第2話 衝撃の事実
現実を受け入れられない俺は、前黒板に書いてある自分の席を何度も確認する。
しかし何度見たところで俺の名前に間違いはなく、俺の名前はこのクラスの美少女三人衆に囲まれていた。
(これは……どう考えても最悪の席じゃないか)
あの三人は何もしていなくても周りの視線を集めるほどの存在感と美貌の持ち主であり、誰もが認めるクラスの中心。
そんな中心である三人に囲まれた中央の席なんて……地獄でしかない。
俺は教室の隅でひっそりラノベを読みながらニヤニヤしてるのが理想なんだ。
それなのにこんな席じゃ、落ち着いて本も読めないだろ。
陰キャの俺に太陽を近づけるんじゃあない。
「泉谷の席、黒木さんたちに囲まれてるぜ」
「神席だろあれ」
「マジ羨ましいよな……」
クラスメイトの男子たちから羨望と嫉妬の眼差しが俺に向けられる。
俺は鬱屈な気持ちになりながらも、荷物を抱えて地獄の席に座る。
すると目の前の席には既に
海山は『カワイイ』の権化と言われるほど、何から何まで"可愛い"と人気の美少女。
その両肩に垂れた明るい髪色のアンダーツインテールは、ゆるふわウェーブで可愛らしくアレンジされており、ぱっちりと開いたまん丸で大きな瞳とそのあざといアヒル口はあざとさを感じさせる。
元々の顔立ちが整っているのもあるが、メイクやネイルでバフをかけているのもあって、他の女子と比べると垢抜けてる感が凄い。
また、クラス男子たちが海山に対して熱視線を送るのはただ可愛いと言うだけではなく、そのデカすぎる胸も一つの理由だろう。
高校の制服がパツパツになるくらい豊満でたぷんと実った彼女の大きな二つの果実は、男なら誰もが二度見三度見してしまうくらい立派で、彼女に苦手意識を持っている俺でさえ初めて見た時はおったまげた。
腰は細いのに胸と太ももがムチッとしているのはグラドル並みに反則のスタイルだと思う。
「愛莉おはよ」
「あっ、優里亜じゃん。おはおは〜」
俺が海山のことを考えていると、今度は美少女三人衆の二人目、
市之瀬は俺の左隣の席に荷物を置くと席に座る。
「あたしらの席近いね?」
「だよねー? 瑠衣ちゃんが近くにしてくれたのかな?」
「かもね」
(何が「かもね」だ。
「今日の優里亜のネイルめっちゃ綺麗ぇ。トップコート変えたの? それともオイルかな?」
「別に大したことしてないし」
市之瀬はクールに言うと自分のスマホに目を落とした。
市之瀬優里亜は鋭利な目つきと尖った性格が特徴的なダウナーギャル。
染めたことが一目で分かる栗色ロングヘアはいつも綺麗に靡き、艶のあるそのピンクネイルはギャル味がある。
シャープで小さな顔つきと可愛いというより美人な顔立ち。海山ほど大きくないが程よく大きなその胸や細い腰回りはスタイルの良さを感じさせる。
2次元のギャルはそこそこ好きな俺だが、現実のギャルは大の苦手だ。
(この世界にはオタクに優しいギャルは存在しない。あれは空想上の生き物なのだからな)
「てか瑠衣ちゃん遅いね? おトイレかな?」
「さあどうだろね。あ、山田が来たよ愛莉。前を向かないと」
市之瀬が言った瞬間、廊下から担任教師の山田が現れ、続けて委員長の黒木も教室に入って来た。
「全員席に着け」
鬼の山田が竹刀を片手に言うと、ビビった生徒たちは大人しく席に着く。
山田と来た黒木も自分の席である俺の右隣の席に座った。
(黒木……お前のせいで、俺はこんな最悪の席に座ることになったんだぞ)
「席替えは終わったみたいだな? お前ら、あんまり浮かれるんじゃねえぞ」
山田が鋭い眼光で生徒たちを見回す。
やっぱり山田の威圧感は半端ないな……。
「今回は委員長の黒木が『どうしても』と言うから特別に席替えを許可したが、席替えなんて無駄なものは二度とないと思ってろ。朝のHRは以上だ」
山田は地面に向かって竹刀をパシンッと一発叩くと教室から出て行った。
(はぁ……やっと山田の朝のHRが終わった……って、ん?)
ちょっと待てよ。
今、山田のやつ……"二度とないと思ってろ"って言わなかったか?
(2年の最後までこの席のままなのか⁉︎⁉︎)
「う、嘘……だ」
俺は絶望した。
俺の平穏な高校生活が崩壊する。
この三人に1年間囲まれるくらいなら、不登校になる方がマシだろ……。
「——泉谷くん、久しぶり」
俺が顔面蒼白していると、右隣から澄んだ綺麗な声が聞こえて来た。
この声は……。
「今日からお隣さんだね? よろしくっ」
黒木瑠衣……。
彼女こそ今回の一件における全ての元凶であり、このクラスの学級委員長。
艶やかで緑なす黒髪ストレートは大和撫子そのもので、優しそうな垂れ目と整った顔立ちをしており、そのスレンダーな身体つきはモデル体型という方が相応しいほどスラッとしている。
可愛いというより美しい、そんな美人委員長さんが急に話しかけて来たことに、俺は正直びっくりしている。
言っておくが、俺と黒木はこの5年間一度も話したことはないのだ。
「瑠衣ちゃーん、何話してんのー?」
「……瑠衣、そいつと知り合いなの?」
美少女三人衆の二人がそう訊ねながら黒木の席まで歩み寄って来る。
市之瀬に関しては俺を「そいつ」呼ばわりしながら指を刺して来た。
「うーん。今まで話したことは無かったけど、実はわたしと泉谷くん、同じ中学だったから」
そう——俺と黒木は同じ中学出身だ。
中学時代から黒木の一挙手一投足は周囲の注目を集めており、生徒会長に陸上部部長、さらには全国模試1位の肩書きを引っ提げ、人気や人望を欲しいままにしていた。
あの黒木瑠衣が俺みたいな底辺陰キャの名前を覚えていたこと自体が意外だった。
なんで黒木は俺に接触して来た?
たまたま隣の席になったからか?
何はともあれ、俺は絶対にお前を許さねえぞ黒木瑠衣……。
俺が睨むと、黒木は不敵な笑みを浮かべていた。
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