第10話 ギャルの謎とオタクの眼光


 先程まで躍起になってUFOキャッチャーに100円玉をマシンガン投入していた市之瀬優里亜だったが、両替をするためにUFOキャッチャーの前からいなくなった。


 そんな市之瀬の様子を、陰キャらしく陰でコソコソ見ていた俺は、隙を見て市之瀬がやっていたUFOキャッチャーの台を確認し、その台の景品が目に飛び込んで来た。


「なんで……ギャルの市之瀬が、これを」


 それはあまりにもダウナーギャルに似つかわしくない、まさに


 長方形の黄色い箱に女の子のキャラが印刷されており、その箱には——『超絶爆乳美女アニメ・ちちきゅんのプライズ限定美少女フィギュア』と書かれていた。


「ばっ……ばば、爆乳!?」


 しかも超絶の、爆乳……だと?

(ちなみにオタク特有の早口解説で説明しておくと、超絶爆乳美女アニメ・ちちきゅんは土曜深夜にやってる紳士淑女向けの激エロR17.9999のアニメであり、常に水着姿の美少女たちが国の存亡をかけて自慢の爆乳で殴り合いをするというカオスなアニメ。CS版では爆乳のピンク色も解放されている激●コアニメであり円盤売り上げは令和最高を記録した)


 どうしてこんな、大きなお友達しか興味のない激エロフィギュアの台で市之瀬はUFOキャッチャーをやっていたんだ?


(まさか市之瀬は、このフィギュアを転売しようとしていた……?)


 確かに乳きゅんは昨年の夏アニメクールで覇権を取った超人気エロアニメだ。


 しかしながら、作品の人気と関係なくプライスのフィギュアなんて転売したところでせいぜい1000円から2000円くらいだろう。

 それに対して市之瀬は、既に3000円近くこの台に注ぎ込んでいる。


 間違いなく利益にはならない。

 そんなの一目瞭然なのに、果たしてそれは意味があるのだろうか。


(全く理由が分からない。こんな水着の爆乳金髪美女のフィギュアを手に入れたところで、市之瀬に何のメリットが……?)


「おいそこのお前っ、そこはあたしがやってた台で……って」


 前のめりになるくらいUFOキャッチャーの中を覗き込んでいた俺の真横には——。


「あ」

「あ」


 生まれてこの方16年。

 これまでも色んなことがあったが、間違いなく人生で一番気まずいことになった。


 ゲーセンの雑踏が一気に静まる。

 否——それは俺の感覚であり、ゲーセンは変わらずきっとうるさいままだ。

 ただ周りの騒音が聞こえないくらいに俺は、この状況に肝を冷やした。


 ミルキーブラウンのサラサラな茶髪と鋭い眼差しに長いまつ毛。

 俺の前にある爆乳フィギュアにも負けず劣らずの豊満な胸元と太もものムッチリ感。


 それを横目で確認した瞬間に俺は、市之瀬優里亜に見つかってしまったことを察した。


「なんで、あんた……」


 市之瀬はあんぐりと口を開けたまま、俺の方を指差す。


「あっ、あんたまさか……あたしの弱味を握るために……」


 またしても良からぬ勘違いが始まりそうな予感がしていた。

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