第4話



 ハルは、耳を澄ましている。


「お爺さん?」


「聞こえて来たかい?」


「笑い声が聞こえる」


「皆んな揃っているかい」


「うん、皆んなの笑い声が聞こえる」


「本当に皆んな、なのかな?」


「うん、皆んなだよ」


「足りないものは無いかい?」


 ハルは涙を流しながら首を振る、


「うん、無いよ」


「いいや、足りないものはある」


「無いよ、皆んな幸せそうだもの」


「足りないもの、それは君自身だ」


「お爺さん・・・」


「今聞こえている笑い声は、未来の声だ」


「分からないよ」


「あの笑い声は君が揃った時の声なんだよ。さぁ、その時の穴を潜って、向こうへ行くんだ」


「でも、僕、また捨てられるところから始まるのかな?」


「未来を信じるんだ」


「怖いよ」


「安心するんだ、ハル。君は捨てられない。君の家族の知り合いに母犬が居る。そこで飼われている母犬に五匹の子供が生まれる。そのうちの一匹が君だ、ハル。そこへ、お母さんがやって来る。君がお母さんを見つけたら、ただひたすらお母さんを見つめるんだ。決して目を逸らしちゃ駄目だ。まっすぐに見つめるんだ、きっとお母さんは分かってくれるはずだ。さぁ、行くんだ、ハル。皆んなが待っている」


「お爺さんは?」


「私の飼い主は老齢で亡くなって、今は人のお里に住んでいる、同じ世界だ、いつでも会いに行ける。そして彼が転生した時に私もそっちの世界で生まれるつもりだ」


「僕も、年寄りだ」


「湖に顔を写してごらん。ハル、君は子犬だ。グズグスしていないで、時の穴が塞がらないうちに、行くんだ、ハル」


 ハルが時の穴に前足を一歩入れた途端に、毛が抜けて、裸になり、どんどん小さくなって、意識が無くなっていった。

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