第3話 揺れる想い(爆乳)
黒木を睨んでしまった俺は、そのまま黒木と会話を交わすことなく、机から取り出したラノベを読み始める。
黒木はなんていうか不気味な感じもするし、下手に干渉しない方がいい。
「うっわ、オタクくさー」
俺がラノベを読んでいると、海山が蔑むような目で見て来る。
「ねえ優里亜、オタクくさいよねー?」
「…………」
「優里亜?」
「人の趣味を馬鹿にするのは違うし。ほっといてあげな」
「なーに優里亜、優しいじゃん」
「そういうのじゃないから。ほら別の話しよ」
意外にも市之瀬のフォローのおかげで、海山のオタク弄りは終わった。
(もしかして市之瀬は俺を守ってくれたのか……? いや、さすがにそれはないか。すぐに自分を助けてくれたなんて思うのはオタクの悪い
3人はそのまま黒木の席でガールズトークを始める。
もし俺がこの席にいなければ、海山が俺の席に座って3人並んで喋れたかもしれないが……残念ながら陰キャの俺はトイレ以外で席を立つことはない。
また、空気を読もうとも思わない。
(残念だったな美少女三人衆)
なんて俺が考えてるのを彼女たちは知る由もなく、3人は仲良しトークに花を咲かせていた。
俺はいつも通りラノベを読むつもりだったが、こうも美少女三人が真隣で会話していると集中力が散漫してしまう。
あと三人の香水がやけに甘ったる匂いがするのも鼻につく。
「瑠衣ちゃんと優里亜が近くの席で、愛莉チョー嬉しいっ。席替えやったの大正解だよ!」
海山が胸元の爆乳をバルンバルンと縦に揺らしながら喜ぶ。
(でっっっっっっか)
「愛莉ったら喜びすぎじゃね? 席なんて離れててもこうやって集まればいいのに」
サバサバしてる市之瀬は、ダウナーな感じにチクッと言う。
「相変わらず優里亜は冷めてるなぁ〜。瑠衣ちゃんは嬉しいよねっ?」
「もちろんっ。わたしも優里亜と愛莉が近くの席になって嬉しいな」
黒髪清楚で気品のある雰囲気を醸し出す黒木は、小さく微笑みながら答えた。
くっ、お前のせいで俺は……。
「今日の放課後にあたしコスメ買いに行くんだけど二人はどう?」
「わたしは陸上部休みだから大丈夫。愛莉は?」
「あ、愛莉はね……えっとー」
急に歯切れが悪くなる海山。
おいおい、さっきまでの威勢はどうしたんだ?
「ごめん今日はパス! 彼ピが放課後スノトに行きたいって言っててー。あはは」
「そっか。それなら仕方ない」
「うん、ほんとごめんっ」
海山には彼氏がいるのか。
まぁこんなバカみたいに乳のデカい爆乳女を世のイケメンが放っておくわけないもんな。
(彼女のことだ。どうせ毎日彼氏とズッコンバッコンやってるんだろう)
別に羨ましいとは思っていないが……。
あの胸を揉める男の背徳感は計り知れないだろう。
「おーいお前ら席つけー。授業始めるぞー」
1限目の教師が教室に入って来たことで、美少女三人衆の会話は終わり、各々席に戻って行った。
☆☆
——放課後。
夕陽を背に高校から出ると、校門の前で大きなため息をつく。
「はぁ……なんて一日だ」
遅刻しそうになったり、席替えで美少女たちに囲まれてしまったり、他の男たちからの嫉妬の視線が痛かったり……。
今日一日を総括すると最悪の一日だった。
ラッキーカラーの虹色を身につけるために履き替えて来た俺のレインボートランクスは、全くの無駄だったということになる。
「仕方ない。憂さ晴らしにアヌメイト行くか……」
残金2000円。これなら漫画が2、3冊は買える。
俺には漫画やラノベの世界さえあればいい。
リアルの陽キャ女やギャルは陰キャの敵でしかないからな。
そもそも現実にこんなラブコメ展開が起こること自体が間違ってるんだ。
そんな不満を脳内で噛み砕いていると、一人の女子生徒が俺の真横を小走りで駆け抜けて行った。
(あれ、この甘ったるい香水は……)
そう、海山愛莉だ。
教室で前の席の海山から香ってきた香水を思い出した。
「やばやば……店長に怒られるっ」
ゆるふわなアンダーツインテとその胸元の爆乳を、たゆんたゆんと揺らしながら、やけに急いでいるようだった。
店長……?
よく分からないが、そういや海山は放課後にデートで彼氏とスノトに行くとかなんとか……ってあれ?
おかしい。
海山が走って行った方角にはスノトは無い。
そもそもうちの高校の生徒がスノートップスに行くとしたら、高校の真横にある商店街のスノートップスに行くのが自然だ。
しかし海山の走って行った方角は真逆で、スノートップスは無い。
(どうせ彼氏が別の高校にいるからそっちに向かっているのだろう。俺にはどうでもいいな)
それ以上、海山のことは考えず、俺はアヌメイトに向かうのだった。
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