第37話 二人の過去、激ヤバな過去
市之瀬の提案で、俺たちはあの日と同じゲーセンに寄ることに。
「諒太、またUFOキャッチャーやってよ」
「いいけど。欲しいプライズのフィギュアがあるのか?」
「もちもちっ」
市之瀬はお目当ての筐体まで来ると、景品のフィギュアを指差す。
お目当てはまたしてもアニメの美少女フィギュアだった。
俺はいつも通りの慣れた手順でフィギュアを狙う。
「ねえ諒太」
「なんだ? 市之瀬」
「ったく、だから優里亜って呼べって言ってんじゃん。さっきからちょくちょく戻ってる」
「だ、だって……女子のこと名前で呼ぶの慣れてないんだから仕方ないだろ」
「ならあたしで慣れればいい。あたしは優里亜って呼ばれた方がしっくりくるし」
「そう、なのか?」
優里亜、優里亜……。
女子の名前を呼ぶのはやはり緊張してしまう。
だが、市之瀬本人がそこまで優里亜と呼んで欲しいなら……仕方ない。
「この前ここに来た時はさ、あたしらマジで赤の他人だったのに、数日後には友達になってここに来てる。不思議なものだよね」
「俺も……優里亜とこんなにフランクに話せるとは思ってなかった」
というか優里亜だけじゃなく、海山や黒木ともこんな関係になるとは思ってもみなかった。
「ゆ、優里亜はさ……どうしてオタクになったんだ?」
「あたしがオタクになった理由?」
「ああ。優里亜がなんでアニメとか好きになったのか、少し気になって」
優里亜はなんとなく暗い過去がありそうだったから過去のことはあまり聞かないつもりだったが、今日は少しだけ踏み入ったことを聞いてみる。
「オタクになった理由なんて話したことないけど……子どもの頃の話だからうろ覚えっていうか」
優里亜は恥ずかしそうにはにかみながら、話を続ける。
「小学校低学年の頃の話なんだけど」
「そんなに前なのか!?」
「うん。その頃、毎日のように遊んでた近所の公園でとある漫画を貰ったのがきっかけなの」
「とある漫画の本?」
「少年誌の漫画で、ちょっとエロいやつ。それを読んでからというもの漫画にどハマりしちゃって。あとその漫画に出て来るギャルのヒロインに憧れて今のあたしがあるっていうか」
つ、つまり校内No. 1ギャルの市之瀬優里亜は漫画が原点だったのか……!?
あまりにも意外すぎる。
「じゃあ、その漫画のおかげでギャルの優里亜とオタクの優里亜の両方が生まれたってことか」
「うーん、そう考えるとそうなんかな?」
市之瀬優里亜という顔・胸・太ももの三拍子が揃った美少女の中に、『ギャル』と『オタク』の属性を与えてくれたヤツには感謝しかないが……。
「公園で小学生相手にお色気系の漫画を渡して来る大人とか……どんな不審者なんだ?」
「いやいや。漫画を渡してきたのはあたしと同い年くらいの小学生で」
「小学生!?」
「その子がね、ずっと一人で公園のベンチに座って漫画読んでたから『遊ぼっ』て誘ったの。それで結局一緒に遊んだんだけど、その子が帰る時に漫画をくれて」
「そう、だったのか……」
小学生でお色気系の漫画とか……そんなマせた
(俺も小学生の時は家でお色気系の漫画を読めないから、よく外で読んでたなぁ……きっとその小学生も同じなのだろう)
優里亜のエピソードを聞いて、俺もなんとなく懐かしんでしまう。
「逆に諒太はなんでオタクになったん?」
「お、俺? 俺は……まぁ、なんていうか……」
「ん?」
「そ、それより優里亜! もうそろそろこのフィギュア落とせそうだ」
「え、マジ? まだ400円なのにすごっ」
俺は上手いことUFOキャッチャーの方に話を戻す。
(俺がオタクになったきっかけは、さすがに話せないよな……)
なぜなら俺がオタクになった理由は、優里亜の比にならないくらい話せるものではなく……。
(幼稚園児の頃に親戚の爆乳デカ太ももお姉ちゃんの膝の上に乗ってから爆乳デカ太ももが好物になってしまい、最終的に二次元に走った……なんて激ヤバエピソード語れるわけねぇ)
俺も昔から立派なマセガキでエロガキだったのだ。
☆☆
乳きゅんグッズに美少女フィギュア。優里亜は両手にそれらを抱えながら、嬉しそうに駅のホームまでやって来た。
「今日はマジで最高だったー。ありがとね、諒太」
「た、楽しんで貰えたなら……俺も嬉しい」
初めてのデートだったが……優里亜がこんなに満足そうなら上手くやれた方なのか?
「愛莉や瑠衣の前じゃ、優里亜って呼んだらダメだかんね」
「呼べって言ったり呼ぶなって言ったり……面倒くさいな」
「別にあたしは優里亜って呼んで貰ってもいいけど? それで愛莉や瑠衣に誤解されたら大変だと思うけどねー」
「市之瀬って呼ばせてください」
「あははっ、だよねー」
この前の海山の『諒太事件』だけでも黒木にかなり探りを入れられたのに、俺が優里亜だなんて呼んでたらもっとヤバいことになるのは必然である。
「来週から文化祭準備とかで忙しくなるけどさ、またあたしと遊んでよ、諒太」
優里亜はそう言って柔らかい笑顔を見せる。
前までの優里亜とは違い、このデートを通してかなり柔らかい表情を見せるようになったような気がする。
「こ、こちらこそまた何卒よろしくお願いします」
「いやいや堅苦しすぎでしょ」
「だ、だって」
こうして俺の人生初デートが幕を閉じた。
一緒に電車に乗ったが、優里亜は俺の前の駅で降りるため、電車内で俺たちは別れる。
優里亜が降りて一人になると、やっと俺は一人になる。
「はぁ……緊張した……」
でも、シンプルに楽しかったよなぁ……デート。
今日一日の充実感を胸に、俺は次の駅で降りた。
……のだが。
電車が俺の降りる駅で止まった際、駅のホームのベンチには、文庫本を読みながら座る長いまつ毛の美少女の姿があった。
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