第13話 激動の2日間
隣町のゲーセンで市之瀬の秘密を知ってしまい、これからはオタク趣味を共有するような関係になってしまった俺は、家に帰って来てからもベッドの上でそのことを考えていた。
「まさかクラスカーストトップでダウナーギャルの市之瀬優里亜がオタクだった……なんて」
爆乳美少女の海山が実は苦労人というのも意外だったが、あのダウナーギャルの市之瀬がオタクだったのはもっと意外だった。
しかも二人の秘密を知ったことで、あのエロボディを持つ二人と連絡先を交換する仲にまで発展してしまっている現状。
数日前まではクラスの隅でラノベを読んでいるオタク陰キャだった俺が、全男子の憧れである校内の美少女TOP3の2人と秘密を共有する関係になっている……ったく、まるでラノベだな。
(それもこれも、あの席替えで海山や市之瀬が俺を認識してしまったせいだ)
駅前のタツヤで働いていた海山だって、あの席替えで俺を認識していなければ、陰キャの俺のことなんて知らなかっただろうし、普通に店員と客として本を買えていた可能性も微レ存。
市之瀬だって隣の席の俺がラノベを読んでいるのを見かけていなければ、俺を認知していないはずだから多分こんなことに発展していなかったはず……おそらくきっと。
(やはり俺の平穏な高校生活は、あの席替えが原因となって脅かされているんだ)
より一層、あの席替えを提案した黒木瑠衣のことが憎く思える。
良くも悪くも変わってしまった俺の日常を黒木瑠衣に責任転嫁することでしか、俺は納得できなかった。
そんなことばかり考えていると、ポケットのスマホに通知が入った。
『♡海山愛莉♡からメッセージが届きました』
海山からlime? なんだろう。
俺は海山とのトークルームを開く。
『海山:ゲーセンで優里亜には会えた? あと朝のこと聞けた?』
そういや海山に相談したからこんなことになってるんだったな。
説明義務があるが……『市之瀬がオタクだっただけだよ!』なんて言ったら市之瀬にぶん殴られるかもしれない。
俺は上手いこと誤魔化すために『結局聞けなかった! すまん!』と失敗した
(まぁ、この事はこのまま有耶無耶にした方がいいからな)
『海山:そっかー。優里亜の言ったこと気になったけど、きっと大した事ないよー! 忘れよ忘れよ〜』
海山は軽い感じで俺をフォローしてくれる。
めちゃくちゃ大した事だったんだけどな。
『海山:ねえねえそれより諒太〜、優里亜のこと教えたんだから、そのお礼で今度はスノトの新作飲みたいな〜? 連れてってよー』
と、今度は何かと理由を付けておねだりして来る海山。
さては海山のやつ、カツカレー奢ってもらって味をしめたな?
(自分が苦労人って俺しか知らないからって甘えすぎだろ……!)
心の中ではムカつきながらも、俺は『今週は出費デカかったから来週なら』と返事をする。
男ってのはな、可愛い女に甘えられたら首を縦にしか振れない生き物なんだ(童貞)。
(てかあの海山愛莉とスノトに居るのがバレたら、海山ファンの輩に袋叩きに遭いそうなんだが……)
「ん? またlimeの通知だ……?」
すると今度は市之瀬優里亜からlimeが送られて来る。
『市之瀬:今日はあんがと。フィギュアのお礼しなきゃと思ったんだけど、良かったら今度映画とか行かね? あたしが奢るから』
映画……だと。
女子と二人で映画……こんなイベントが万年陰キャの俺の人生で起こるなんて……。
『市之瀬:嫌なら別のにするけど、どう?』
市之瀬は続け様に聞いてくる。
(こんなの……行くに決まってんだろ!)
俺は行く旨をlimeで伝えた。
こうして俺は『海山とスノートップスで新作のフラペチーノ』『市之瀬と二人で映画』というヤリチンみたいなスケジュールが出来上がってしまう。
「この前までラノベの発売日しか書いてなかったカレンダーに、陽キャさながらのイベント……」
あーもうダメだ俺……どうかしてる。
こんなの自分から平穏な陰キャ高校生活を壊しにいってるだろ!
(これが、恋愛脳ってやつか……)
認めたくないが、市之瀬優里亜と海山愛莉というクラスカーストトップ2と会話できているという背徳感はエグい。
なんせ相手は高校で男女問わず憧れの的なんだ。
そんな二人と一昨日までクソ陰キャオタクだった俺がこんな関係になってるのは……あまりにも現実味がない。
これも全部……黒木瑠衣の『せい』なのか『おかげ』なのか。
俺はふと、limeの『おすすめ欄』に目を向ける。
通話アプリのlimeには、友達の友達がおすすめに表示される機能があり、海山&市之瀬とlimeを交換してしまった俺は、そのおすすめ欄に黒木のアカウントが出ているのだ。
あの席替えは仕組まれたのか偶然の賜物なのか、真実は分からない。
ただ、もし仕組まれたのだとしたら、黒木瑠衣がなぜ俺みたいな陰キャをあの真ん中の席に置いたのか……。
(黒木は俺に何か恨みでもあったのか……?)
同じ中学出身とはいえ、黒木と俺は同じクラスになったこともなければ、話した事もなかった。
中学時代の黒木瑠衣はクラスの男子全員から告られたというヤバすぎる逸話を待つほどの人気を誇っていたし、俺みたいなミジンコのことなんて気にも留めてなかったはず。
「恨まれる理由がないし……やっぱり、たまたまだよな」
俺はそう思いながら、今日一日の疲れで重たくなった瞼をゆっくり閉じた。
——— ——— ——— ———
序章終了——次回から新章に突入。
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