがめんどいし……何より検査が、キモいっつうか」


 検査……って、そういうことだよな?

 さすがにこれで変なことを考えるのはNGなので控えるが、確かにアレを集めるのは実行委員の仕事だし、優里亜からしたら嫌だよな……。


「てか、瑠衣はどうなん?」

「わたし? うーん、悩んでるんだよね」


 黒木はそう言いながら横目で俺を見て来た。


(な、なんだよ……その目は)


 俺が睨み返すとニコッと笑みを浮かべ、また優里亜の方を見る。


「わたしは優里亜のために劇に投票しよっかな」

「えー! 瑠衣ちゃんも喫茶店にしてよー、一緒にメイドさんやろー?」

「えー? でもわたし、優里亜や愛莉みたいに可愛くないからなぁ〜」


 じっと俺の方を見ながら言う黒木。


 まさか黒木には俺が海山の爆乳と優里亜の太ももでよからぬ事を考えているのがバレているのか……?


 てか黒木ほどの美貌を持つ女子が、自分が可愛くないって言うのは皮肉にしか聞こえないが……。


「いやいや、瑠衣が可愛くなかったらあたしら女子全員モブ以下になるから」

「ふふっ、なあに優里亜? わたしのこと褒めてくれるの?」


 黒木は優里亜に近づくと、その綺麗な左手を優里亜の顔に伸ばし顎クイをした。


「優里亜みたいなおしゃれギャルに褒められると照れちゃうなぁ」

「い、いやっ! あたしは事実を述べただけっつうか」


 ゆ、百合キタァァ!! じゃなくて!


 黒木の野郎……わざとやってやがる。


(ていうか優里亜も優里亜で、満更でもなさそうな赤面してんなよ!)


「ねえ諒太諒太ー? やっぱり劇にしない?」

「なんだよ海山。爆乳喫……じゃなくて喫茶店じゃなくていいのか?」

「うーん。実行委員の優里亜が劇の方が楽って言うなら劇に入れてあげよっかなって。愛莉はどっちでもいいし」

「……そう、だな。俺もそうするよ」


 劇……か。

 どうせヒロインは黒木になるだろうし、ぼっち陰キャの俺は雑用係をこなすだけだからな。


 ヒロインが黒木……か。

 なんか嫌な予感がするのだが……考えすぎか?



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この作品書いてると楽しすぎるので、今月も毎日更新を継続します!!(コメントや星評価などいつもありがとうございます!)

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