3章 明日は明日の風が吹く

第20話 美少女たちのチャットルーム


 やあみんな。

 俺は陰キャオタクの諒太だ。


 陰キャオタクの放課後なんて、アヌメイトに行くか部屋にこもってゲームしながらアニメを観るだけだよな?

 俺もつい最近まではそんな生活をしていたんだが……まぁ、色々あって今は……。


「limeの返信……考えないと」


 limeの返信作業をしている。


 高校から家に帰るなり自室のゲーミングチェアに座ってダラダラとスマホをいじっていた俺だが、いつの間にかlimeのメッセージが溜まっていた。


 普段は親や姉からしかlimeが来ないのでスルーしているが、今回はその相手が……。


『市之瀬:ねえ、今度行く映画の話したいんだけど』


『海山:諒太見てー! バイト帰りにダンゴムシ見つけたー!』


『黒木から画像が送られて来ました』


 クラスカーストトップの美少女グループ3人から、limeが立て続けに送られ来るのだ。

 こんなの無視スルーできるわけない。


『市之瀬:乳きゅんの劇場版、一人だと恥ずかしくて行けなかったんだけど……泉谷なら付き合ってくれるよね?』


『海山:あー! 今度はオタマジャクシー! キモ可愛いー!』


『黒木から画像が送られて来ました』


 美少女三人衆からのlimeが一向に止まらない。


 3日前までオタク友達の田中としかlimeを交わしていなかった俺だが、たった3日で女子3人からlimeが送られて来るという、ナンパ男みたいな状況。


(男子、三日会わざれば刮目して見よ、とはまさにこの事だな)


 あー、返信するのめんどくせぇ……。

 というよりも、陰キャすぎてキモい返信をしないかシンプルに心配なのだ。


(とりあえず絵文字は少なめの方がいいかな? スタンプも市之瀬以外の二人にはアニメ系のヤツを使わないように……)


 こんなlimeすらまともに使えない陰キャに、トップクラスの美少女3人が構ってちゃんの如くlimeを送って来るのだから人生分からないものだ。


『市之瀬:映画の後はアヌメイト行きたいな。あそこも一人だと入りづらかったからさ』


『海山:わぁ〜! 見てー! 虹だよ虹! 諒太も窓から見えるかな? 雨止んだから空に虹がかかってるー!!』


『黒木から画像が送られて来ました』


 えーっと? 市之瀬は今度行く映画の話をしていて、海山は小学生ガキみたいな日常会話。そんで最後に黒木は……な、なんだ?


 さっきから謎に画像だけ送りつけて来る黒木瑠衣。

 ただでさえこいつだけは不穏な空気感があるというのに、なんでまたこんなlimeを……。

 これって見たらヤバい画像とかじゃないよな?


(とりあえず既読が付かないように長押しで………って、ん!?)


 黒木とのチャットルームを長押しした瞬間、俺は目が飛び出そうになる。


「なっ、なんだこりゃ……っ!」


 黒木から送られて来たのは——黒木本人が陸上部のユニフォームを着ながら自撮りした写真だった。

 大会の後に撮ったのだろうか、普段は流している黒髪をポニーテールに纏めており、肌の露出度も普段より高い。


 ピチッとした緑色のユニフォームに身を包んだ黒木瑠衣のスレンダーな身体。

 ユニフォームの構造上、腹部には布がないので、完璧美少女・黒木瑠衣の腰回りの細さと美しすぎるくびれが露わになっている。

 陸上部なら日焼けするはずなのにやけに真っ白なその引き締まった腹部。


 そして何より——チラッと見える"ヘソ"。

 俺はどうしようもなくそのヘソに目が行ってしまった。

 ただの陸上部の写真なら別に興味はない俺だが、この"ヘソチラ"には生唾を飲む。


 なぜなら、その縦長に伸びた黒木のヘソには指でなぞりたくなるほどのエロさがあったからだ。

 普段は見れないのに、チラッと見えてしまうという点においては、ヘソも乳頭も同じなのだからそこにエロさを覚えてしまうのも無理はない。


(な、なんちゅうエロさだ……)


 これまで黒木瑠衣のことは性的に見てなかった俺だが、この写真を見て黒木のヘソに変な感情を抱いてしまった。

 俺のへきをくすぐる、その美しいヘソのラインを見せつけられ、俺は歯を食いしばる。


「だ、だめだ、こんな自撮りで興奮したら、俺の負けだ……っ!」


 俺は長押ししていた指でもう一度タップしてしまい、チャットルームを開いてしまう。


(ヤバい既読がっ!)


 時すでに遅し……黒木からlimeのメッセージが、送られて来る。


『黒木:あっ、既読ついた♡ 陸上部のユニフォームを着たわたし、どうかな? 可愛いかな?』


 黒木は上機嫌な様子で訊ねてくる。


(くそっ……既読を付けたら黒木の思惑通りになっちまうのに……ミスった)


 黒木瑠衣は自分の完璧主義のため、唯一中学の同級生で告ってこなかった俺を、堕として告らせようとしている。


(つまり、俺がこの写真のヘソで興奮したことだけは悟られてはならない)


『黒木:その3枚の写真、特別に保存しても構わないよ? それを泉谷くんがどう使おうと、わたしには分からないからご安心を♡』


 もうシ●れと言わんばかりに黒木は誘って来る。

 つまりこれは俗に言う『エロ自撮り』のつもりなのか?


(……この写真の用途はさておき、とりあえず黒木のlimeはミュートにしよう)


 俺は黒木のlimeをミュートにして、スマホを閉じた。


「ほんと……まさかあの黒木瑠衣がこんな積極的に俺を堕としに来るなんてな」


 そもそもあの黒木瑠衣と相合傘をしたというだけでも、他人からしたらもの凄い価値のあるイベントだったに違いない。

 もしあの時市之瀬に声をかけられなかったら、俺たちはどうなってたんだろう。


(あれ、そういえば市之瀬が声をかけて来る前に黒木は何か言いかけてたような……)


……? とか、なんとか」


 黒木の言う『あの日』ってなんだ?


 中学時代に何かあったか……?


「皆目見当もつかないが……そうだ。田中なら、何か知ってるかもしれない」


 明日、田中に聞いてみるか。

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