第23話 真実への追求02
「ここだけの話——女子の間で『黒木瑠衣に告白した男子リスト』なんてものを作る流れがあったんです」
「な、なんじゃそりゃ……」
「中学の時は同級生の男子がみんな黒木さんにメロメロだったので、他の女子たちにとっては何かと不都合なことが多かったらしいんですよ。同級生の男子が全員黒木さんに惚れてしまうという現象は異常でしたから」
「それは確かにそう、だよな……」
男の俺からしてもその異常さはよく分かる。
「不都合っていうのはどういうことなんだ?」
「黒木さんがモテるということは、他の女子からしたらお目当ての男子がなかなか振り向いてくれない事になりますよね?」
「それは、そうだな?」
「だからお目当ての男子が既に黒木さんに振られているのか知るために、女子は各々で見聞きした情報をlimeのグループに書き込んでリスト化してたらしいです。基本的に女子はそのリストを確認してからお目当ての男子にアタックしていたようですよ?」
「ま、マジかよ……っ!」
あまりにも中学生がやる事とは思えない衝撃的な内容に、俺は驚きを隠せなかった。
(女子ってそこまですんの!? こ、怖すぎんだろ……)
しかしながら黒木瑠衣という存在自体が、あまりにも稀有であり、イレギュラーな存在だったからこそ、他の女子たちは頭を使ってこんなことをしていたのかもしれない。
「まぁ〜? ぼっちだった私はたまたま体育の授業の際にリストの噂を聞いただけですけどね。諒太くんだけ告ってないって噂もたまたま小耳に挟んだというか……諒太くんは陰キャオタクだったので、そんな噂は誰の興味も引かずにすぐ消えましたが」
「ぐっ」
男としての尊厳を傷つけられて悔しいが、否定はできねえ……。
そもそも中学時代の俺は人生で1番キモかった思春期オタクの
推してる作品の爆乳デカ尻デカ腿キャラへの愛を、1万字ほど手紙に書いて作者に送ったり、毎朝推しキャラのフィギュアに向かって挨拶し、寝る前には「おやすみ」と言ってから寝ていた黒歴史もあるくらいだ。
(まぁそれくらい二次元が好きすぎて、
「てか噂で聞いたってことは、田中自身はその告白リストを見た事ないのか?」
「へ? わ、私?」
「陰キャオタクのお前でも、中学時代は思春期真っ只中だったろ? 好きな男子の一人や二人いただろうし、そいつらの情報とか知りたくなかったのかよ?」
「い、いや……私は……その……」
田中はメガネを外すとまた拭きながら俺の方をジッと見て来る。
田中は昔から驚いたり焦ったりするとすぐにメガネを拭く癖があるので、何か俺に隠し事をしていたみたいだ。
(なんだなんだ? 田中のやつ、実はオタクのフリしてクラスのイケメンに恋してました、的な少女漫画ヒロインだったのかー?)
「わ、私は……そもそも聞く必要が無かったと言いますか。聞かなくても知ってたと言いますか」
「は?」
「つまりー、そのー、そうっ! わ、私は推し一筋ですので! 昔は乙女ゲーのキャラでしたが、今はVの子を推してますし! もちろん諒太くんもそうですもんね!」
「あ、ああ。そうだな」
なんだ、田中もずっと二次元推しだったのか。
よく考えたら、田中とこんな恋バナみたいな会話するの初めてかもしれないから初めて知ったのだ。
(意外とクラスの陽キャ男子とか好きなんじゃないかと思っていたが……そりゃ二次元のイケメン見てたら三次元の男には戻れないか)
「やっぱ俺もお前も変わらないよなぁ?」
「………」
「ん? 田中?」
「……むぅ」
「なっ、なんだよ頬っぺた膨らませて。俺、怒らせるようなこと言ったか?」
「何でもないですっ。それより話を戻しますが、黒木さんのことで何か私に聞きたいことがあったのでは?」
「やべ、そうだった」
今は懐かしんでる場合じゃない。
田中に黒木が言ってた『あの日』っていうのについて心当たりがないか聞いてみないと。
「実は黒木のやつ、俺が中学の時から告白して来ないから、ずっと目をつけていたらしいんだ」
「告白して来ないから目をつける? え、どゆこと?」
「黒木は完璧主義すぎて俺だけ告白して来なかったのが気に食わなかったらしい。それでその話をされた時に黒木から『あの日からずっと』って言われたんだが、『あの日』っていうのかどうも気になってて……何か心当たりとかないか?」
「私が知るわけないじゃないですか! そもそも私と黒木さんの関係って、テストの1位2位で掲示板に名前が並ぶか、放送委員だった時に生徒会長の挨拶ですれ違うくらいしかなかったですし!」
あれ? 田中って俺よりも黒木と接点あったんだな。
俺は一度も話したことがなかったし、袖すら触れ合ったこともなかったんだが。
「つまり諒太くんは、黒木さんと何かしら接点を持った『あの日』っていうのが、そんなに気になるんです?」
「ああ。
「気持ちは分かります。でも、諒太くんが何かして黒木さんが関わったことなんてあります? 不良に絡まれてるところを助けてあげたとか、痴漢から救ったのが黒木さんだったとか」
「なんだよそれ、ラノベ主人公かよ」
「美少女グループに囲まれてるあなたは、十分ラノベ主人公の素質ありますけどね!?」
田中は珍しく凄い勢いでツッコんで来る。
「言っておくが黒木にラブコメの波動を感じさせるイベントは中学の時一切無かったはずだ。そもそも俺は人生で美少女を救ったことない」
「やっぱそうですよねぇ……諒太くんが黒木さんを救うなんて……ん?」
「どうした田中?」
「あ、いえ……なんか、ちょっと思い出しそうなことがあって、あれは、確か……そう……」
田中はブツブツ呟きながら何かを思い出そうとしている。
田中は何か知っていることがあるのだろうか。
俺には皆目見当がつかないが……。
「諒太くん。私一つだけ心当たりがあるかもしれません」
「は? マジで?」
「思い出したんですよ! 諒太くんが絶対に知らない黒木さんと諒太くんの接点を!」
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