第6話 油断も隙もありゃしない


 ——翌日。


「んん……? もう、朝か」


 俺はカーテンから差し込む朝の日差しで目が覚めた。

 ふう、今日は金縛りに遭わなかったので遅刻はしないだろう。


(それにしても昨日はとんでもない一日だったな)


 今日の占いは射手座が3位となかなか良いので安心だ。

 とりあえず、福袋に入っていた例のレインボートランクスは特●呪物ということで捨てることにした。


(全ての元凶はこのトランクスに違いない)


 昨日は席替えで、クラスカーストトップの美少女3人に囲まれたり、美少女グループのデカパイ担当・海山愛莉の過去まで知ってしまったりと散々だったからな。


(海山はただのデカパイムチムチ美少女だと思っていたが……まさかあんなに苦労していたとは)


 人は見かけで判断してはいけないってことか。


「ちょっと諒太ー! はやく朝ご飯食べないと姉ちゃんがあんたの分も食べちゃうよー」

「はいはい」


 姉に急かされて俺は朝食へ向かうのだった。


 ☆☆


 優雅な朝食を済ませてから高校に登校して来た俺は、自分の席へ座ってバッグからラノベを取り出す。

 昨日海山のおかげで買えた念願の『おぱ吸い』書籍版。


(書籍版はどこまでエロ描写があるのか非常に楽しみだな)


「なんであんなオタクが……」

「だよな、席替えした意味ねーよ」

「あいつオタクだし2次元にしか興味ないだろ? ほんと変わって欲しいよなぁ」


 俺が一人でラノベを読もうとしていたら、どこからか嫉妬に満ちた陰口が聞こえて来た。

 どうやらクラスメイトの男子がわざと俺に聞こえるように言っているようだな。


(はぁ……こうなるからあの美少女3人と近い席になるのは迷惑なんだよ)


 そりゃ爆乳美女とダウナーギャルと黒髪清楚に囲まれてる俺の席は、他の男子にとっては垂涎ものかもしれない。


 しかし、オタク陰キャの俺にとっては最悪の席だ。

 百歩譲って海山の身体デカパイを性的に見ていたことは認めるが、そもそも俺はあの3人と親しい関係になりたいとは思っていない。

 下手にあの美少女たちに干渉したら、俺の平穏な高校生活が失われるからだ。


(俺はこうしてラノベを読めるだけで満足満足一本満●なんだよ)


 さてと、周りの騒音は無視してラノベに戻るとしよう。


(ほうほう……やっぱ主人公が女冒険者たちのおっぱい吸ってチートスキル奪いまくるシーンは圧巻だな。エロさ100点。シコ●ティも100点。うん合格だ)


 なんて考えながら鼻の下を伸ばしていると、俺の席の前に人影が……ん?


「……お前、たしか泉谷だっけ」


 ラノベをじっくり読んでいると、いつの間にか目の前に市之瀬優里亜がいた。

 ……は? 市之瀬優里亜!?


 制服のブレザーを着崩して右肩のワイシャツだけ露出しながら、肩にバッグをぶら下げて持つダウナーギャル。

 薄ピンク色の魅惑な唇に光沢のあるネイルと、相変わらず目立つ明るい栗色の髪。


「お前の名前は泉谷なのかって、聞いてんの」

「え、あ、はっ、はいっ」

「……っ」

「あの、市之瀬……?」


 市之瀬は俺の手元にあるライトノベルに目を向けると、ジトっと目を細めた。

 な、なんだなんだ?


「……覚えたから」


 市之瀬はボソッと呟くと、俺の左隣にある自分の席に座る。


 覚えた……って、ど、どういう意味だ!?


 よくヤンキーが言ってる『お前の顔覚えたからな?』みたいなヤツか?


 やべぇ……さっそく市之瀬から嫌われてるじゃねえか。

 やはりオタクに優しいギャルは存在しない。

 ただ海山はまぁ……オタクに優しいギャルというより誰にも優しい爆乳ギャルみたいなものだから例外だな。


 ん? そういや海山といえば……俺、何か忘れているような…………あ゛っ。


(そうだ。今日の昼は海山と……)


「おはよー優里亜ー? あっ」


 市之瀬に朝の挨拶した海山は、次に俺の方を見ると、何も言わずに俺の方へ右目でウインクして来る。


「ちょい愛莉、なんでウインクしたん?」

「あ、いや、なんとなく? 今日も愛莉は可愛いっしょ?」


 焦り気味に誤魔化す海山。

 お、おいおいおいおい! 

 なんか裏で付き合ってるカップルみたいじゃねえか!


(もしも俺が、勘違い陰キャオタクだったら一瞬で堕ちていたが……ふっ、全然大丈夫だ。心臓の動悸くらいで済んだな)


 ったく、この調子だとランチはもっとやばい事が待ってそうだな……。

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