第16話 空き教室で海山愛莉と×××


 おにぎり片手に3階の空き教室までやって来る。

 3階の空き教室は理科室や家庭科室が集まっているエリアなため、その授業がない限りほとんど人の出入りはない。


(あれ、でもこの空き教室っていつもは鍵がかかっているような……)


 疑念を抱きながらも空き教室の引き戸に手を掛けると、あっさり開いた。

 教室の中は前方に6つほど机と椅子があるだけで、他には何もない。


「諒太遅い〜」


 俺が入ると中では既に海山がランチタイムをしていた。


「ご、ごめん」


 俺は謝りながらも海山の隣の席におにぎりを置く。


「諒太のお昼、またそれだけなの?」

「あ、ああ」


 昨日と同様におにぎりだけだからか、海山が心配そうに訊ねて来る。

 単に金欠だからという理由もあるが、元々少食なため俺はあまり食べないのだ。

 一方で海山は、昨日も食べていたカツカレーのテイクアウト版をガツガツと食べていた。


(どんだけカツカレー好きなんだよ)


「昨日はちゃんとゲーセンまで行ったんだね?」

「そ、そりゃ、せっかく海山から教えてもらったんだし行かないと」

「そうだとしてもさ、マジで嫌なら普通はバックれるでしょ?」

「え、そう……なのか?」

「やっぱ諒太って真面目だねー」


 海山はそう言いながら口いっぱいにカツカレーを頬張る。


(褒められてんだか馬鹿にされてんだか微妙なラインだな)


「てか諒太ってさ、優里亜のこと好き何じゃないの?」

「は、はあ? 違う違うっ」


 俺みたいなミジンコが市之瀬が好きとか恐れ多い。


「そうなの? 諒太っていつも優里亜の方チラチラ見てるから、優里亜のこと好きなのかと思ってた」


 ま、マジか……市之瀬の太ももガン見事件の目撃者が本人以外にもいたとは。

 これからは適度に(太ももと胸を)見るようにしないとな……。


「そっかー。てっきり諒太が優里亜のこと好きだと思ったからしたんだけどなー」

「きょ、協力?」

「うん。昨日本当は愛莉が隣町のゲーセン行って確かめに行こうと思ってたから。でも諒太から優里亜と色々あったって聞いて、その仕事を諒太に譲ってあげたの。愛莉が恋のキューピットになれると思ってー」


 何が恋のキューピットだよ、脳内お花畑も大概にしておけ。

 もし昨日海山が俺の代わりにあの場へ行っていたら美少女グループ解散の危機だったんだぞ……!


「そもそもの話だが、市之瀬があのゲーセンにいるって情報は誰から聞いたんだ?」

「それは別のクラスにいる友達。隣町から来てる子なんだけど、駅で優里亜がゲーセンに入る姿を見かけたらしくて。また別の友達も同じ情報くれたから気になってたの」

「へぇ……そんなに友達が。海山って顔広いんだな」

「は? 小顔だし! めっちゃ美顔ローラーやってるもん! ほら、ほらっ」


 海山は俺に向かって必死にぶりっ子ポーズしながらアピールして来る。

 そういう意味じゃねえんだが。


「でも結局優里亜はいなかったんだよね? 友達の見間違いだったのかな?」

「さ、さあ……」

「直接優里亜にゲーセン行ってること聞いても答えてくれないよね?」

「それは、分からないが」


 答えれるわけないだろうな。

 まさかあの市之瀬優里亜が「爆乳美少女のプライスフィギュアを狙って通ってる」なんて口が裂けても言えないだろう。


「そういえば諒太さー、朝、愛莉と優里亜が来る前に瑠衣ちゃんと何かお話ししてなかった?」

「え……?」

「愛莉それが気になってて。瑠衣ちゃんと何話してたの?」


 もしかして海山はそれを聞き出すためにまた俺をランチに誘ったのか?

 しかも今回は学食ではなく、1on1で話せる空き教室……。


(そりゃ海山からしたら俺は自分の秘密を知る唯一の人間だ。友人である黒木と俺が話しているのを見かけたら気になるのも不思議じゃない)


 まだ俺も海山には信頼されていないってことか……分かっていたことではあるが。


「別に俺は海山との秘密をベラベラ話すほど、口は軽くないぞ? お前はそのことを疑ってるんだろ?」

「え? どゆこと? なんで今その話すんの?」


 海山はポカーンと馬鹿っぽい顔をしながらスプーンをペロリと舐めた。

 ……は?


「い、いや、だって俺が秘密を漏らしたかもしれないから、俺に探りを入れてるんじゃ」

「はぁ……諒太って愛莉のことぜんぜん分かってなーい! 愛莉はそんな小難しいことできないよ? もし秘密の件で諒太を疑ってるならストレートに聞くし!」

「そう、だったのか?」

「むしろ愛莉が聞きたいのは諒太のことじゃなくて、瑠衣ちゃんがやけにだった理由なのっ」


 ご、ご機嫌……?

 どういう意味だ?

 俺は黒木と話していた時の状況を思い出す。


(別にご機嫌ではなかったような……)


「瑠衣ちゃんってさー、いつも男子と話してる時だけは、チョー真顔なんだよね」

「ま、真顔?」

「なんていうかさ、『オメエの話は興味ねえ』って、話し相手に目で訴えるみたいな?」

「それって、市之瀬みたいな男嫌いってことか?」

「うーん、別に優里亜みたいな男嫌いではないみたいだけど……どこか男子を的な?」


 男を下に見てる……?

 た、確かに黒木は完璧超人であり、男子よりも学力や運動能力が高いが……。

 完璧超人の女子ゆえに、自分より劣る男という性別に対して歪んだ感情を持ってるとか?


「つまり黒木は男のことを嫌いではないけど、男という生き物が自分より劣っている『下等種族』みたいに思ってるとか……?」

「あー多分それかも! 愛莉バカだからよく分かんないけど、優里亜と違うのはきっとそれ!」


 市之瀬優里亜は単純に男とは馴れ合わず、女友達同士でいたいタイプの男嫌い。

 それに対して黒木は、そもそも男を同じステージの生き物だと思っていないタイプの偏向思想を持ってる……?

 つまり海山が言いたいのはこういうことか?


(仮そうだとしたら、黒木ってかなり性格悪いんだが……)


「それなのに諒太と話してる時の瑠衣ちゃん、なんか楽しそうだった……」

「そ、そうか?」

「席替えした日も思ったけど、瑠衣ちゃんが諒太のこと紹介してくれた時も機嫌良かった」


 そう言われると、俺が同じ中学だと二人に説明している時の黒木は明るかったな。


「そうだ! きっと瑠衣ちゃんは諒太のこと好きなんだよ!」

「はあ?」


 何言ってんだこの爆乳脳内お花畑。


「だから諒太と話してる時だけ表情が柔らかかったんだよ! 絶対そう!」

「短絡的すぎる……俺と黒木は席替えまで接点0だったんだぞ?」

「でも同じ中学だったんでしょ!? きっと諒太の知らないところで瑠衣ちゃんが惚れちゃったんだよきっとー! きゃー!」


 爆乳脳内お花畑は、両手で頬を抑えながら黄色い声を上げる。

 ダメだこりゃ……。


「あっ……愛莉いいこと考えちゃった〜」


 い、嫌な予感しかしない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る