第7話 イイコト教えてあげる♡
「カツカレー特盛! ルーだくだくで!」
4限終了後に昼休みに入り、昨日交わした約束通り、海山と学食に来た俺は全く遠慮のない海山にカツカレー特盛(1000円)を奢らされていた。
(約束をしてしまった以上、俺は文句を言わない。というか言えない)
いくらオタク陰キャな俺でも男としてのプライドがあるんだ。
(というか、うちの学食のカツカレー大盛りってかなりの量だと思うが)
そう思った矢先、受け取り口から出て来た大盛りのカツカレーは、大盛りの白米に8切れの分厚いカツと、香ばしいカレーが溢れるスレスレまで注がれていた。
見た目からしてかなりボリューミーで、見てるだけで腹がいっぱいになりそう……(あと胃もたれもしそう)。
今日は俺(残金的にも)おにぎり一個でいいや……。
俺と海山は各々昼食を持って二人席に向かい合って座った。
海山愛莉とランチ……こんなイベントが起きるなんて一昨日の自分に言っても信じないだろう。
こうやって海山と向かい合うのは昨日以来2回目だが、何度見ても海山の顔面偏差値は東大合格レベルだし、胸に関してはハーバード主席レベルだ(断定)。
それに陰キャの俺は、女子とのランチなんて中学の給食以来だ、
とにかく緊張がヤバい……。
(食事のマナーにはより一層気を遣わねばならぬ)
「今日は奢ってくれてあんがとね? あと、結構高めのメニュー頼んでごめんね?」
「別に、昨日のお礼だから……」
「諒太はおにぎり一個でいいの?」
「俺、少食なんで」
残金的におにぎり一個で我慢しなければならないんだが、それは言わないでおこう。
「諒太って律儀だね」
「律儀? 俺が?」
「だって愛莉、マジで奢って貰えるとは思ってなかったから。あんなの口約束だし有耶無耶にされちゃうかなーって」
全然信用されてないな。
いくら陰キャだとはいえ、俺は絶対に約束を守る人間なのに。
「てか、さっきから思ってたんだけど」
「ん?」
「なんか愛莉たち見られてない?」
ふと周りを見回すと、確かに若干男子たちから殺気と嫉妬のこもった眼差しが俺に向けられている。
「なんだよあの男。どこのクラスだ?」
「海山愛莉と二人で……羨ましすぎるだろ」
「はぁはぁ僕の愛莉たんが……はぁはぁ」
そりゃ、こうなるわな。
海山自身は自覚がないみたいだが、海山愛莉にはアイドル的人気があり、全校にファンがいる。
そんなアイドルがこんな陰キャと二人で向かい合って飯食ってたらスキャンダルどころじゃない。
(グッバイ。俺の平穏なスクールライフ……)
「おーい諒太? 聞いてる?」
「えっ! ひゃ、ひゃいっ!?」
俺が周りに気を取られていると、海山から話しかけられる。
「もぉー、無視とかサイテー」
「ご、ごめんなさい。許してください何でもしますから」
「そんなガチ謝りしなくても……ま、いいや」
海山はスプーンで豪快にカレーを食べながら話を始める。
「今朝の話なんだけど」
「う、うん」
「諒太、優里亜と何か話してなかった?」
げっ……あれ見られてたのか。
海山は止まることなく口の中にカツカレーを頬張り、咀嚼してゴクッと飲み込むたびに口を開く。
「話してたというか、軽く会話を交わしただけというか……でもなんでそんなこと聞くの?」
「ああ、諒太って1年の頃は他の組だった? なら知らなくても仕方ないか」
「ん??」
ど、どういう意味か全く分からない。
「優里亜ってね、1年の頃から男子とは滅多に喋らないの」
「えっ? そう、なのか?」
「うん、だから優里亜が諒太と話してるとこ見かけてびっくりしたー」
あの市之瀬が男子とは滅多に話さないなんて……。
市之瀬はギャルだし普通に彼氏とかいると思っていたから意外だ。
「んで、優里亜とは何の話してたん? もしかしてムフフな話だったりー?」
「ち、違う! 俺は市之瀬に『覚えたから』と言われて……」
「優里亜に? どゆこと?」
(それはこっちが聞きたいんだが……)
「うーん、覚えたからって何だろうね?」
「お、俺もできれば知りたいけど……ちょっと……」
ダウナーギャルの市之瀬に陰キャの俺が話しかけるのはあまりにハードルが高すぎる。
「それなら優里亜の親友である愛莉から聞いてあげてもいいけど?」
「ほんとか?」
「あ、でもタンマ! やっぱそれじゃ面白くないから」
「は?」
海山はカツカレーを完食すると、手を合わせながら俺の方にまたお得意のウインクをする。
「今から特別にイイコト教えてあげるから、諒太から優里亜に直接聞いてみなよ」
「い、イイコト……!?」
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