第9話 ギャルとオタク
『最近優里亜は水曜日に隣町のゲーセンに一人で通ってるみたいでー。水曜日はいつもノリが悪いの!』
海山から市之瀬が一人になる
そこまでして市之瀬から言われた言葉の意味を知りたいわけではないが、俺と市之瀬が険悪な関係だと海山が嫌らしい。
まぁ俺としても、このまま市之瀬に嫌われたままでは席で居心地が悪いからはっきりさせたい気持ちもある。
『いつも誰かと行動したがる優里亜が一人で行動とかめっちゃ珍しいんだよ? 何しに行ってるんだろうね? ちょっと心配』
(そんなこと俺にとってはどうでもいいのだが……)
まさか海山のやつ俺に上手いこと言って、市之瀬が一人で何やっているのか偵察させようとしてるとか……?
(それはさすがに俺の考えすぎか?)
半信半疑になりながも、俺は隣町の駅の商業施設内にある大きめのゲームセンターに足を進める。
(ここのゲーセン、懐かしいな)
俺もこのゲーセンには小学生の頃よく通っていた記憶がある。
毎週母親がセパタクローで隣町へ行っていたので、それに付き添って隣町に来ていた小学生時代の俺は、毎回このゲーセンに来てはムシがキングの某アーケードゲームをよくやったものだ。
何かと思い出が多いゲーセンだが、ここに市之瀬がいるなら早いところ探して目的を果たそう。
(ま、ギャルがゲーセンに来る理由なんてどうせ写真シール機とかだろ?)
そんな偏見が先行していたため、俺はまず写真シール機が集まったエリアへ向かう。
「ここが……写真シール機コーナー?」
どうやら最近は、コスプレをしながら撮る『コス写真』がJKたちの間では流行っているらしく、写真シール機コーナーには写真シール機だけでなくコスプレのレンタルコーナーもあった。
地元のゲーセンにはよく行く俺だが、隣町の方が都会だからかこのようなコーナーがあるとは。知らなかった。
「うっわー! このあーしの顔ウケるー」
「次はコスして撮ろうよー」
「おけおけー」
写真シール機のコーナーにいるのは髪の色が明るいギャルJKばかり。
(ここは陰キャの俺には場違い感が半端ない)
でも市之瀬はここにいるはず……。
そこからしばらく俺は変質者の如く目を光らせながら写真シール機を歩き回った。
……が。
「いない……な」
写真シール機のコーナーを歩き回って探したが、市之瀬の姿はなかった。
よく考えたら写真シール機を一人で楽しむわけないか。
(そもそも写真シール機で写真を撮りたいだけなら、海山や黒木を誘って行くよな?)
もし市之瀬が本当に寂しがり屋(?)なら、なおさらあの二人を誘って行くだろうし。
そう考えると、市之瀬が一人でゲーセンに来ているのは、あの二人に話せない何かがあるからこそだよな?
「はぁ……分かんねえ」
何でこんなに俺が考えなければならないのだ。
もういい。全部どうでも良くなって来た。
明日海山にはいなかったと言っておこう。
(せっかく160円の電車賃を払って隣町まで来たんだ。遊んでから帰るとしよう)
そう思って写真シール機コーナーを後にした俺は、UFOキャッチャーのコーナーへ。
「そういやSNSでウマJKの新作フィギュアが入荷したとか言ってたような……」
よし、せっかくならそのフィギュア取ってから家に帰ることにし——ん?
UFOキャッチャーのコーナーの一角を曲がろうとしたその刹那、曲がり角の方向に見覚えのある後ろ姿があることに気がついた。
明るいその茶髪と整った容姿。
海山に負けていない豊かな胸とスカートから垣間見える太ももを見た瞬間、俺は誰なのか気づいた。
(いたっ! あの胸と太ももは間違いない。市之瀬優里亜だ)
どうやら市之瀬はUFOキャッチャーをやっていたようだ。
一人でゲーセン来てUFOキャッチャーって……陰キャとやってること変わらんぞ。
俺は別のUFOキャッチャーの陰で身を隠しながら彼女の様子を伺う。
「……ちっ。全然上手くいかないし」
どうやらかなり苦戦しているようだ。
しばらくしたら市之瀬は財布から千円札を出して両替機の方へ行ってしまう。
(俺が見つけてからも10回近くやってるし、あそこまで注ぎ込むくらい何が欲しいんだ?)
市之瀬が両替で退いたことで、やっていたUFOキャッチャーの景品が見え……???
「……は? う、嘘だろ……」
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