第36話 映画の後はニヤニヤ
映画の後は乳きゅんグッズを買うためにアヌメイトに寄ることに。
(映画デートの前から、アヌメイトに行くのは約束してたもんな)
隣町の駅内の商業施設には、市之瀬と出会ったゲーセンはもちろん、様々な店が混在しており、アヌメイトもその一つだ。
商業施設の6階まで上がって、見慣れたアヌメイトの看板を見つけると、市之瀬はテーマパークに入る子供みたいに目を輝かせて入店した。
「うっわぁ……まじ天国」
「アヌメイトに来るのは初めてなんだっけ?」
「一応ね。これまではさすがに一人だとハードル高かったっつうか」
その気持ち……めっちゃ分かる。
市之瀬の場合はギャルな見た目で入ると変に目立つから、入りづらかったのもあるかもしれないが、今はこんなキモオタの俺だって、初めてアヌメイトに入る時はどうしてもオタクの領域みたいな感じがあって、入りづらかった。
(ま、慣れてしまえばファストフード店感覚で入れるんだが……)
「今日は諒太がいるからめっちゃ安心っ」
「そ、そうか?」
「うんっ」
やばい……今まで人生を通して他人から頼られ慣れてない弊害もあり、急に頼られると嬉しすぎて嬉ションしそう……。
「あっ、乳きゅんの特設コーナーあるっ!」
店の隅にある、乳きゅんのグッズが集まった特設コーナーを見つけた市之瀬は、食い入るように前のめりでグッズを見ていた。
最近のアヌメイトは女性向けが多い印象だが、その中でも特設コーナーがあるくらい乳きゅんは人気上昇中なのだ。
「うわぁっ! ミルクたんのおっぱいマウスパッドとか最高っ! ミルクたんの爆乳がモデルの哺乳瓶もめっちゃ欲しい……!」
「おいおい、乳きゅんってそんなグッズ展開もしてるのかよ!?」
そこまでは知らなかったので、普通に驚いている。
てかなんだよ爆乳キャラモデルの哺乳瓶って! 買う方も売る方も色々とマズイと思うんだが!?
「諒太! ちょいあたし、ここで買うもの考えてもいい!?」
映画の後くらい大興奮な市之瀬。
「あ、ああ。好きなだけ選んで大丈夫だぞ」
なんか長くなりそうだな……よし。
市之瀬が乳きゅんのグッズを選んでいる間、俺はその特設コーナーの向かいにあるラノベコーナーを見ることにした。
この前買った『おぱ吸い』はもう読んじゃったし、そろそろ新しいラノベを……ん?
俺は一冊のラノベに目が留まる。
(なんかこの星野星野ってペンネーム。ちょっとダサいな)
作者の名前は変だが、イラストは人気絵師に担当して貰ってるみたいだし……ちょっと買ってみるか。
イラスト買いでラノベ一冊購入することにして、市之瀬が買うものを吟味している乳きゅん特設コーナーの方に振り向く。
「どうだ? 買うもの決まったか?」
「うーん。諒太は哺乳瓶とおっぱいマウスパッド、どっちがいいと思う?」
普通、女子とのデートって言ったら服屋で『どっちの服が可愛いかな?』みたいなイチャイチャイベントが起こるものだが……俺たちの場合は哺乳瓶とおっぱいマウスパッドとか……なんつー2択だよ。
「おっぱいマウスパッドの方が使い勝手が良さそうじゃないか?」
「うーん、そうなんだけどー、やっぱミルクたんの母乳スプラッシュを堪能したいというか」
俺は乳きゅんのアニメを知ってるオタクだから市之瀬の発言を理解できるが、もし市之瀬がこんなこと言ってるのを海山や黒木が聞いたら、驚きで顎外れるだろう。
最終的に市之瀬はおっぱいマウスパッドと哺乳瓶の両方を買っていたのだった。
☆☆
「ふー、なかなか良い買い物したー」
ご機嫌でアヌメイトから出る市之瀬。
もう完全にギャルの皮を被ったオタクである。
このお馴染みの青い袋を巨乳デカ太もものギャルが持っている光景は実に新鮮だな。
「……てか、なんかこの袋」
「ん? どした? 穴でも空いてたのか?」
「あー違う違う。やっぱなんでもない!」
ん? なんなんだ?
市之瀬は何かを誤魔化すように手をわちゃわちゃさせていた。
「て、てか諒太。今またあたしの太もも見てたよね?」
「なんで毎回分かるんだよ」
「そりゃ目線が下行ってるんだから分かるでしょ! そういえばこの前、スノトで愛莉と二人でいた時も、愛莉のおっぱいガン見してたよね?」
「それは……ひ、否定はしないが」
「はぁ……ほんとこのオタク。ま、いいよ。どうせ愛莉は鈍感だから分かんないと思うし」
確かに思い返せば、市之瀬にはめっちゃ注意されるけど海山には注意されたことないな。
ちなみに黒木の場合はどちらも特出していないため、いつもしっかり顔を見て話せる……というかシンプルに顔に引き込まれる。
「あ、あたし的にはさ。太ももより胸の方が自信あるんだけど」
「い、いやいや太ももの方が代名詞だろ!」
「かっ! 勝手に代表すんなしっ!」
市之瀬は全力で突っ込んで来る。
「ほんと諒太ってデリカシーマジないわ。そういうの、あたし以外にはあんまやらない方がいいよ」
「き、肝に銘じます」
「んで、それより次どうする? あたし、もう一つ行きたいとこあんだけど」
「行きたいところ?」
市之瀬はうんうんと頷いて歩き出す。
「もち、あのゲーセンっしょ」
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