第24話 真実への追求03
「本当に心当たりがあるのか? 田中」
「い、一応」
田中はこくりと頷きながら言う。
「私って中学の時は放送委員だったじゃないですか」
「ああ、そうだったな」
「放送委員ってイベントの度に司会進行とか舞台袖の機材準備とかするんです。だから全校集会とかの時はいつも舞台袖にいるんですけど……私たちが2年生の時の卒業式でとあるトラブルが起きまして」
「と、トラブル?」
「はい。卒業式の送辞の前に、在校生代表だった黒木さんが送辞で読み上げる内容が書いてあった紙を忘れちゃったんです」
「なんだって……?」
「いくらあの黒木さんとはいえ、まだ2年の時は陸上もあって何かと多忙でしたから、送辞を紙なしでは難しかったようで……舞台袖では大騒ぎになっていました」
そんなことがあったとは……。
確かに中学2年時の黒木瑠衣は生徒会長と陸上部部長の両方を務めていたので、見るからに忙しそうではあったが、完璧超人にしては意外と凡ミスだな。
「ここで話は変わりますが、私たちが2年生の時の卒業式って言ったらもう一つトラブルがありましたよね? 諒太くん」
「あ、ああ……そっちは流石に覚えてるよ」
あれは——俺が中学2年の時に先輩たちを見送った卒業式で起きた事件。
脇役である俺たち2年生は特にやる事もなく座っているだけだったので、俺はパイプ椅子に座りながらつい寝落ちしてしまった。
寝てるだけなら大丈夫なのだが、俺が寝落ちした瞬間——なぜかスルッと身体が翻る感覚があり、咄嗟に目を開けると、俺はいつの間にか座っていた椅子からぶっ倒れていた。
ちょうど卒業生の呼名が終わり静寂に包まれた瞬間の出来事だったこともあり、俺は周囲の視線を一気に集めてしまったのだ。
間違いなく悪目立ちしてしまったと思った俺だったが、その後に駆けつけた担任教師によってなぜか体調不良だと思われてしまい、そのまま救急搬送され、異常はないがとりあえず軽度の脱水症状だろうと診断されたのだった。
寝落ちなのに体調不良と勘違いされ、周りに心配をかけてしまったこの事件の真相は田中にしか話していない。
(あれから俺は極力目立たないように心がけて平穏な学生生活を望むようになったんだよな……)
「てか、俺の事件と黒木の事件に何の関係があるんだ?」
「諒太くんの寝落ち事件と黒木さんの送辞の紙事件。一見、二つは違う事件に見えますが、実は繋がっていて、諒太くんが寝落ちしたことで黒木さんの事件は未然に解決してたんですよ」
「……なん、だと」
「諒太くんが倒れたのは呼名が終わった後ですよね? あそこで諒太くんが倒れたおかげで数分卒業式が止まった。その間に生徒会室に置いてあった送辞の紙を持って来れたんです」
つまり……間接的とはいえ、俺が黒木を救ってたってことなのか?
「じゃあ……"あの日"っていうのは」
「あくまで私の憶測ですが、ワンチャンあの卒業式のことなんじゃないですかね?」
黒木は卒業式で俺に助けられたと思い込んで、俺のことを知り、さらに俺だけ告白されていないことに気づいたのか……?
(……って待て待て。その卒業式があったのは2年の最後だ。その時から狙われたとなると、そこから2年間もずっと俺は黒木にマークされてたってことか?)
「あっ! そろそろ教室に戻らないといけない時間ですね。諒太くん、降りましょうか」
「あ、ああ」
俺は胸の中でモヤモヤしながらも、田中と一緒に屋上を後にする。
2年の教室がある階まで来たら、田中は自分の教室に戻る前に「ちょっといいですか?」と俺を呼び止めた。
「色々話しましたけど、結局のところ諒太くんは黒木さんに告白しませんよね?」
「は? す、するわけないだろ!」
「で、ですよね! 諒太くんに告白なんて、無理ですもんね!」
なんかバカにされた感が凄いが……言ってることは正しい。
俺みたいな陰キャは、そもそも告白なんぞ不可能だからな。
「じゃあ私は戻りますのでっ」
「お、おう。ありがとうな、田中」
そう交わして、俺は田中と別れた。
田中のおかげでかなりスッキリしたな。
(果たしてあの卒業式が関係あるのかは分からないが、少し頭の中の靄が晴れた感じがする。今度田中にはお礼をしないとな)
スッキリした俺は、清々しい顔で教室まで戻って来た、のだが……。
「ねえ古文のテスト、愛莉と瑠衣は勉強して来た?」
「わたしはして来たよ? 愛莉は?」
「してなーい。瑠衣ちゃんカンニングさせてー」
「だーめ」
教室では美少女三人衆が席に横並びで話しており、俺の席は海山に座られていた。
(おいおい、陰キャが1番気まずくなる『そこ俺の席なんですが……』現象じゃないか!)
ここはどこかで時間を潰すか?
でも朝のHRまであと2分だし、さっさと座っておかないと……。
(海山なら俺が来れば退いてくれるはずだ)
俺はギュッと手を握り締めながら歩き出す。
背後から行くのではなく、前から席に向かうことで、海山に早めに俺のことを認識させるのが重要だ。
俺がゆっくりと自分の席へ向かっていると、不意に海山と目が合った。
(ど、退いてくれ海山……っ!)
そう念じながら俺が席の前まで来た時、海山は俺の気持ちを察したように、目をぱっちりと開ける。
「ああそっか! この席って諒太の席だったねー! ごめんごめん〜」
海山は席から立ちあがろうと……って、諒太!?!?
(ば、バカっ!)
つい声に出そうなほど、俺は焦る。
市之瀬と黒木の前で諒太呼びはマズイだろ!
「——諒太? あれれ? 愛莉って泉谷くんのことを下の名前で呼んでるの……?」
「「っ!」」
黒木の反応速度はまさに神速だった。
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