第17話 黒木瑠衣はそこにいた


「じゃあ諒太っ、愛莉は先に教室に戻るから! 鍵は職員室に返しといて〜」


 海山は昼メシを食べ終わると、爆乳を縦に揺らしながら、すぐにどこかへ走って行ってしまった。

 相変わらず海山の胸はバルンバルンッと素晴らしい揺れ具合で動画に残したいレベルだ。


(海山は"いいこと"を思いついたとかなんとか言ってたけど、いいことってなんだろう)


 海山は思っていた以上に"アホの子"っぽいし、市之瀬の時みたいなを持ってこなければいいけど。


 海山は黒木が俺のことを好きという、とんでもない勘違いをしていた。


 あの黒木瑠衣が俺を好きとか、天地が翻ってしまうくらいあり得ない。


 俺と黒木の関係性を例えるなら、黒木はテレビの中で輝く人気アイドルで、俺はそれをテレビの前でコタツみかんしながら観る一般人。


 そんな一般人の俺のことを好きとかぶっ飛んでるだろ。


 だが、黒木が俺の時だけ態度が違うというのは気になるな。


(同じ中学出身のよしみだからか?)


 この高校は俺の母校である中学からは少し離れた場所にあるため、同じ中学の出身者は俺と黒木と、あとは隣のクラスのオタ友である田中くらいしかいない。

 またこの高校は県内トップクラスの公立進学校であり、入試を受けた同級生は多くいたのだがほとんどが落ちているのだ。


 そんな進学校になぜ海山のような爆乳脳内お花畑が受かっているのか、という疑問は置いておいて、黒木はきっと同じ中学出身者が珍しいから俺は対応が違うのだと思う。


(だから海山が考えているようなことは絶対にないな)


「ふっ……俺の陰キャ経験を舐めてもらっちゃ困る。その辺の勘違い陰キャじゃないんだよ俺は」


 俺は空き教室の鍵を閉めると、そのまま職員室へ向かった。



 ☆☆



 今日は午後の授業が終わるまで市之瀬の太ももを一度も見ることなく過ごした俺は、ダルい授業を比較的真面目に受けてやっと放課後を迎えた。


(さてと、今日の放課後は何をするか)


 一昨日は『おぱ吸い』をタツヤで購入し、昨日は隣町のゲーセンに行ったりと、最近は忙しない放課後を過ごしていたからなぁ……。


(今日は雨だし真っ直ぐ家へ帰るか。金も無いしな)


 俺は帰り支度を済ませるとカバンを片手に昇降口へ向かう。


 結局あの後も海山の思いついた"いいこと"の意味が分からなかったが……何だったんだ?


(今のところ俺に害はないみたいだし、何でもいいか)


 それより今日はWEB漫画の更新日だったな。


 今日の帰りはそれを読みながら帰——って、ん?


 下駄箱から靴を取り出して、前を向いた瞬間に目を見開く。


(は? なんで……)


 昇降口の前から、下駄箱の前にいる俺をシャフ度でチラッと振り向く黒髪の美少女。


「……あっ、やっと来た」


 昇降口には——紺色の傘を持った黒木瑠衣が立っていた。


「黒木……瑠衣……」


(なんで彼女が……ま、まるで俺を待っていたみたいな……ん?)


 黒木の手元をよく見ると、傘の持ち手にが巻かれていた。


「それは……お、俺のっ」


 理由は分からない。

 それでも黒木瑠衣は間違いなく、俺の傘である紺色の傘を持って俺を待っていたのだ。

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